2-6 ケイルズヘル防衛戦開始
それは昼頃のことだった、ケイルズヘル基地の指令室に一人の兵士が飛び込んできた。
「ローズマン司令官! 偵察隊から敵軍あり、との情報です!!」
「規模は?」
「お、およそ50000!!」
クロコ達の待機している大部屋にベイトム隊長が駆け込んできた。
「敵軍を確認した。戦闘準備だ!」
巨大なスティアゴア台地に寄り添う巨大基地。その石畳で覆われた広い敷地内で、兵士達が隊列を組む。60000近くの兵士が基地の敷地を埋め尽くしていた。
その中でクロコはそれを見渡しながらクレイドに近づく。
「すげぇ数だな」
「ああ、俺もこんな数初めてだ」
「そういえば、敵軍ってどこにいるんだ?」
西には純白の町並み、東にはスティアゴア台地、北と南には乾いた大地が広がっている。クロコにはどこから敵が攻めてくるのか見当がつかなかった。
「よく考えてみろクロコ。国軍領は東だから、敵軍はあのスティアゴア台地の向かい側だ。ケイルズヘル基地っていうのはスティアゴア台地っていう巨大な盾を持った天然の要塞なんだよ」
「……じゃあ敵はどこから攻めてくんだよ」
「地図を見たんだがルートは二つあるな。一つはスティアゴア台地を回り込んで南側から攻めてくるルート。もう一つは回り込んで北側から攻めてくるルートなんだが……クロコ、アレを見ろ」
クレイドはスティアゴア台地北側の水しぶきを指さした。
「アルティマイアの滝が作る大河で北側のルートが閉ざされてる。だが、この大河の数km下流には巨大な石橋が設置されている。少し遠回りになるがそのルートでも攻めてくることができる」
「つまり、ルートはこの二つか。だけどクレイド、石橋の方をぶっ壊せばルートは一つに絞れるんじゃねーか?」
「壊したら壊したでこっちも困るんだろ。それにかなり巨大な橋だ。あんなもん壊す予算があったら軍備に回すだろ」
「ケチな話だな」
「解放軍は金に困ってるからな……」
ケイルズヘル基地内の指令室、そこに司令官と副司令、数人の軍人が待機している。
司令官は年齢三十代前半、白いぼさぼさの髪と面長な顔、ぶしょうヒゲを生やした長身の男だ。
「ローズマン司令官、敵軍が動き出しました!」
指令室に兵士が飛び込んでくる。
「どう動いてる?」
ボサボサ頭の司令官ローズマンは兵士に聞く。
「戦力を二つに分けています。北側の橋ルートに15000、南側の大地ルート5000です」
「なるほどな……」
ローズマン司令官が指令室の中央に置かれた正方形の机の前に立つと、他の軍人達もそれに応じて机を囲む。
ローズマン司令官は机上の地図に目を向けると、地図上のスティアゴア台地の東側を指さす。
「敵の本陣はスティアゴア台地の向かい側、向かい側つっても、情報によればかなり北寄りに配置されている」
ローズマン司令官の横に立つ副司令がそれを見てアゴをさする。
その副司令は年齢三十代前半、短い黄色い髪で、ほおが少しこけており、眼鏡をかけている。
眼鏡の副司令が口を開く。
「本陣の設置はかなり北寄り……ちょうど橋ルートでも大地ルートでも、ここと等距離になる位置取りですね」
「ああ、そうだマルトフ。そして敵は隊を二つに分けこっちに攻めてきた」
眼鏡の副指令マルトフは眼鏡を少し上げる。
「敵の現在の総戦力は約50000、数ならばこちらが上回っていますが……」
「まだ集結しきってないだけさ。まだまだ増えるぞ。今回の二ルートでの同時攻撃も、規模を考えると状況把握のためのジャブみたいなもんだ」
「どう出ますか?」
「こっちもしっかり答えてやろうじゃないか。橋ルートには12000、大地ルートに8000、総戦力はむこうと同じだ」
「どのような作戦で?」
「橋ルートには四番隊と援軍、大地ルートには一番隊と二番隊、それとミリアを行かせよう。まず大地ルートの敵を蹴散らす。そのあと橋ルートへ時間差で増援を送ろう」
「増援で大地ルートの兵も使うおつもりでしたら、大地ルートでは敵を少し引きつけた方が良いですね」
「ん? ああ、そうか、そうだな」
基地の敷地内でベイトム隊長が声を張り上げる。
「我が軍はケイルズヘル軍と共に北ルートにて敵軍を叩く!」
クロコはそれを聞いて目を鋭く光らす。
「さて、いよいよ始まりか」
クレイドも隣で目を光らす。
「ああ、そうだな……!」
その時、クロコの横をフッと人影が横切った。ミリアだ。黒い軍服も着て小型の剣を腰に差している。
「ミリア」
クロコが名を呼ぶとミリアはクロコの方を向き、無表情で口を開く。
「なんだ、おまえか」
「なんだとはなんだ!」
ミリアは黙ってクロコを少し見たあと口を開いた。
「動きを見る限り、おまえたち隊の目的は敵の足止めだ。私が南の大地ルートで敵を片付けてそっちに駆けつけるまで、しっかり時間を稼いでおけ」
ミリアはそれだけ言うとスッと立ち去った。
「あの……女……!! 偉そうに!」
クロコは腹を立てている。
「ああ、おまえの言う通り、なんて偉そうなやつだ……!!」
隣で聞いてたクレイドも怒っていた。
それから間もなくクロコたちフルスロック軍は、他の援軍とケイルズヘル軍と共に北の橋ルートへと進んだ。
ひび割れたか茶色い大地を12000の大軍が行進する。
クロコは周りを見渡す。周りには乾いた大地が広がり、近くには大河が流れている。その大河に沿う形で軍全体は進んでいる。
「うわっ!」
突如クロコの足元が急に崩れ、片足が丸ごと地面に沈む。
「おい、大丈夫か?」
クレイドが片手でヒョイッとクロコを持ち上げた。
「な……なんだ? 急に地面が沈んだぞ」
「気をつけろよ、特に足元に。ここは極端に水を吸い込みやすい土地なんだ。そのせいでそこら中が乾燥しきって、地面の所々が陥没するらしい」
「そ、そうなのか……」
「……で、地面に吸い込まれた水の一部はスティルゴア台地の上から吹き上がってるらしいんだ。不思議なモンだな」
「……クレイドにしてはやけに詳しいな。フロウじゃあるまいし、気持ち悪いぞ」
「ほっとけ! ココに行きたいってやつがいたんだ。昔そいつに聞いたんだよ」
「ふーん」
しばらく進んだ時だった。解放軍は初めて足を止めた。
解放軍の目の前に大きな石橋が広がる。
その向かいに国旗を立てた巨大な青い軍服の大群が見えた。グラウド国軍だ。
巨大な石橋を挟んで向かい合う黒いセウスノール解放軍と青いグラウド国軍。国軍の方が少しだけ軍の規模が大きいように見えた。
しばらくの静寂が流れる。
パンッ!
国軍の方から銃声が響く。それと共に国軍部隊がかけ声と共に一気に石橋を駆けだす。
解放軍もそれに応じ動く。解放軍の部隊も一気に石橋を駆けだす。
石橋の中央に向けて黒と青の集団が一気に押し寄せる。
解放軍の先頭、複数の剣兵隊と共にクロコとクレイドも駆けだす。
国軍に向かって駆けながらクレイドがクロコに話しかける。
「おいクロコ。どうやらこっちの目的は足止めらしいぞ。どうする?」
「どうするだって? 決まってるだろ」
クロコは眼を鋭くする。
「全員ぶっとばす……!」
それを聞いてクレイドがニヤッと笑う。
「気が合うな……俺もそうしてやろうと思ってたんだ」
クレイドは並の数倍はある巨大な剣を構える。
「全員吹き飛ばす……!」
クロコも大型の剣を構える。
「全員切り伏せる……!」
次の瞬間二人の声が重なる。
「「あの女が来る前にな!!」」
二人は一気に前に飛び出し、先頭に立った。