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1-16 それは突然に




 赤い大地に展開するセウスノール解放軍とグラウド国軍。

 両軍の激しい戦いが続く中で、戦場の中央付近でその出来事は突然起きた。


 我が目を疑うブレッドとクレイド。

 スコアのすぐ近くには、一人倒れこむサキの姿があった。その距離は20mにも満たない。


「サキ!!」


「どうなってやがる!」


 ブレッド、クレイドがほぼ同時にサキの方へと駆け出した。



「うっ……」


 サキは訳も分からずなんとか身を起こした。その瞬間だった、

 サキとスコアの目が合う。スコアの氷のように冷たい視線を浴び、サキの背筋に寒気が走る。


「くっ!!」


 サキは急いで剣を構えた。


「バカヤロー!! すぐに離れるんだー!!!」


 ブレッドが力の限り叫ぶ。


 スコアは自分に剣を向けるサキを確認すると、恐ろしいほどの速さでサキの方へと向かってくる。


 もう遅かった。

 サキとスコアの距離は一瞬で縮まる。次の瞬間サキの視界からスコアの姿が消える。サキのすぐ横に突如スコアが現れる。

 サキの視界にスコアの姿が映った時、もう手遅れだった。


 ヒュンッ




 ギィンッ!!


 スコアの剣はサキの体を切り裂くことは無かった。

 サキとスコアの間に間一髪でブレッドが入り斬撃を止めた。


「ブ、ブレッドさん」


「バカヤロウ……!! 早く離れろ……」


 ブレッドの剣を握る手からは、スコアの強烈な斬撃を受け止めたことで血がにじんでいた。

 その姿をサキはぼうぜんと見ていた。


「早く離れろー!!!」


 ブレッドはサキをにらみ大声で叫ぶ。サキはハッとして急いで駆けだし離れる。


 スコアと一対一で対峙するブレッド。


 クレイドもブレッドの方へと駆け寄ろうとする。しかしその距離はあまりにも遠い。


 スコアは後ろへ飛び、いったんブレッドとの距離をとる。

 その様子をブレッドは冷や汗を流しながら見る。


「逃がしちゃ……くれねぇだろーな」


 ブレッドは思わず苦笑いしながら剣を構える。スコアもブレッドに向けて剣を構える。


 先に動いたのはブレッドだった。

 ブレッドは洗練された動きでスコアの懐に入ると素早く剣を振り下ろす。しかしスコアはその一撃を難なくかわす。しかしブレッドは動じない。


(そうだ、当然かわす、左に、そういう一撃だ……左側、今度こそとらえる!)


 ブレッドはスコアの動きを眼で追う。ブレッドよりもはるかに速いスコアの動き。スコアはブレッドに向け強烈な斬撃を放つ。ブレッドの眼はその動きをわずかにとらえた。


 ギィンッ!


 スコアの一撃をブレッドは素早く受け止める。


(とらえた……!)


 しかし強烈な剣圧にブレッドの体は飛ばされ、わずかに浮き上がる。


「……!! くっ!」


 スコアはそのブレッドの体を追いかけ一気に懐に飛び込む。宙に浮かび上がったブレッドの体は身動きをとることができない。


 ヒュンッ!!


 スコアの一撃がブレッドの体を容赦なく切り裂いた。

 ブレッドの体から大量の血しぶきが上がる。


「ブレッドーッ!!」


 クレイドの叫びが辺りに響く。


 ブレッドの体は力無く地面に倒れこんだ。

 スコアは倒れたブレッドには目もくれず、再び防衛ラインを見つめる。

 そして再び駆けだす。しかしすぐにスコアの動きが止まった、いや止められた。

 スコアの足を地面に倒れこんだブレッドの右手がつかんでいた。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ」


 ブレッドは、口の中からは血がこぼれ、体からは大量の血が流れていた。

 それでもブレッドはわずかに痙攣する右手で、スコアの足をつかんで離さない。苦しそうに息をするブレッド。

 スコアはその姿にわずかだが戸惑った。

 ブレッドは痙攣する体に逆らいながら、もう片方の腕、左腕を上にあげると最後の力を込めて友軍に向け、ある合図を送った。


 その合図を遠くで見たアストリアは一瞬驚きの表情を浮かべる。そのあと戸惑いの表情を浮かべる。しかしすぐに眼を鋭くし、くちびるに力を入れ覚悟の表情をした。そして力の限り大声で号令を出した。


「全砲兵隊、標的『瞬神の騎士の再来』に向けて……砲撃準備!!!」


 そのアストリアの気迫のこもった叫びに、砲兵隊の兵士全員が驚くほど早く反応する。全ての大砲がスコアの方へ一斉に向いた。


「一斉砲撃! 撃てーッ!!」


 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドドドドドンッ! ドンッ! ドドンッ! ドンッ!


「な……!!」


 スコアは初めて焦った。


 ドォーンッ! ドドォーン! ドォーン!


 スコアとブレッドのいる一帯が爆風に包まれた。


 そして爆風がおさまると辺りを砂煙が包む。


 その様子をサキとクレイドはぼうぜんと見ていた。


 大量に上がった砂煙が風にゆっくりと流されると、そこにはブレッドの体だけが地面に置き去りにされていた。


「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」


 そのわずか後方に息を切らしたスコアの姿があった。剣を持った右腕の軍服は裂け、そこからわずかに血が流れている。その時だった。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 国軍の方から銃声が上がった。


「撤退だー! 一時撤退ー!!」


 両翼に分かれた国軍は打撃を受け、さらにスコアも攻めあぐんだ末に負傷。その状況を見た国軍の指揮官は一時撤退を命じた。


 その号令と共に国軍兵が次々と下がっていく。

 スコアは悔しそうに防衛ラインの方を一瞬見ると、その後サッと立ち去っていった。



「ブレッド!!」


 クレイドは撤退途中の国軍には目もくれずに走った。

 そして倒れたブレッドに駆け寄る。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 ブレッドはわずかに息をしていた。


「おいっ! ブレッド! 大丈夫か!? ブレッ……」


 クレイドはブレッドに呼びかけ体を起こそうとした。しかしブレッドの体から流れる大量の血を見て思わず声を失う。


「……!!」


 クレイドは思わず目をそらした。


「クレ……イ……ドか?」


「……! ブレッド!!」


「スコ……アは……?」


 ブレッドは弱々しい声だった。


「撤退した、だからもう大丈夫だ……!」


 クレイドは力強い声を絞り出す。しかしその声はわずかに震えていた。


「ブレッドさん!」


 サキもブレッドに駆け寄る。だがブレッドの状態を見てそのままぼうぜんと立ち尽くす。


「足止めは、作戦は……成功したのか……?」


「ああ、十分時間は稼いだ……だからクロコ達の作戦には何の支障もないはずだ……」


「そうか……そいつは、……!!」


 ブレッドはそう言いかけて激しくせき込む、口の中から血が流れた。


「ブレッド、もうしゃべるな……」


「ハ……ハハ、どうやらオレはダメ……そうだな……」


 ブレッドがそう言うとクレイドの歯がわずかにギシッと鳴った。


「ダメなわけねぇだろ!! 助かるさ」


「クロに……すまないって……言っといてくれ」


「伝えたいことがあるなら自分で言え……!」


「それと…………もう……いっしょには……進めない……だけど……おまえは決して進むのをやめるな……進み続けろって…………」


「ブレッドさん……!」


 サキは震える声でブレッドの名を呼んだ。


「ふざけんな!! おまえは死なねぇ! 生きるんだよ!!」


 クレイドは大声で叫んだ。


「フッ……、そうだな……ありがとな……クレイド」


「礼なんて言うな……!」


 ブレッドはフッと空の方に目をやった。


「きれいな……雲だな」


 ブレッドは空に浮かぶ雲を静かに見つめる。


「オレも……もう少し……もう少しだけ…………」


 ブレッドはゆっくりと目を閉じた。




 そしてそのまま動かなくなった。




「チクショウ……! チクショーッ!!!」


 クレイドは大声で叫ぶと、拳を地面に叩きつけた。大地に鈍い音が響く。


「ボクの、ボクのせいだ、ボクのせいで……ブレッドさんが……」


 サキは地面に力無く膝をついた。


 小さな風が赤い土を飛ばした。

 空は嫌なほどに晴れわたっていた。






「……ん?」


 目的地に向かって走っていたクロコはフッと後ろを向いた。


「どうした? クロコ君」


 フロウがクロコの様子を不思議そうに見た。


「……いや、なんでもない」


(なんだ、なんで今オレは振り向いた……?)


「それよりクロコ君、そろそろのはずだよ」


「ああ、そうだな」


 クロコはそう言った直後、急いで足を止めた。それに合わせてフロウも足を止める。

 巨岩同士のわずかな隙間から巨大な金属の固まりが見えた。


「クロコ君、あれが……!」


「ああ、グラン・マルキノだ!」


 クロコは剣の柄をギュッと握る。


「作戦スタートだ」








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