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6-16 最後の決闘




 二つの剣がぶつかり合い、鋭い金属音を響かせた。

 その直後、クロコとスコアは同時に後ろへ跳び、互いに距離をとった。

 剣を構えたままにらみ合う二人。

 クロコはわずかに視線を漂わせた。周りに倒れている仲間の姿を見る。


「クロコ……」


 少し離れた所で片ひざをついたフロウがクロコを見ていた。

 クロコはスコアに視線を戻した。すぐ横で大砲の爆炎が赤く光った。

 スコアは小さく口を開く。


「仲間が気になるのか、クロコ」


 スコアは深い青い瞳で見つめていた。


「なら、少し場所を変えよう。きみとの戦いは、できれば誰にも邪魔されたくない」


 それを聞いてクロコはまたフロウに視線を移した。うなずくフロウ。クロコは視線を戻す。


「分かった」


「こっちだ」


 スコアは大通りを横切る。

 スコアは脇の通りへと入っていった。クロコもあとを追う。



 二人の姿が消えた大通りで、フロウは歯を食いしばり立ち上がった。


「……この中で動けるのは僕だけか」





 戦場の爆音が少し離れた所で響き渡る。

 辺りは純白の石畳のみで覆われていた。

 円形の巨大広場に、クロコとスコアは向かい合って立っている。

 純白の大きな台座を背にして、スコアは口を開く。


「ここなら、なんの邪魔も入らない。正々堂々、ここで決着をつけよう」


 その言葉を聞いて、クロコは鋭くスコアを見つめる。


「ああ! 望むところだ」


 純白の石畳の空間に、クロコとスコアだけが立っていた。向かい合いながら、二人はゆっくりと剣を構える。

 クロコは右手に黒色の小剣スピーゲルグレイを構えた。

 スコアは右手に白色の剣ブリティンガルドを構えた。

 二人は静かににらみ合う。

 スコアは小さく口を開いた。


「……ボクの後ろには、守りたい人がいる。だから、ボクは負けるわけにはいかない」


「オレの前には、進む道がある。だから、オレも負けるわけにはいかない」


 クロコは真紅の瞳でスコアを鋭く見つめる。スコアも深い青い瞳でクロコを鋭く見つめる。

 二人は同時に口を開いた。


「勝負だ」


 その言葉の直後だった。二人は駆け出した。たがいに真っ直ぐ突進し、ほぼ同時に斬り込む。


 ギィンッッ!!


 二人の剣が勢いよくぶつかり合った。クロコの体がわずかに後ろに押された瞬間、スコアは一瞬で横をつく。


 ヒュンッ!!


 鋭いスコアの斬撃を、クロコは瞬間の反応でかわす。素早く反撃の姿勢をとるクロコ。

 クロコは無数の斬撃を乱れるように放つ。それを見切り応戦するスコア。


 ギィンギィンギィンギィンギィンッッ!!


 二人の間で無数の斬撃がぶつかり合い、鳴り響く金属音が辺りの空気を揺らす。その最中、スコアが強烈な一撃を叩きこむ。


 ギィィィンッ!!


 衝撃と共にクロコの体が後ろに飛ばされる、その直後、一瞬でスコアが斬りこむ。閃光の如き高速の斬撃。


 ヒュンッ!!


 紙一重でかわすクロコ。直後に返されるクロコの攻撃、空気を切り裂く鋭い斬撃。


 ヒュンッ!!


 スコアは高速の身のこなしで避けた。クロコはさらに剣を振るう。

 クロコから放たれる黒い斬撃は、途中で突きへと変わりスコアを襲う。スコアはあっさりと見切り反応するが、突きは途中で止まる、と同時にクロコは一歩踏み込み、鋭い蹴りを放つ。スコアは一瞬反応が遅れるが、上体を後ろに倒し、紙一重でかわした。

 すぐに返されるスコアの大振りの蹴り。クロコは後ろへ跳んでかわす。追い討ちをかけるスコア。スコアは一瞬で横をつく。クロコも一瞬で防御の体勢をとるが、逆方向にスコアがいた。


 ヒュンッッ!!


 紙一重でかわすクロコ。反撃のクロコの斬撃を、スコアは後ろに跳んでかわした。その直後、クロコは前へ飛び込んだ。鋭く迎撃する白い斬撃。クロコは身をかがめかわすと、懐に潜り込む。瞬時に放たれる黒い斬撃。刃の閃光がスコアを襲う。


 ヒュンッ!!


 スコアは体をそらし、かわすと、一瞬の体の切り返しで横へ回り込み、小振りの斬撃を飛ばす。クロコは体をそらして避けようとするが、その動きに合わせ、斬撃の軌道が変わる。


「はあ……ッ!」


 スコアはかけ声と共に白剣を打ち下ろした。周りの空気を吹き飛ばすような強烈な一撃。


 ヒュンッッ!!


 クロコは瞬間の反応で全身をそらす。スコアの剣は紙一重でかわされる。

 素早く後ろへ跳ぶクロコ。スコアは追わなかった。

 二人の距離が離れた。


 二人とも剣を構え直し、再びにらみ合う。

 スコアが口を開く。


「やるじゃないか、クロコ。この短期間でここまで動けるようになるなんて」


「おまえこそ、相変わらず大した動きだ。けど……」


 クロコは鋭くスコアを見つめた。


「小手調べはこれぐらいでいいだろ。おまえの力はこの程度じゃないはずだ。この程度じゃあ、あいつには、ガルディアには勝てない」


「そうだな……」


 スコアは小さく言った。


「ならそろそろ、本気でいかせてもらう」


 その言葉が響いた直後だった、クロコは感じた、辺りが凍てつくような冷気で満たされていくことに。体の芯から凍えるような感覚だった。スコアから放たれる圧倒的な気迫に、クロコは一瞬身震いした。

 息を整えるクロコ、気を落ち着かせ、冷静にスコアを見つめた。

 スコアの口がゆっくりと開いた。


「いくぞ、クロコ」


 その言葉の直後だった、クロコの真横にスコアが立っていた。


「……!」


 ヒュンッ!!


 クロコは瞬間の反応で横へ跳んだ。脇腹がわずかに切り裂かれていた。素早く反撃しようとするクロコ。しかしスコアがいない。

 クロコの真横から再びスコアが現れる。クロコはすぐに防御の姿勢をとるが、逆方向からスコアが現れた。それと同時に放たれる斬撃にクロコが気付いた時には、正面にスコアがいた。


 ヒュンッッ!!


 クロコは後ろへ跳んでいた。腹が切り裂かれている。宙に血が飛ぶ。


「く……!」


 スコアは素早く追撃する。気付けばクロコの目の前に立ち、気付けばもう斬撃を振るっている。クロコは鋭い反応で身をそらしても、スコアの剣はもうクロコの肩を切り裂いていた。さらに放たれるスコアの斬撃。


 ギィンッッ!!


 クロコはやっとスコアの剣を受け止めることができた。しかし強烈な衝撃で後ろに押される。


「クソ……!!」


 クロコはすぐさま体勢を立て直し、反撃に出る。勢いよく剣を振るう。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッッ!!


 クロコから放たれる斬撃の嵐は、無数の刃の光となって一斉にスコアを襲った。スコアはそれらをあっさり見切り、全て紙一重でかわす。

 クロコがさらに一歩踏み込もうとした時、スコアの剣はすでに振り抜かれていた。

 クロコの足がわずかに裂ける。


「うう……」


 クロコは素早く後ろへ跳んだ。しかしスコアが一瞬で目の前に立つ。鋭く飛ぶスコアの蹴りが直撃した瞬間、クロコの体が後方へ弾け飛んだ。


「こんなものか、クロコ」


 スコアは一瞬でクロコに追い討ちをかける。


「違うだろう!」


 クロコはスコアの斬撃を受け止めた、勢いよく後ろに押される。


「この程度で、ディアル・ロストブルーに勝てるはずがない!!」


 スコアがさらに横の斬撃を放った。その斬撃は空間を飛び越えるような圧倒的な速さを持ってクロコへ向かって突き進んだ。

 その時、クロコの眼が鋭くなる。それは一瞬だった、クロコの足がスコアの剣を真下から蹴り上げた。スコアの斬撃がそれる。

 わずかに崩れるスコアの体勢。クロコが斬り込んだ。スコアは一瞬で横へ跳び、かわす。

 直後、クロコの真横にスコアは立っていた。一瞬で放たれる白い三連の斬撃。


 ヒュヒュヒュンッ!!


 クロコはかわした、流れるような動きで。まるで時間を飛び越えるかのような速さだった。直後に放たれる黒色の斬撃。スコアはそれを見切り紙一重でかわそうとする。しかしその斬撃の軌道が寸前で変化した。


 ヒュンッ!!


 スコアの肩からわずかに血が飛んだ。驚くスコア。素早く後ろへ下がった。

 二人の距離が離れた。


 二人は再び剣を構え直す。その中で、スコアは見た。クロコの周りを燃え上がる真紅の炎を。強烈に、そして鋭く光り輝いている。

 スコアの眼つきがきつくなる。


 前線から少し離れた純白の円形広場、そこで強烈な二種類の気迫がぶつかり合っていた。

 辺りを震えるような緊張感が包み込んでいる。


 クロコは鋭くスコアを見つめた。その体からはわずかに血が滴り落ちる。

 少しの間、二人は剣を構えたまま向かい合っていた。

 クロコは剣の柄を握る力を一瞬強めた。


「いくぞ」


 クロコは動いた。それと同時にスコアも動いた。二人の距離は一瞬でなくなった。


 ギィンッ!!


 鋭い金属音が辺りに飛んだ。二人の剣はさらに動き続ける。クロコもスコアも、恐ろしいほどの速度で斬撃を振るい続けた。

 二人の間を数限りない刃の閃光が縦横無尽に飛びまわる。時に衝突し、時に空を切り、刹那の光の雨が二人の周りを暴れまわった。二人の体は瞬間の反応を繰り返し、広場をひたすら駆けまわる。

 広場の中を黒と白の風が暴れまわっていた。斬撃のほとんどが空を切っているにも関わらず、刃がぶつかる金属音は激しく響き続け、止むことを知らない。

 常軌を逸した速さの斬撃がひたすら飛び交い、その斬撃に合わせて二つの体が人知を超えた反応を繰り返す。速さと速さの戦いはただひたすらに続いていた。

 この二人以外、誰も立ち入ることの不可能な戦いが、この二人以外、誰もいない広場で繰り広げられていた。


 ヒュンッ!!


 スコアの斬撃の一つが、クロコの肩を切り裂いた。宙に血が飛ぶ。


「く……!!!」


「はあッ!!」


 スコアは強力な斬撃を打ち下ろした。クロコがそれを受け止めた直後、


 ギィィィンッ!!


 クロコは後ろに飛ばされる。スコアは一瞬で追い討ちをかけて斬り込むが、クロコは瞬時に体を切り返し横へ飛んだ。


 ヒュンッ!!


 白い斬撃が空を切った直後、クロコの動きが変わる。足を細かく動かし、左右にひたすら俊敏に動き続ける。細かく細かく、クロコの小さな体は瞬間の切り返しを連続する。

 スコアもその動きに合わせる。クロコの動きについてこようとする。

 クロコは何とかスコアから隙を生み出そうとするが、


「……!」


 スコアの体は、クロコの動きにぴったりとついて離れない。


(振り切れない……!)


 ヒュンッ!!


 スコアの剣が、クロコの左腕を切り裂いた。


「く……!!」


 クロコは斬撃を返す。


 キィン


 スコアは一瞬で見切り、受け流した。スコアの剣が足を切り裂く。クロコはひるまない、スコアをにらみつけた、一歩踏み込む。黒色の斬撃は一瞬の光となってスコアへ向かって直進した。スコアはそれを見切っていた。再び受け流そうとするスコア。しかし黒剣の軌道が寸前で変わる。


 キィン


 斬撃は鮮やかに受け流された。寸前で変わった軌道に対し、スコアは剣を寸前で動かし合わせていた。

 クロコの体勢がわずかに崩れる。直後に放たれた白い斬撃が一瞬でクロコの体に触れる。脇腹が切り裂かれた。血が飛び散る。


「く……!」


 下がるクロコ。追撃するスコア。鋭利な斬撃が再びクロコを追いかける。


 ゴッ!!


 クロコは一歩踏み込み、腕へのひと蹴りでスコアの剣をそらした。


 ヒュンッ!!


 直後、黒い剣がスコアの肩をわずかに裂いた。

 スコアは後ろへ跳んだ。


「簡単には勝たせてくれないな……」


 スコアは言った。二人は動きを止め、剣を構え直す。二人は互いに息を乱していた。

 スコアの両肩から漏れる血が軍服をわずかに赤く染めていた。

 クロコの全身のいくつもの切り傷から流れる血は純白の石畳を赤く染めていた。

 クロコは険しい顔で口を開く。


「まあ……ハナから優勢に進められるとは思ってなかったけどな」


「だけど……負ける気はさらさらないんだろう?」


「当たり前だろ」


 二人の息が徐々に整う。

 スコアが小さく口を開く。


「なら……そろそろ」


「ああ、そうだな」


 スコアが白剣を構え直す。


「これで……」


 クロコも黒剣を構え直す。


「決着だ……!」


 クロコは静かにスコアを見つめる。スコアも静かにクロコを見つめる。辺りを巨大な気迫がぶつかり合う中で、二人は冷静な目で、静かににらみ合っていた。

 辺りに響く爆音が止むと共に、辺りは静寂に包まれた。クロコとスコアは互いに鋭く相手を見据える。

 次の瞬間、二人は同時に駆けだした。黒剣と白剣が同時に動く。


 ギィンッッ!!


 二つの刃が勢いよくはじけた。二つの剣は動きを止めない。

 クロコ、スコア共に剣を振るう。


 ギィンギィンギィンッッ!!


 二人の斬撃が一瞬ではじけると共に、クロコはわずかに後ろに押される。一歩踏み込むスコア。それに合わせクロコも一歩踏み込んだ。二人の剣が同時に動く。二人の間で互いの剣が交差した。


 ヒュン! ヒュンッ!


 二つの剣が振り抜かれると同時に、二人の体が裂けた。クロコの体から血が噴き出る。スコアの体からも血が噴き出る。その一瞬の時の中で、クロコはさらに一歩踏み込む。そのクロコの動きに合わせ、スコアの剣が容赦なく振られた。

 その瞬間だった、


 ゴッ!


 クロコの左手の拳がスコアの剣を握る拳に叩きつけられた。スコアの剣が一瞬止まる。


「オレに剣を教えたのはアールスロウだけじゃない」


 スコアの剣が空振りする。クロコは身をかがめて避けていた。クロコはスコアの懐に滑り込む。けれどスコアは怯まない、しっかりとその姿を見つめている。クロコに狙いを定めた斬撃が、一瞬の内に放たれる。クロコも黒剣を振るう。

 二つの剣が同時に、一直線に相手へと進む。


(ここは、オレの間合いだ……!!)


 クロコの黒剣が一瞬消えた。クロコの斬撃が、初めてスコアの斬撃の速さを上回った。


 ヒュンッッ!!


 クロコの黒剣がスコアの全身を通過した。


 宙に大量の血しぶきが舞い飛んだ。クロコの剣はきれいに振り抜かれていた。

 スコアの全身が裂けていた。その体がゆっくりと後方へと傾いていく。

 その中で、クロコは見た、スコアの深い青い瞳を。

 その瞳はいまだにクロコを見ていた。射抜くように、クロコを見ていた。

 スコアの左足が、石畳を力強く踏みしめた。


「うわあああああ!!」


 スコアの蹴りが勢いよく振り上げられた。その渾身の蹴りが、クロコの剣を握る拳に叩きつけられた瞬間、クロコの拳は感覚を失った。

 黒剣が手から離れ、矢のように遠くへ飛んでいく。黒剣は純白の台座の壁に突き刺さった。

 クロコは後ろへ下がろうとした、しかしそれより早く、スコアが一歩踏み込んだ。

 スコアから横の斬撃一閃が放たれた。深い青い瞳は射抜くようにクロコを見据えている。全ての力を込めて放たれた斬撃は、この戦いの中で最高の一撃だった。


(避けられない……)


 クロコは直感した。

 斬撃はクロコを真っ二つにするように、体へ向かって進んでいく。


 その凝縮された時間の中で、クロコは、右手を、スコアの剣に向けて差し出した。スコアの剣は、クロコの人差し指にはめられた黒い輪の上をほんの一瞬滑った。


 ヒュンッッッ!!!


 スコアの剣は振り抜かれた。クロコの体から血が噴き出る。だがそれはわずかだった。スコアの剣はそれていた。全てを込めた一撃が外れ、スコアの体が大きくバランスを失う。その瞬間、クロコは走った。

 壁に突き刺さる黒剣に向かって走った。体勢を直したスコアがすぐに追う。

 クロコは感じた、背後からスコアが見る見るうちに距離を詰めてくるのを。

 クロコは走る、スコアが追う。

 黒剣が迫る。クロコは手を伸ばす。黒剣の柄を握る。クロコは後ろへ振り返る。目の前にスコアが立っていた。剣を構えるスコア。剣を引き抜くクロコ。スコアの剣が動く。クロコの剣も動く。


 ヒュンッッ!!


 二つの剣は同時に風を切り、振り抜かれた。


 わずかな静寂のあと……、


 大量の血しぶきが宙へと飛び散った。

 スコアの体が切り裂かれていた。その深い青い瞳は、もうクロコを見据えてはいなかった。前へと傾いていくスコアの体。

 次の瞬間だった。

 スコアの右足が石畳を踏みしめた。スコアは歯を食いしばりその場で踏みとどまった。

 そのすぐあとだった。

 クロコの体が後ろへと傾き、台座の壁にぶつかった。クロコの体も切り裂かれていた、スコアより、さらに深く。

 クロコはまだ、スコアを真っ直ぐ見据えていた。けれど、体はどんどん後方へと落ちていく。壁にもたれかかり、滑るように腰が石畳へと落ちていく。


 目の前に立つスコアの姿が見える。


(まだだ……まだ倒れるわけにはいかない)


 クロコは必死で思った。けれど、腰はついに石畳にぶつかった。


(倒れるわけには、倒れるわけにはいかないんだ……!!)


 クロコは歯を食いしばった。剣を強く握りしめようとしたその時、


 カァン……


 小さな金属音が響いた。黒剣がクロコの手から滑り落ちて石畳へと落下した音だった。

 クロコの右手は勝手に開かれていた。握ろうとしても、もう感覚がなかった。


(倒れるな、まだだ、まだなんだ!!)


 スコアは静かに見下ろしていた。


「これで……終わりだ」


 スコアは白剣をゆっくりと振り上げた。


(動け……動け! 動け! 動け!)


 クロコの体はもう震えることしかしなかった。クロコの真紅の瞳が最後にとらえたものは、自分に向かって振り下ろされる白剣の刃の光だった。

 クロコの意識は闇の中へと消えていった。







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