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6-13 対決




 地下の大部屋、その出口の近くでクロコとマスティンは立っていた。

 出口へ向かう途中で足を止めるマスティン。

 そのマスティンの背後から、黒剣の刃を向けるクロコ。

 薄暗い空間で、二人は静かに立っていた

 マスティンがゆっくりと口を開く。


「どうやら……私は、君もグレイも、ずいぶんと見くびっていたようだ」


 クロコはマスティンを強くにらみつけた。


「あんたをこのまま行かせるわけにはいかない……!」


「そうか、仕方ない……」


 マスティンは冷静な口調で言った。


「なら、あとは君に任せるとするよ。リーヴァル」


 出口から突然人影が飛び出し、クロコを斬りつけてきた。


「……!」


 クロコは素早く横に跳ね、その剣をかわした。マスティンの横にはリーヴァル・クロスレイが立っていた。

 驚くクロコ。


「……! なんだ、こいつ!?」


 マスティンは部屋の出口へ歩き出す。


「クロコは君に任そう、頼んだぞリーヴァル」


「承知しました」


 マスティンはサッと部屋から出ていった。


「ま……待て!!」


 マスティンを追おうとするクロコに、リーヴァルが大剣を振るう。空気を弾く強烈な斬撃。


 ヒュンッッ!!


「く……ッ!」


 クロコは紙一重で避けた。


「この……!」


 クロコは黒剣を振るった。


 ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 クロコの乱れるような斬撃の嵐を、リーヴァルは俊敏にかわした。

 リーヴァルの大剣が動く。


「はぁ……!」


 リーヴァルから力強い斬撃が放たれる。


 ヒュンッ!!


 クロコがその斬撃を受け止めた瞬間だった。


 ギィィィィンッ!!


 強烈な剣圧でクロコは後ろへ弾かれた。


「く……!」


 クロコは一瞬で体勢を立て直し、後ろへ跳んだ。

 二人の距離が離れる。


「クソ……強いな」


 クロコとリーヴァルは互いに剣を構えたまま向かい合う。


「こんなやつの相手をしてるヒマなんてないのに……!」


 その時だった、出口から疾風の如き速さの剣士が飛び出してきた。一瞬でリーヴァルを斬りつける。


 ギィンッ!!


 リーヴァルは一瞬の反応でそれを防いだ。スコアだった。

 リーヴァルは横へ跳び、距離をとる。

 スコアはリーヴァルの姿を見て驚いた。


「あなたはたしか、グランロイヤー総務大臣の護衛の剣士……」


 リーヴァルはスコアの姿を鋭く見つめた。


「スコア・フィードウッド。『瞬神の騎士』か」


 クロコがすぐに声を出す。


「スコア、すまない! こいつは任せる!!」


「え……!?」


「どうしても逃がすわけにはいかないんだ!」


 リーヴァルは出口へと走るクロコをにらみつけた。


「させるか……!」


 クロコを追うリーヴァル。その前にスコアが立ち塞がった。


「状況がつかめないが……分かった。彼はボクが止める」


 リーヴァルは表情を険しく歪ませる。


「チ……!」


 クロコは出口に向かって一直線に走り、部屋を飛びだした。


 広い通路に出たクロコ。

 マスティンの姿はない。左右を見回すクロコ。


「く……どっちに行ったんだ? 右へ行ったらスコアとぶつかるから……左か!」


 クロコは通路を駆ける。角を曲がると道がまた左右に分かれた。


「クソ……今度はどっちだ!?」





 薄暗い大部屋ではスコアとリーヴァルが向かい合っていた。

 二人は静かににらみ合う。

 その時、スコアは気付いた、大部屋の奥に倒れている男の存在に。

 驚くスコア。


「あれは……ジオ・グランロイヤー総務大臣!?」


 スコアはすぐにリーヴァルを見つめた。


「あなたの主はもう倒れている。あなたは何のために戦うんだ……!!」


 その言葉を聞いて、リーヴァルは声を上げて笑った。


「こいつが私の主だと? 冗談も大概にしてもらいたいな。こんな自らの力にうぬぼれた大志なきゴミなどに私が仕えるものか」


「…………!?」


 リーヴァルは笑みを浮かべながら話す。


「私は密偵として、やつの情報を真の主に流していたに過ぎない。私の主は後にも先にもルイ・マスティンただ一人だ!」


 それを聞いて、戸惑うスコア。


「……どういうことだ!?」


「詳しいことを知る必要などない。どうせおまえはすぐ死ぬのだから」


 その言葉にスコアの眼がわずかに鋭くなる。

 リーヴァルは笑みを浮かべ、大剣をゆっくりと構えた。


「おまえの噂はかねがね聞いていた。だがおまえが最強だというのも、あくまで国軍という柵の中での話……その外にはさらに上がいるということを教えてやろう」


 リーヴァルはそう言って、鋭くスコアをにらみつけた、その時だった。


「……!!」


 リーヴァルは感じた、辺りを覆う凍てつくような冷気を。その冷気に驚き、一歩引いた、その瞬間だった。

 リーヴァルの全身が裂けた。大量の血が宙に飛び散る。

 スコアの体は気づけばリーヴァルを横切っていた、リーヴァルと背中合わせに立っている。スコアの剣はすでに振り下ろされていた。

 リーヴァルは目を見開き、その状況を疑う。


「嘘だ、こんなことが……あるわけが……!!」


 スコアは小さく口を開いた。


「柵の中にいたのは、あなたの方だったようですね」


 リーヴァルは力無くその場に崩れ落ちた。






 ルイ・マスティンは総務省局の通路を歩いていた。クロコとスコアが通った通路とは別の通路。そこを抜け、建物の裏口からあっさりと外へ出た。裏には馬車が停められている。

 その馬車に向かって少し歩いたときだった。


「止まれ」


 マスティンの背後にはクロコが立っていた。真後ろに立ち、すでに黒剣を振り下ろそうとしている。


「あと一歩でも進めば、この剣を振り下ろす」


 クロコは強い口調で言った。

 マスティンに動じる様子はない。振り向かず、背中を見せたまま太い声を出した。


「私を斬るというのか? クロコ」


「あんたをこのまま行かすわけにはいかない……!」


 マスティンは少しのあいだ黙った。そしてまた声を出す。


「だが、いま私を斬ったところでどうなる? 私はこれから、グラウドをよりよい方向へと生まれ変わらせようとしているんだ。そうすれば、グラウドの国民は今よりもはるかに幸せに生きられる」


「だけど、あんたは、そのために多くの人を犠牲にした……!」


 マスティンは冷静な声を出した。


「犠牲にしたのは『レギオス』だ。私ではない」


 クロコは怒りの眼でマスティンをにらみつけた。


「そんな言い訳が通用すると思っているのか!!」


 クロコの声が辺りに響いた。マスティンは動じない、落ち着いた様子で声を出す。


「……だから、君は私を斬るのか? 君に私を裁く権利があるというのか?」


 クロコはマスティンの背中を見つめた。小さな声を出す。


「できればオレは、アンタを斬りたくない。だから、アンタはみんなに告白するんだ。全てが終わった時に、全てのことを……!!」


「それはできないな」


「なんだと……!!」


 マスティンはゆっくりと首を動かし、クロコの顔を見た。マスティンの鋭い目は真っ直ぐクロコを見つめていた。


「私は全てを懸けてきた。私の望みが実現できないというのなら、今ここで、私は死んだ方がましだ」


 マスティンははっきりとした口調で言った。クロコの表情が険しくなる。マスティンはクロコの黒剣を見た。


「いま君が私に刃を向けているということは、私を止めるという君の意志表示なのだろう。ならば、その刃を間違ってもしまうなよ。生け捕りにしようなどいう甘い考えは捨てろ。いまここで決断してみろ。私を行かせるか、ここで殺すか」


 マスティンは初めてクロコをにらんだ。


「君にその覚悟があるのか?」


 マスティンの強い口調に、クロコはわずかにひるんだ。険しい顔をする。


「私は絶対に引くつもりはない」


 マスティンは言った。


「君も引くつもりはないのなら、その黒剣を振り下ろしてみろ。だができるのか? 私を斬ることが本当に正しいのか」


 マスティンはクロコを真っ直ぐ見つめる。鋭い視線だった。

 クロコもマスティンを真っ直ぐ見つめる。わすかに眉をよせている。

 二人はたがいに眼をそらさない。

 一瞬の静寂のあとだった。

 マスティンはゆっくりと前に向き直った。マスティンは前方にある馬車に視線を戻す。

 クロコは剣を振り下ろそうと構えている。

 マスティンは一歩踏み出した。


 ヒュンッッ!!


 クロコの黒剣の刃は、マスティンの体を切り裂いた。


 マスティンは声を上げなかった、クロコを見ることもなかった、ただ前を見つめたまま、その体はゆっくりと前方に向かって倒れていった。

 マスティンはうつ伏せに地面へと倒れ伏した。

 その体はもう動かなかった。



 呆然と立ち尽くすクロコ。動かなくなったマスティンを静かに見つめる。


「クロコ!!」


 背後からスコアが駆け寄ってくる。クロコの前に倒れているマスティンに気づいた。


「……この人は?」


 クロコはマスティンを見つめたまま答えた。


「こいつは…………自分の目的のためだけに、みんなを犠牲にした。そういう意味では、『レギオス』と同じだ」


 クロコは小さく言った。


「だけど、自分の希望のために、自分の全てを懸けていた。そういう意味では、オレたちと同じだ」


 クロコはじっとマスティンの倒れた背中を見つめていた。

 スコアは黙ってそれを聞いていた。小さく口を開く。


「そうか……」


 クロコはマスティンから顔をそらした。


「これで、本当に終わりだ」


 クロコはスコアの方に向き直った。クロコはスコアの目を真っ直ぐ見つめた。


「おまえが力を貸してくれなかったら、多分、ダメだった」


 クロコはゆっくりと、スコアに向けて手を差し出した。

 スコアは何も言わず、クロコの手を一瞬見つめたあと、手を取らず、静かに背中を向けた。


「まだ何も、終わってなんかいない」


 スコアはクロコと離れるように歩き出した。


「きみには聞こえていないのか? この遠くから響く爆音が…………国軍と解放軍の戦いはまだ終わってなんかいないんだ」


「だけど、もう、『レギオス』は……!!」


「たしかにもう、原因となった者はいない。だけど、この戦いは、ボクらの意志で始められたものだ。国軍か、解放軍か、この国の勝者が決まるまで、この戦いは終わらない」


 クロコは手を差し出したまま固まっていた。静かにスコアの背中を見つめる。

 スコアは歩きながら声を出す。


「さよならだ、クロコ。ボクはきみの手を握れない。ボクらはやっぱり敵同士だからだ」


 それを聞いて、クロコは静かに差し出した手を下ろす。スコアの背中がゆっくりと遠ざかっていく。


「クロコ、最後にひとつだけ言わせてくれ」


 スコアは足を止めた。背中を向けたまま振り向かない。


「ボクはきみとウォーズレイの戦場で再会した、あの時から、きみと偶然出会ってしまったことをずっと、後悔していた。そして……それは今でも、変わっていない」


 クロコはスコアの背中を見つめていた。スコアは前を向いたまま立っていた。スコアはまた声を出した。


「だけど、きみと出会えた良かったと、そう思っている自分もいる」


 スコアは振り向かなかった。またゆっくりと歩きだし、二人の距離は離れていった。


「決着をつけよう、この最後の戦場で」


 スコアは立ち去った。







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