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1-15 最終線の攻防



 岩石が点在する赤色の大地が広がる。

 その大地に灰色の防壁が長く続く。ここはウォーズレイ基地を守る最後の砦、第五防衛ライン。

 クロコ達の作戦開始から約二十分、第五防衛ラインの前にグラウド国軍が現れた。青の軍服を着た兵士達の大群。


 国軍は一定距離まで近づくと動きを止め、ジッと様子をうかがう。


 しばらくの静寂が続く。


 国軍の中にスコア・フィードウッドの姿もあった。

 スコアは深い青い瞳で解放軍の方向を見つめる。


(あの中にクロコが……)


(……………………)


(……いや、今は戦うことに集中するんだ)



 解放軍側、最終防衛ラインの中央にアストリア司令官が立っていた。いつものおっとりとした雰囲気は消え、緊迫した表情で国軍を見つめる。


「さて、いよいよだ。久しぶりの戦場……アレをやるのも久しぶりだな」



 パンッ!


 信号銃が響く。


「突撃っ!」


 国軍から攻撃の合図が出る。それと共にかけ声を上げ無数の国軍兵が防衛ラインへと押し寄せてくる。

 スコアは国軍の中央前衛に立ち、いち早く防衛ラインへと距離を縮める。


 その様子を見たアストリア司令官の表情が険しくなる。


(やはりスコア・フィードウッドを中心にして攻めてきたか。しかしこちらもそれは計算している!)


 スコアが防衛ライン200mほど手前に近づいた時、


「砲撃開始っ!」


 アストリアの号令と同時に六門の大砲がスコアを一斉に砲撃する。


 ドドドドドドンッ!!


 大砲はほぼ同時にスコアに向けて放たれた。スコアはそれを素早くかわす。


「第二、一斉砲撃!」


 ドドドドドドンッ!!


 別の砲兵隊がスコアの避ける方向を狙いすましたように同時に砲撃を放った。


「くっ!」


 スコアはその砲撃も素早い身のこなしでかわす。


 ドドドドドドンッ!!


 しかしさらに間髪入れずに別の砲兵隊がスコアに砲撃を放った。


「……ッ!!」


 大砲の爆発の一つがスコアにカスる。大砲の砲撃は絶えずスコアを狙い続ける。

 アストリアは複数の砲兵隊に同時に指示を出し続ける。


「第一、砲撃準備! 第二、大砲をC3方向! 第三、A4方向! 第四、一斉砲撃!!」


 砲兵隊はそれに応じ完璧な連携で、間髪入れずにスコアを狙い続ける。その砲撃はスコアの避ける方向まで計算に入れて放たれ続けた。


「……クソッ!」


 その砲撃の嵐に、さすがのスコアも避けるのみで防衛ラインに近づくことができない。アストリアは休むことなく指示を出し続ける。


(国軍は先の作戦で砲兵隊を多く失っている。それによって生じたこちらの砲兵隊の上回り分をスコアの足止めに使う。あとは……)



 国軍の指揮官は敵の予想外の足止めに戸惑う。


「くッ……! 敵の砲兵隊のほとんどは『瞬神の騎士の再来』に向いている。こちらは両翼に分かれて防衛ラインを崩せ!」


 国軍は砲撃の集中している中央を避け、両翼に分かれて進軍を開始した。


 北側と南側に分かれた国軍は防衛ライン近くまで一気に攻めてきた。その時、


「がっ!」


 北側の先頭の兵士が切り伏せられる。ブレッドを先頭にした隊が立ち塞がる。


「ぐあっ!」


 南側の先頭の兵士達が吹き飛ばされる。南側にはクレイドを先頭にした隊が立ち塞がる。


 北側のブレッドがニヤッと笑う。


「『瞬神の騎士の再来』を相手にするよりはずいぶんマシだな」



 南側のクレイドが剣を構えて言う。


「ホントはリベンジしたかったが……」



 サキはブレッドと同じ北側、その後方の陣形に加わっていた。


(僕も、少しでもみんなの力になるんだ!)



 ブレッドは洗練された動きで敵兵を切り伏せ、陣形の中央を切り崩す。それに解放軍兵たちが続く。


 クレイドは巨大剣を振り回す、その度に敵兵が宙を舞う。


 南北に分かれた国軍の陣形は、北はブレッド、南はクレイドを中心とした部隊によって徐々に切り崩される。

 さらにアストリアの指示による完璧な連携の砲撃で、スコアは完全に足止めされていた。


 国軍の指揮官はその様子にぼうぜんとする。


「おのれ……どうなっているんだ!」



 その間も絶えずアストリアは砲兵隊に指示を出し続ける。


(ここまでは作戦通り、とはいえ足止めは砲弾の球が尽きるまで……あとは彼らの成功を信じるしかない)






 その頃クロコとフロウは地図に示されたとおりのルートをひたすら走っていた。

 地図で示されたルートは、形の悪い岩壁のせいで所々が非常に狭く、また足場は一部岩石が盛り上がっているせいでひどく悪かった。

 それでも二人は足を止めることなくひたすら走り続ける。


「はあっ、はあっ、はあっ」


 フロウが少し息を切らしながら傷口を抑えた。


「おい、大丈夫か?」


 クロコは少し後ろを走るフロウの方を見た。


「心配無用だよ。それよりグラン・マルキノまであと少しだ。気を抜かないで」


 二人は走り続ける。





 一方、第五防衛ライン、南北に分かれた国軍はブレッドとクレイドによって完全に攻めあぐんでいた。

 しかし中央では無数の爆音が響く中、ある変化が起きていた。


 ドドドドドドンッ!


 ドドドドドドンッ!


 砲兵隊の兵士のほとんどが戸惑いの表情を浮かべていた。

 連携は今まで通り狂うことなく完璧に行なわれている。

 しかしその砲弾の嵐の中、スコアは信じられないほどの素早い身のこなしで砲撃を紙一重で避けながら、少しずつ少しずつ防衛ラインへと近付いてきていた。


「こ、こんなことが……」

「化け物だ……」


 砲兵隊のほとんどがその光景を「信じられない」という表情で見ていた。それは絶え間なく指示を出しているアストリアも同様であった。


(『瞬神の騎士の再来』……まさか、これほどまでとは)


 アストリアの額から汗が流れる。しかしアストリアはキッと目つきを鋭くする。


「動じるな! 敵はこちらに近づけば近づくほど砲撃を避けづらくなる! 第一、A7方向! 集中するんだ!」


 その間もスコアは素早い身のこなしで砲弾の嵐を紙一重でよけながら、ジワジワと防衛ラインに近づいてくる。その鋭い眼は防衛ラインの方だけを見つめていた。


 スコアは少しずつ少しずつ近づいてくる。


 本来近づけば近づくほど大砲との距離が短くなるため避けづらくなる。しかしスコアが防衛ラインに近づく速度は逆に速くなっているようにさえ見えた。


「なんなんだよ! あいつは」

「く、くそっ!」


 目の前にある信じ難い光景、そしてソレがジワジワと近付いてくる恐怖。それにより、砲撃に集中していた兵士達の感情が徐々にあらわになってくる。


「第一、一斉砲撃! 落ち着け、砲撃することだけに集中するんだ!」


 アストリアは指示を出しながらも兵士達をなだめた。


(まずい、これ以上近づかれると北側の友軍を巻き込みかねない……あと少し、あと少しもたせるんだ)



 スコアが近づけば近づくほど砲撃部隊の兵士達の表情から恐怖の色が濃くなる。

 その中でひときわ恐怖を表に出していた兵士が一人いた。その兵士は手を震わせながら必死に大砲をスコアの方へと向けていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 その兵士は恐怖を押し殺しながら必死でアストリアの指示に従っていた。次の瞬間、一瞬だけその兵士とスコアの目が合った。スコアの氷のように冷たく鋭い視線を浴びた瞬間、兵士の心は恐怖に支配された。その兵士の体が完全に固まる。


「第二、一斉砲撃!」


 アストリアの声がその兵士の部隊に砲撃命令を出した。その瞬間、その兵士はハッとして急いで大砲を構える。


「お、おい! どこ向けてんだ!」


 同じ隊の兵士が焦った声を出した。


「えっ?」


 その大砲の照準はあろうことか北側の解放軍の方を向いていた。


「し、しまった!」


 気づいた時にはもう遅かった。


 ドンッ!


 スコアに向けられるはずだった大砲の弾は無情にも北側の部隊に向け飛んでいく。

 その砲撃の先には四、五人の解放軍兵士、その中にはサキの姿があった。

 自陣の中から爆炎が上がった。

 突如自陣で起こった爆発。兵士達の悲鳴が響く。サキは直撃こそ避けたが、小さな体は爆風と共に飛ばされた。


 スコアがその様子に気づく。そして“ある状況”を確認すると素早く横へと駆けた。


 砲撃の指示を出していたアストリアもその状況に一瞬困惑する。しかし次の瞬間ハッとして素早く号令を出す。


「撃ち方やめー、すぐにやめるんだ!!」


 アストリアは大砲の砲撃を止めた。


 突然の爆発、そして砲撃の中止、それに多くの解放軍兵が反応する。それと共にブレッドとクレイドも爆発のあった方向を見た。


「な……なんなんだ、これ……」


 ブレッドは我が目を疑った。

 なんとサキが一人、部隊から外れ、スコアのすぐ近くに倒れこんでいた。その距離はわずか20mにも満たなかった。







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