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2-7 黒き暗殺者たち




 乾いた大地を流れる大河、その大河にかかる巨大な石橋。

 大きな掛け声が響くなか、その石橋の中央で解放軍と国軍が互いにぶつかり合おうとしていた。

 その解放軍の先頭に立って走るクロコとクレイド。

 足の速いクロコがクレイドより少し先行する。

 先頭のクロコと国軍の先頭の兵士が接触したその瞬間、


 ヒュンッ!


 国軍兵の体が吹き飛ぶ。クロコの剣は振り抜かれていた。

 クレイドもそれに続く。


「おらぁー!!」


 ギュンッ!


 クレイドが巨大な剣を高速で振り抜くと一度に三人もの兵士が宙を舞った。


 クロコは目にも止まらぬ動きで、高速の斬撃を振りまわす。

 国軍兵は次々と斬り伏せられる。


 クレイドが剣を振るう毎に数人の国軍兵が宙を舞う。


 国軍の陣形が中央から引きちぎられる。


 その様子を少し後ろのベイトム隊長は冷や汗を流しながら見ていた。


「こいつらは、本当に…………えーい! この機を逃すな! 二人に続けー!!」


 解放軍兵が敵陣の中央になだれ込む。


 石橋は巨大とはいえ地上と比べ幅が限られる。そのため敵兵はクロコとクレイドを一気に取り囲むことができない。それをいいことに二人は石橋の真ん中で縦横無尽に暴れまわる。


「おおぉ……」


 ケイルズヘルの兵士達も二人の異様な勢いについ見入ってしまう。

 敵陣は中央から押し出される。端っこの国軍兵の一部が押し出され石橋から大河へと落ちてゆく。


 パンパン!


 敵軍から信号銃が放たれた。


「いったん引けー!! 引くんだー」


 国軍の指揮で隊が後退していく。


「逃がすなー!! 追撃!」


 解放軍の指揮官が叫ぶ。


「当たり前だろ!!」


 クロコはさらに前に出ようとする。


「待て!!」


 クレイドの声でクロコは足を止める。


「クロコ、あんまり一人で出過ぎるな」


「ちぇっ」


 解放軍はクロコとクレイドを中心にして国軍に追い打ちをかけようとするが、国軍の一部が陸地から石橋に向け大砲を撃ちつけ足止めしてくる。その隙に石橋から国軍が下がっていく。解放軍はそれをなんとか追う。



 国軍は陸地にある岩石帯まで下がると陣形を整える。十m近くある大きな丸形の岩石がそこら中に点在している。

 追撃に失敗した解放軍は少し距離を置き、同様に陣形を整えた。



「いけーっ!! 突撃だー!」


 解放軍の指揮官が叫ぶ。


「ひるむな!! 向かい撃てー!」


 国軍の指揮官も叫ぶ。


 二つの大群が再びぶつかる。

 クロコとクレイドは先頭に立ち、再び剣を振るう。


「おい、クロコ、気をつけろよ! この複雑な地形じゃあ、戦局が入り組むぞ」


「関係ねー! さっきの橋よりさらに囲まれにくい!」


 クロコとクレイドは陣形の中心となって、次々と国軍兵を斬り伏せる。再び国軍の陣形が左右に割かれる。


 国軍の指揮官が叫ぶ。


「陣形を両翼に展開! 地形を盾にしつつ解放軍を攻撃!!」


 解放軍の陣形が左右に分かれ、囲むように展開する。


 それに応じ解放軍の指揮官も叫ぶ。


「敵はこちらを挟み撃ちにする気だ!! 後退しろ! 後退しつつ陣形を両翼に展開! 向かい撃てー!!」



 両者の指示が飛び交う中、二つの軍の陣形は互いに複雑になっていく。気づけば、岩のすき間すき間に兵士が入り込み、乱戦状態になっていた。

 しかしクロコは構わず目の前の敵を斬り伏せる。


「はぁ……はぁ……」


 クロコの息が少し切れ始まる。

 その時だった。軍服とは違う、黒い衣装に身を包んだ者がクロコの前に立ちはだかる。他の兵士達とは明らかに異質な雰囲気を持っている。


(なんだ、こいつは……? いや、どこかで見たことある。そうだ、こいつは国軍のアサシンだ)


 クロコがそう思ったその時、アサシンが一瞬でクロコの間合いに入る。


(……!! 速い!)


 ヒュンッ!


 アサシンは大型のナイフで素早くクロコに斬りつける。クロコはそれに反応するが、避けきれず、肩をわずかに切り裂く。


「……このっ!」


 クロコはアサシンの右を一瞬でつく。アサシンはそれに素早く反応するが、次の瞬間、クロコは左をついた。


 ヒュンッ!


 アサシンは反応し、後ろに跳びかわす。


「なにっ!」


 アサシンはさらに距離を取り数本のナイフをクロコに向かって飛ばす。基地で戦ったアサシンのナイフよりもはるかに速い。しなるように飛びクロコを襲う。


「くっ!」


 クロコは避けきれず、わずかに足を切り裂いた。


「このっ!!」


 クロコは下がったアサシンに向け駆け出す。しかしアサシンは後ろに飛び、クロコと一定の距離を取る。そしてナイフを飛ばし攻撃してくる。

 クロコは負けず、ナイフを紙一重で避けつつ何とか距離を詰めようと駆け寄る。

 しかしタイミング悪くナイフを投げられ、なかなか近付けない。

 それでもクロコはあきらめず距離を縮めようと駆ける。


 その様子に遠くにいたクレイドが気付いた。クレイドはすぐに状況を把握する。


「クロコー! 深追いするなー!! おびき出されてるぞー!!」


 クレイドはクロコに向けて叫ぶ。しかし距離があり過ぎて無数の爆音でかき消される。

 クレイドはすぐにクロコの方へ向かおうとするが、目の前に何重もの兵士の群れが立ちふさがる。


「クソ……!」



 クロコはアサシンに向け突進する。しかしアサシンは岩場をピョンピョン飛び越えクロコの追撃をうまくかわす。クロコはそれにいらつきながらも冷静にアサシンのナイフを見切りながら追った。


(クソッ! いつまで逃げ回る気だ)


 クロコとアサシンは巨大な岩を飛び越え、乾いた大地を駆けた。その時だった。アサシンは急に動きを止め、大型ナイフをゆっくりと構える。クロコもそれを見て足を止める。


「やっとやる気になったな」


 クロコがそう言った、その時だった。


 スタッ……


 ナイフを構えたアサシンの隣に全く同じ衣装を着たアサシンが現れた。


「……!! おいおい二人かよ」


 クロコは少し驚いた、その瞬間ハッとした。


 クロコの周りを囲む無数の岩。

 その巨大な岩に無数の黒い影が点々と見える。クロコはギョっとする。

 その影一つひとつ全て同じ、黒い衣装に身を包んだ姿をしていた。

 クロコはその人影、一つひとつに目をやる。


(一,二,三,四…………おいおい、二十ぐらいいるぞ……)


 まわりにはクロコとアサシン達以外、国軍兵の姿も、解放軍兵の姿も無い。その時初めてクロコは気づいた。はめれた、ここに誘い込まれた、と。

 クロコのこめかみから嫌の汗がにじむ。


「もしかして全員おまえぐらい強いとかって……ないよな……」


 クロコはナイフを構えるアサシンに向かって言った。アサシンは取り合わない。


 岩場にいたアサシン達が次々と降りてゆき、クロコを囲むように近づいて来る。

 さすがのクロコも寒気がした。

 総勢二十以上のアサシンが十mほどの距離を取ってクロコをゆっくりと囲んだ。


 一人のアサシンが手を挙げて、合図を送った。

 次の瞬間、三人のアサシンが陣形を組み、クロコに突撃してくる。その三人が三人、先ほど戦ったアサシンと同じレベルのスピードを持っていた。


「……!! 冗談じゃねえぞ!!」


 クロコは剣を構える。

 一人のアサシンが正面から斬りつけてくる。


 ヒュンッ!


 クロコはそれをかわすが、その途端、残り二人のアサシンが左右から挟む。


 ヒュンヒュンッ!


 一撃はかわした。しかしもう一撃が腹をわずかに切り裂く。


「くっ!」


 クロコは高速の斬撃を無数に放つ。


 ヒュンヒュンヒュンヒュン……!


 アサシン達はその斬撃をかわしながらクロコの周りから散る。次の瞬間、間髪入れずに数十本のナイフがあらゆる方向から高速でクロコを襲う。


「クッソーッ!!」


 クロコはそのナイフを、いくつかは避け、いくつかは剣で払いながら防ごうとする。しかし数本のナイフがクロコの体のあちこちを切り裂く。

 クロコはわずかによろめく。その時だった、遅れて放たれた最後のナイフがクロコの心臓に向かって進んでくる。


「くっ!!」


 間一髪でナイフを叩き落とした、次の瞬間だった、一人のアサシンがクロコの背後をついていた。


「しまっ……!!」


 アサシンの斬撃がクロコの首を切り裂くその瞬間、


 ギュンッ!


 強烈な斬撃音と共にクレイドがクロコの横から現れる。

 アサシンはそれをとっさにかわし、距離を取った。


「よう、クロコ。元気か?」


 大地に立つ巨大な体。クレイドはクロコを見てニッと笑う。

 クロコもそれを見て少し笑う。クロコの軍服はすでに無数の傷で赤く染まっていた。


「見たとおりピンピンだ……」


「そりゃあ、なによりだ」


 アサシン達は一定の距離を取り、二人の様子を見ている。予期しない来客に戸惑っているのだろうか。

 二人は囲んでいるアサシン達を見る。


「おいクレイド、こいつら何モンだ。前に戦ったアサシンより……」


「格が違う、か? こいつらはおそらく第一アサシン部隊だ」


「第一アサシン部隊?」


「六つあるアサシン部隊の中でも精鋭だけを集めた最強の部隊だ。全く情報がなかったあたり、さすがアサシンってトコだな」


「……で、正直、この状況はどうだ?」


「言うまでもなくメチャクチャ悪いだろ」


「まったく、どうぜならもっと味方を連れて来てくれりゃーいいのに」


「急いでたもんでな。おかげで間に合っただろ?」


「まあな」


 クロコはニヤッと笑った。

 クレイドはアサシン達を見渡したあとアサシン達の方向を見ながら口を開く。


「クロコ……おまえは俺の背中を守れ」


「ん……?」


「俺はおまえの背中を守る。少人数が多人数と戦うときはこうするんだよ。背中を守れば囲まれる範囲が狭められる」


「なるほどな」


 クロコはそう言って、クレイドに背中を向ける。

 それを見てクレイドが静かに口を開く。


「できるか? 俺の背中を徹底的に守るんだぜ」


「やってやるよ。おまえの背中を徹底的に守る」


 その言葉を聞いてクレイドはニヤッと笑い、大きな背中をクロコにつける。その背中はクロコの倍以上はあるだろう。

 背中越しにクレイドが話しかける。


「ならクロコ。おまえも俺のことを絶対に信じろ……! 俺は死んでもこの背中を守る」


 クロコはその言葉を聞いてニッと笑う。


「オッケー……わかったよ」


 二人は背中をつけ、周りを囲むアサシン達をにらみつける。

 クロコが静かに口を開いた。


「いくぞ」








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