6-14 死力の戦い
首都ゴウドルークス、純白の巨大建築物が軒を連ねる巨大都市。天まで伸びるような高い塔や大聖堂がそびえ立つその街並みの中で、特に巨大な建築物がそびえ立っている。
グラウド国軍本部基地だ。その複雑な造形の巨大基地から、南方向へと延びる大通り、そこと直結する街の大広場で、解放軍と国軍の激しい戦いが展開されていた。
基地へと進行しようとする解放軍。それを阻もうとする国軍。
現在、解放軍が優勢に戦っていた。国軍の作戦に『レギオス』が介入し、その動きをかき乱したためだった。
大通りと直結する大広場で、解放軍と国軍の大軍勢がぶつかり合っていた。
解放軍の中央では、フィンディ・レアーズが剣を振るっていた。
正確な剣技で次々と国軍兵を仕留めていく。フィンディの攻めにより解放軍全体が勢いづいていた。
勢いよく国軍兵を斬り伏せるフィンディ。その時だった。
「そこまでだ」
フィンディの前に巨大な剣士が立ちはだかる。ゴッドブラン中将だった。
フィンディは足を止め、苦笑いを浮かべる。
「またこいつかよ。オッサンにモテても、ちっとも嬉しくないんだけどな……」
ゴッドブランは巨大剣を構え、殺気に満ちた目でにらみつける。
「今度こそ片づけてやろう……」
フィンディは一歩後退するが、すぐに足を止めた。
「……この状況で、オレが下がるわけにもいかないか。やるしかねーな」
フィンディは剣を構え、ゴッドブランをにらみつけた。
「おまえはここで、オレが斬り伏せる」
それを聞き、ゴッドブランはニヤリと笑う。
「面白い……!」
二人は同時に駆けだした。
「ウオオオオオオ!!」
ギュオンッ!!
すぐさまゴッドブランの異常に長い間合いの斬撃が襲う。素早くかわすフィンディ。
ギュォンギュォンギュォンッッ!!
ゴッドブランは暴風のような斬撃を振るう。
「チッ……!!」
フィンディは近づくことすらできない。
「どうした、こんなものか!!」
「なめんな!!」
フィンディは左右に高速で動いた。鋭くゴッドブランの横をつく。斬り込もうとしたフィンディに一瞬でゴッドブランが反応する。
ギュオンッ!!
ギィィィンッ!!
ゴッドブランの猛烈な一撃を受け止めたフィンディは、後ろに弾き飛ばされた。
「クソ……!!」
追い打ちをかけるゴッドブラン。素早く体勢を立て直すフィンディ。
ギュオンッ!!
フィンディは素早く横に跳び、斬撃をかわすと、距離をとった。
「クソ……パワーが違い過ぎる……!」
「ふん、逃げ回るだけか」
ゴッドブランはフィンディを冷めた目で見下ろしていた。
フィンディは剣を構え直す。
「こうなりゃあ、覚悟決めるしかねぇな……!」
フィンディは強い目でゴッドブランを見つめると、正面から突進した。ゴッドブランの間合いに飛び込む。
「バカが!!」
すぐさまゴッドブランの巨大な斬撃が飛んでくる。
ギュオンッ!!
ゴッドブランの剣が空を切った。フィンディは一瞬の反応で紙一重でかわしていた。懐に飛び込むフィンディ。
「とった!!」
「とらせてやったんだ」
ゴッドブランの巨大な蹴りがフィンディの脇腹を直撃した。
ミシ……
「ぐ……あ……!!」
フィンディの体は浮きあがり、吹き飛んだ。
石畳を激しく転がるフィンディにゴッドブランが斬り込む。フィンディは素早く起き上がるが……
ギュオンッ!!
かわしきれず、脇腹に浴びる。血が飛んだ。
「ぅう……!!」
フィンディは必死に後ろへ跳んで下がる。
「逃げることしかできんのか! 腰抜けが!!」
ゴッドブランのその一言に、フィンディの目つきが変わった。鋭くゴッドブランをにらみつける。フィンディは体勢を前に倒し、斬り込んだ。
「うおおおおっ!!」
叫びながら突進するフィンディ、すぐさまゴッドブランの斬撃が伸びる。
ギュォンギュォンギュォンッッ!!
連続で放たれる激しい斬撃の嵐を、フィンディは紙一重でかわしていく。ほとんど捨て身に近かった。ゴッドブランはニヤける。
「そうだ……!! こうでなければ面白くない!!」
フィンディはさらに一歩踏み込んだ。すぐさま飛んでくる巨大剣がフィンディの肩をわずかに切り裂いた。フィンディはさらに一歩踏み込む。巨大な足が飛んできた。紙一重でかわす。フィンディは剣を振り下ろした。
ヒュンッッ!!
ゴッドブランはヒラリとかわす。フィンディはさらに一歩踏み込んだ。ゴッドブランの巨大剣と、フィンディの剣が同時に動く。
ギュオンッ!! ヒュンッ!!
先に届いたのは、フィンディの剣だった。ゴッドブランの全身が裂ける。血が宙を舞った。しかしゴッドブランの表情は変わらない。
ギュオンッ!!
フィンディの全身が切り裂かれた。血が飛び散る。
「……!!」
さらにゴッドブランの剣が襲いかかってくる。フィンディは必死に後ろへ跳んだ。
巨大剣がわずかに腹をかすった。二人の距離が離れる。
フィンディは険しい顔で荒く息をする。
「クソ……!!」
(ふざけんなよ……今のは完璧にとらえてた。常人だったらぶっ倒れてるはずだ。なのに、あのオッサン、ケロリとしてやがる。どんだけ分厚い筋肉してんだよ……!!)
フィンディの体から血がボタボタと流れ落ちる。
(オレなんて……剣先がかすっただけだっていうのに…………)
フィンディの険しい顔を見下ろしながら、ゴッドブランは口を開く。
「どうやら……これで終わりの様だな」
それを聞いて、フィンディは鋭くゴッドブランを見つめた。
「なめんな……!!」
フィンディは剣を力強く構え直す。その眼は死んでいなかった。
「あきらめるかよ! ファリスが待ってるんだ! あいつは、クロコは決してあきらめたりなんかしなかった!!」
フィンディは力強く叫んだ。
「そうだ、フィンディ・レアーズ」
突然別の声が響いた。
ゴッドブランとフィンディは同時にその声の方向を向く。フィンディのすぐ横にはファイフ・アールスロウが立っていた。体中に包帯を厚く巻いている。
「最後の最後まで、あきらめてはいけない」
アールスロウはフィンディの隣に立ち、ゴッドブランの姿を見据え、長剣を構えた。
「切り崩すぞ」
アールスロウは駆け出した。フィンディもそれについていく。
二人の剣が同時にゴッドブランを襲う。
ギィンギィンギィンギィンギィンッッ!!
ゴッドブランと二人の間で、激しく剣がぶつかり合う。その最中ゴッドブランは口を開いた。
「……その決意見事! だが、傷だらけの二人で、私の相手が務まると思うなよ!!」
ギィィィンッッ!!
ゴッドブランの強烈なひと振りで、アールスロウが後ろに飛ばされた。そのわずかな隙にフィンディが飛び込むが、巨大な蹴りに阻まれ、後ろに押し返される。
「その程度か!! 貴様らの力はその程度なのか!!!」
アールスロウは体勢を立て直し、突進する。臆することなくゴッドブランの間合いへと飛び込んだ。ゴッドブランはそんなアールスロウを鋭く見つめる。
アールスロウの動きに合わせ、ゴッドブランは一歩踏み込んだ。
「まずは貴様だ!!」
ゴッドブランから力を込めた一撃が打ち下ろされた。
ギュオンッッ!!
アールスロウは避けきれない。巨大な剣がアールスロウの全身を引き裂くだろうその瞬間、
キィン
アールスロウは鮮やかにゴッドブランの剣を受け流した。石畳を切り裂くゴッドブランの剣。わずかにできたその隙に、
「うわああああああ!!」
フィンディが勢いよく飛び込んだ。ゴッドブランは素早く体勢を立て直し、後ろへ跳ぶ。
ヒュンッッ!!
フィンディの剣が振り抜かれた。二人とゴッドブランとの距離が離れる。
ゴッドブランの巨体から、ほんのわずかに血が飛んだ。それと同時に、ゴッドブランの巨体がゆっくりと後ろへ向かって傾いていく。ゴッドブランの首筋が切り裂かれていた。
「……ネズミに、噛みつかれたか」
ゴッドブランの巨体は大きな音を立てて石畳に倒れ伏した。
その様子を見て、フィンディはボソッとつぶやく。
「そこを狙ったのは、久しぶりだよ……チクショウめ……」
フィンディは力無く石畳に片ひざをつけた。
アールスロウも息を乱しながら、石畳に片ひざをつけた。
大広場の別の一角では、サキが必死に剣を振っていた。鏡の剣技で、一人、また一人と剣兵を仕留めていく。
(みんなの姿が見えない。いや……もう誰かに期待しちゃダメだ。ボクががんばらないと……ボクが)
目の前の剣兵をさらに一人斬り伏せた直後だった。
サキに向かって、ゆっくりと一人の剣士が近づいてくる。サキはその剣士から漏れ出す殺気を感じとり、素早く身構える。サキの前に現れたのはレイデル・グロウスだった。
「なかなか生きのいいやつがいるじゃねぇか」
レイデルは笑みを浮かべながら赤い瞳で鋭くサキを見つめる。
「……!」
サキは警戒する。
「だが、おまえ程度じゃあ、足りないな」
「……あなたの名前は?」
「レイデル・グロウス」
「『消剣の騎士』……!!」
サキの表情が一気に険しくなる。
レイデルはゆっくりと剣を構える。
「本当に強い剣士とやり合うまでは、死んでも死に切れねぇからぜ。まだ中途半端な小さい剣士としか戦ってねぇ」
「……!? 小さい剣士? まさかフロウさん!?」
サキはレイデルをにらみつけた。
「答えろ!! 小さい剣士はどうなったんだ!?」
「あ……? あの剣士の知り合いか? オレと心中しようとしてきて、おかげでこっちは死にかけたぜ。オレじゃなけりゃあ粉々だったよ」
「……!! フロウさんはどうなったんだ!!」
「だから言っただろ。オレじゃなければ粉々だったって。粉々だよ、グラン・マルキノの砲弾でな」
サキは大きく目を見開いた。少しのあいだ呆然としたあと、叫んだ。
「ウソだああああッ!!」
サキは斬り込んだ。レイデルをにらみつけ、素早く剣を真上に構える。剣の先に取り付けられた鏡が太陽光を反射した途端、レイデルの意識が真上に引き寄せられる。サキは素早く身をかがめ、懐に飛び込んだ。しかしそのサキの姿を、レイデルは一瞬でとらえた。
ヒュンッ!!
レイデルの剣がサキの腹を切り裂いた。血が噴き出る。
「そんな…………」
サキの体が前方に徐々に傾いていく。
「なかなかいい戦術だったぜ。でも、仕掛ける相手を間違えたな」
サキは石畳に倒れ伏した。
レイデルは歩き出し、周りを見渡す。
「さてと……強そうな剣士はいないかな?」
「ま……まだだ」
レイデルは足を止め、声の方向を見た。サキがヨロヨロと立ち上がっていた。腹からは血が、石畳に流れ落ちる。
「ボクは……こんなところで、倒れるわけにはいかない。倒れるわけには、いかないんだ……!!」
そんなサキの姿を、レイデルは冷めたい目で見ていた。
「弱いのにしつこいやつって嫌いなんだよなぁ」
「うわあああああ!!」
サキは斬りつけた。
ヒュンッ!!
レイデルはあっさりとかわした。
「早く死ね」
レイデルの剣がわずかに動いた、その瞬間だった。
ヒュンッ!!
人影が横からレイデルを斬りつけた。素早く横に跳んでかわすレイデル。レイデルの視線の先には、フロウ・ストルークが立っていた。
レイデルは目を見開いて驚く。
「てめぇ……! 生きてたのか……!!」
フロウは傷だらけだった、包帯は巻いておらず、体中が赤く染まっていた。それでも石畳を踏みしめ、しっかりと立っていた。フロウは冷静な目で口を開く。
「戦った相手の生死ぐらい、関心を持っておいた方がいいよ」
それを聞いたレイデルは一瞬笑みを浮かべたあと、フロウをにらみつけた。
「知るかよ……!!」
サキはフロウを見つめた。
「フロウさん!!」
サキは泣きそうな声で名を呼んだ。
フロウはニコリと笑いかける。
「やあ、サキくん。この戦場で初めて会えたね」
「もう会えないと思いました」
「悪いけど、僕は死ぬ気はこれっぽっちもなくてね。…………さてと、レイデル」
フロウはレイデルの姿を見つめた。
「仕切り直しといこうか」
フロウは小剣を構える。サキも同時に剣を構えた。
レイデルは二人の様子を冷静に見ている。
「クソボロボロのやつが二人。勝てると思ってんか、それでオレに……」
「いくぞ!!」
フロウはかけ声と共にレイデルに向かって飛び込んだ。それに合わせてレイデルの斬撃が放たれる。あいだの空間を飛び越えるような圧倒的速さの斬撃。
ギィンッッ!!
フロウは反応して受け止めた。その瞬間、レイデルの横をサキがついた。
ヒュンッ!!
素早くかわすレイデル。
「チ……!」
直後に、フロウとサキはレイデルを左右に挟んだ。
同時に斬りこむ二人。
ヒュン! ヒュンッ!
二人の剣はほぼ同時にレイデルを斬りつけた。
しかし、レイデルの一瞬の二連撃が二人の斬撃をほぼ同時に押し返す。
「そろそろ分かれよ! てめぇらとオレとじゃ戦いにならねぇんだよ!!」
次の瞬間、レイデルの姿が消えた。サキの横を一瞬でつく。サキは反応すらできない。レイデルの剣が動く。
ギィンッ!!
フロウがレイデルの剣を止めた。レイデルのスピードにフロウは追いついていた。
「チ……! しつこいな……」
サキは素早く横から斬りつける。レイデルは軽くかわし、後ろへ跳んで距離をとった。
二人との距離が離れ、レイデルは軽くため息をつく。
「フゥ……まいったね。こりゃあ、しつこい」
レイデルは赤い瞳をギラつかせ、二人をにらんだ。
「そろそろ本気で殺しにいくか」
そうつぶやいた直後、レイデルが動いた。一瞬でサキの横をつく。フロウは素早く助けに入ろうとするが、その瞬間、フロウの横をレイデルがついていた。
ヒュンッ!!
レイデルの剣がフロウをとらえた。フロウはわずかに体をひねり直撃は避けたが、脇腹が切り裂かれ、宙に血が飛ぶ。
「フロウさん!!」
叫んだサキの目の前に、レイデルが立っていた。剣はもう振り抜かれている。
サキの全身が裂ける。血が宙へと飛び散った。サキの体が徐々に傾いていく。
「うわああああっ!!」
フロウは叫びながら斬りつけた。レイデルは素早く後ろに跳んでかわす。そのレイデルに向かって、フロウは正面から飛び込んだ。
「これで、終わりにしてやる」
そう言ってレイデルは剣を構えた。直後、レイデルから圧倒的速さの斬撃が放たれる。
ヒュンッッ!!
その斬撃をフロウは紙一重でかわす。しかし、その直後に、レイデルの小ぶりの斬撃がフロウの死角へ放たれる。
ヒュンッ!
その斬撃は空を切る。フロウはそれをも反応してかわしていた。
(いまだ!!)
フロウは一歩踏み込んだ。剣を振るおうとしたフロウの眼に飛び込んできたのは、笑みを浮かべるレイデルの顔だった。空を切ったはずのレイデルの剣が一瞬で軌道を変え、戻ってくる。
(まさか……ホントは三段構え……!?)
ヒュンッ!!
レイデルの横の斬撃が振り抜かれた。
宙に血が飛び散る。
我が目を疑うレイデル、身をかがめるフロウ、かすっただけの剣。フロウは瞬間の反応でかわしていた。フロウの体がレイデルの懐に入る。フロウの剣が動いた瞬間、
ゴッ!!
レイデルのとっさのひざ蹴りがフロウを直撃した。フロウの小さな体は後ろに弾き飛ばされる。肝を冷やしたレイデル。
「あ、危ね……」
レイデルの横にサキが立っていた。レイデルの剣は先ほどの攻撃で左へ振り抜かれている。サキは右に立っていた。
「うわあああああああ!!」
サキは勢いよく剣を振るう。サキは斬撃が当たると確信した。しかし、レイデルの剣が信じられないほどの速さで戻ってくる。
サキの剣がレイデルの体に向かって進む。
レイデルの剣がサキの剣に向かって進む。
サキは祈った。
(間に合え)
(間に合え!)
(間に合えええええッ!!)
ギィンッ!!
レイデルの斬撃がサキの剣を弾き飛ばす。強烈な剣圧で、サキの体は後ろへと吹き飛ばされた。
笑みを浮かべたレイデルの目に飛び込んできたものは、目の前に立つフロウの姿だった。
ヒュンッ!!
フロウの剣は、レイデルの全身を切り裂いた。大量の血しぶきが宙に舞い上がった。
レイデルは目を見開き、呆然とした表情を浮かべた。剣先が徐々に下がっていく。レイデルの表情はすぐに冷静になり、目の前のフロウを見つめる。そして、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「見事だよ……フロウ・ストルーク」
レイデルはゆっくりと石畳に崩れ落ちた。
フロウはその姿を静かに見つめる。
「君こそ大した剣士だったよ。レイデル・グロウス」