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6-8 剣のひと振り




 立ち昇る煙が、青い空を黒色に染めていく。

 国軍陣内にそびえ立つ無数のグラン・マルキノ。そのほとんどが大量の黒煙を上げて動きを止めていた。

 解放軍の右翼前方に立ちはだかるグラン・マルキノ。黒煙を上げるほかをよそに、解放軍陣に砲口を向けていたが……


 ドオオオオオオンッ!!


 前部が突然爆発し、破片を辺りに飛び散らす。

 側面に設置されている木窓からフィンディが降ってきた。軽やかに着地する。

 フィンディはすぐに辺りを見渡す。


「これで破壊したのは三台目……残りは左翼に一台か。だが動く気配がないな。弾切れか」


 フィンディは小さくため息をつく。


「ふう……グラン・マルキノはこれで終わりか」


 そうつぶやいた時だった。


「ずいぶん好き勝手やってくれたな」


 太い声が響いた。フィンディが声の方向を向くと、恐ろしく巨大な剣士が近づいてきていた。ゴッドブラン中将は巨大剣を片手で軽々と持ち、フィンディに歩む寄ってくる。


「……『破壊の騎士』か」


「『狂舞の悪魔』フィンディ・レアーズだな」


 ゴッドブランは殺気に満ちた鋭い目でにらむ。巨大剣を構えた。


「貴様はここで、私が叩き潰してやろう」


「……色々と規格外だが、やれるモンならやってみな。さっきの仕返しも兼ねて斬り伏せてやるよ」


 フィンディも剣を構えた。

 ゴッドブランが高速で突進する。とんでもなく長い間合いの斬撃を打ち下ろしてきた。


 ギュオンッ!!


 素早くかわすフィンディ。巨大剣は軌道を変え、横の斬撃となってフィンディに襲いかかる。フィンディはそれに反応して受け止めたが、


 ガアアアアアンッッ!!


 巨大な衝撃と共に、フィンディの体は吹っ飛ばされた。


「チッ……!!」


 フィンディの体勢が大きく崩れる。素早く立て直そうとするフィンディにゴッドブランが斬り込んだ。


 ギィィィィィンッッ!!


 巨大な斬撃を受け止めたフィンディはまたふっ飛ばされる。草をまき散らして地面を引きずるフィンディの体。素早く立ち上がったが、目の前にはゴッドブランがいた。


 ギュオンッ!!


 フィンディは後ろへ跳んだ。肩がわずかに切り裂かれた。

 距離をとったフィンディの表情はかなり険しかった。


「冗談じゃねぇ……まともな打ち合いにならねーじゃねぇかよ……!!」


 ゴッドブランは鋭い目でフィンディを見下ろす。


「その程度か小僧。ならばとっとと終わりにしてやる」


 フィンディは強気に笑みを返す。


「……調子にのんな。終わるのはおまえだ」


 フィンディは駆けた。右左に俊敏に移動し、ゴッドブランをかく乱する。ゴッドブランはその動きを冷静に目で追う。次の瞬間、フィンディの動く速度が一瞬上がった。

 鋭く横をとったフィンディ。


「くらえ!」


 フィンディの斬撃が飛ぶ。しかしゴッドブランは一瞬で体を切り返し、あっさりと受け止めた。


「その程度か……」


 ゴッドブランは腕に力を入れ、フィンディの剣を弾き飛ばそうとしたが、フィンディは素早く剣を引いた。


「まだまだぁ!」


 フィンディは無数の斬撃を一瞬で放つ。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 ゴッドブランはその斬撃を見切り、無駄のない動きであっさりとかわす。

 フィンディは怯まず斬撃を放つ。


(これだけデカければ、死角だらけだ!)


 フィンディの斬撃の一つがゴッドブランの右肩をわずかにかすった。ゴッドブランは動じない。


「ふん……!!」


 ゴッドブランから巨大な斬撃が放たれた。フィンディは素早くかわすが、直後に丸太のような足が飛んできた。


 ゴッ!!


 鈍い音と共にフィンディは宙を浮いた。


「ぐ……ッ!」


 地面に着地したフィンディの目の前には、剣を振り下ろそうとするゴッドブランの姿があった。


 ギュオンッ!!


 それを受け止めたフィンディは弾き飛ばされ、宙で上下一回転した。地面に転がり倒れるフィンディ。仰向けに素早く顔を上げたフィンディが見たのは、自分に向かって振ってくる巨大剣だった。


(ダメだ……!!)


 フィンディがそう思った瞬間だった、ゴッドブランの横からサキが現れ、斬りつけた。

 素早く横へ跳んでかわすゴッドブラン。


「フィンディさん!!」


「なんだ……おまえいたのか」


「ずっといましたよ!!」


 フィンディは素早く起き上がる。

 ゴッドブランは距離をとってフィンディとサキをにらんでいた。

 フィンディとサキは剣を構える。


「フィンディさん、手伝います」


 サキの言葉にフィンディは苦笑いを浮かべ、鈍い咳をする。


「正直、今はもう無理だ……なんとか退きたいが」


「ならボクが隙を……」


 そう言いかけたサキに、ゴッドブランが突進してきた。


「逃がすものか!!」


 サキは慌てて後ろに跳ぶが、異常に長い間合いの斬撃が勢いよく追ってきた。


 ギィンッ!!


 ゴッドブランの剣先が少しぶつかっただけで、サキは吹っ飛んだ。

 フィンディが素早く斬り込もうと構えると、ゴッドブランは一瞬でフィンディに剣を向けてけん制する。


「クソ……こいつ相手じゃ逃げることも容易じゃない」


 その時だった。


 ドンドンドンドンッ!!


 ゴッドブランの目の前が爆炎に包まれる。


「むぅ……!!」


「引くんだったら、とっとと引け!!」


 ローズマンの率いる砲兵隊が駆けつけていた。


「助かった……いったん退くぞサキ!!」


 フィンディは素早く後ろへ下がる。


「は……はい」


 サキもそれを追う。


 フィンディとサキを見失ったゴッドブランは怒りの表情を浮かべた。


「おのれ……」


 ゴッドブランは鋭く砲兵隊をにらむ。


「ウオオオオオオオ!!」


 砲兵隊に襲いかかるゴッドブラン。

 砲兵隊は素早く近距離砲撃を放つが、紙一重でかわされる。あっという間に距離を詰められた。


 ギュオンッ!!


 巨大剣のひと振りで、三門の大砲が切断された。さらにもうひと振りで残りの大砲が破壊された。目を疑うローズマンのすぐ前にはゴッドブランがそびえ立っていた。

 ローズマンの表情が歪む。


「チッ……!! 剣を抜くのは久々だぜ」


 ローズマンが剣を抜いた直後、その剣にゴッドブランの巨大剣が叩きつけられた。強烈な衝撃で剣は一瞬で手から離れ、遠くへ飛んでいった。

 苦笑いを浮かべるローズマン。ゴッドブランはもう剣を振り下ろそうとしていた。


「…………助けにいって返り討ちかよ。カーッコワリ」


 ギュオンッ!!






 解放軍陣の中心付近、そこにアールスロウは立っていた。周りには無数のアサシンが倒れ伏している。アサシン軍は全滅していた。

 アールスロウはわずかに息を切らしながら、前方の様子をうかがう。


(先ほどの攻撃で中央の守りが薄くなっている。立ち直るまでなんとかここを守り切らなければ……)


 その時、アールスロウは気付いた。手薄になった中央に一気に斬り込んでくる剣士がいた。立ち塞がる解放軍の剣兵を一瞬で斬り伏せ、戦場を高速で走り抜けてくる。

 ミッシュだった。

 その姿を確認してアールスロウは素早く駆けだし、ミッシュの前を立ち塞ぐ。


 ギィンッ!!


 二人の剣がぶつかり合った直後、二人は同時に後ろへ跳ぶ。距離が離れた。

 ミッシュは口を開く。


「おまえは、ファイフ・アールスロウか」


「……ミッシュ・ノルフォーク。ロストブルーの元右腕か」


 アールスロウは長剣を横に構えた。ミッシュは大剣をゆっくりと前に構える。

 二人は少しの間にらみ合っていた。


「はあ……!」


 かけ声と共にミッシュがアールスロウに突進した。一瞬の内に斬り込んだ。


 ギィンッ!!


 アールスロウの体が押される。


「……!!」


 アールスロウはすぐさま反撃に出た。鋭い突きを放つ。ミッシュは素早く反応するが、突きは途中で斬撃へと軌道を変えた。


 ヒュゥンッ!!


 ミッシュは素早く見切り、かわす。素早く反撃に出るミッシュ。斬撃の群れがアールスロウを襲った。


 ギィンギィンギィンギィンッ!!


 二人の剣がぶつかり合う。しかし、ミッシュの方が力も速さも上だった。アールスロウは徐々に押されていく。


 ヒュンッ!!


 アールスロウの肩が裂けた。


「くっ……!!」


 アールスロウは素早く後ろへ跳ぶ。追撃するミッシュ。アールスロウは間合いの長い横の斬撃で迎撃する。


 ヒュゥンッ!!


 アールスロウの斬撃は途中で軌道を変え、打ち下ろしの斬撃へと変わった。ミッシュはそれに反応し、防御の姿勢をとるが、直前で、さらに軌道を変えて突きへと変化した。ミッシュの反応がわずかに遅れる。


 ヒュッ!!


 アールスロウの突きは、かわされた。ミッシュは一瞬の動きで紙一重で避けていた。その直後に放たれたミッシュの斬撃はアールスロウの脇腹をわずかに切り裂いた。


「……!!」


 アールスロウは後ろへ跳ぶ。ミッシュは追わず、二人の距離が離れた。

 アールスロウの表情が険しくなる。


(強い……!)


 ミッシュは冷静にアールスロウを見つめていた。


「その程度か。ファイフ・アールスロウ」


「……!」


「グレイ・ガルディアもよくこんな男を横に置いていたな……」


 その言葉にアールスロウはわずかに目つきをきつくする。

 二人は再び剣を構え直す。

 今度は二人、同時に動いた。


 ギィンギィンギィンッッ!!


 二人の剣が連続でぶつかり合う。その中で、アールスロウはミッシュの斬撃の一つを見切った。


 キィン


 アールスロウはミッシュの斬撃を受け流した。体勢がわずかに崩れるミッシュ。その隙にアールスロウが斬撃を放つが、ミッシュは一瞬で体勢を立て直し、剣を振るう。


 ヒュゥンッ! ヒュンッ!!


 わずかに遅れたのはアールスロウの方だった。左腕をわずかに切り裂かれた。


「く……!」


 さらに放たれるミッシュの斬撃をアールスロウは紙一重でかわすと、無駄のないフットワークで、ミッシュの横へと回りこむ。しかしミッシュは一瞬で体を切り返し、アールスロウを迎撃した。


 ヒュンッ!!


 アールスロウの足がわずかに裂ける。


「く……!!」


 アールスロウは素早く反撃する。


 ヒュゥンッ!!


 キィン


 ミッシュにあっさりと受け流される。ミッシュの剣はアールスロウの腹を切り裂いた。宙に血が飛ぶ。さらに一歩踏み込むミッシュ。アールスロウは鋭い蹴りを放った。


 ゴッ!!


 蹴りが直撃し、ミッシュの体はわすかに揺れるが、動かない。ミッシュは笑みを浮かべ、近距離で剣を振るう。空気を弾く強烈な斬撃が打ち下ろされた。


 ヒュンッッ!!


 アールスロウが後ろへ跳び。二人の距離が離れた。

 血が地面へと流れ落ちる。アールスロウの全身が浅く切り裂かれていた。

 険しい表情で息を乱すアールスロウ。

 その様子を見て、わずかに剣を下ろし、笑みを浮かべるミッシュ。


「なんとも情けない……『千牙』といわれた技術、こんなものか……」


 ミッシュは言った。


「おまえの技術は、恵まれない身体能力を補うために磨き上げられたものに過ぎない。バネのない筋肉を助けるためのフットワークに、遅い斬撃を補うための軌道変化…………真の技術とは元よりある身体能力と融合してこそ発揮される」


 ミッシュは余裕の笑みを見せる。


「おまえの技術は、オレから見れば実にコッケイだよ」


「…………そうかもしれないな」


「グレイ・ガルディアも見る目がなかったな」


「グレイさんは……才能だけで人を判断するような人ではなかった。君こそ……なんだその大剣は、体に合っていない。ロストブルーのものまねか?」


「ロストブルー将軍をバカにするな!」


 ミッシュは斬りかかった。アールスロウは素早くかわすが、ミッシュが一瞬で横へと回りこむ。


「く……!」


 アールスロウは素早く反応するが、気付けば逆方向にミッシュがいた。


 ヒュンッ!


 アールスロウの右腕が裂ける。下がるアールスロウ。ミッシュは動きを止めた。

 二人は再びにらみ合う。


「どうだ……ロストブルー将軍の剣技は? ガルディアの剣技はその程度か?」


 ミッシュはバカにしたように笑う。アールスロウは冷静に口を開く。


「……あいにく、俺はグレイさんから技術を教わったことは一度もない。グレイさんからはもっと大切なものを教わった」


「なに……?」


「七度……」


「……?」


「君は俺に七度攻撃を当てた。それでも俺は倒れていない」


 ミッシュはにらんだ。


「何が言いたい?」


「真剣勝負において、相手を倒すには、ひと振りあれば足りる。君は七振り無駄にしたな」


 ミッシュは鼻の先で笑う。


「強がりを」


「確かに、戦いにおいて才能は重要だろう。技術も重要だろう。だが、そのひと振りを当てるために最も重要なのは、それらではない」


「ふん……わけの分からないことを」


「……ロストブルーも見る目がなかったな」


「下らない、口先だけで勝てると思っているのか!!」


 ミッシュは斬りかかった。ミッシュの斬撃の嵐がアールスロウを襲う。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッッ!!


 アールスロウは反応しきれず、数撃を体に浴びた。宙に血が舞い飛ぶ。


「その程度か! ファイフ・アールスロウ!!」


 その時だった、アールスロウは前に出た、自らミッシュの斬撃に向かって飛び込んだ。


 ヒュンッッ!!


 アールスロウの全身が裂ける。大量の血しぶきが宙へと舞い飛ぶ。剣を振り抜いたミッシュが勝利の笑みを浮かべた瞬間、ミッシュは見た、アールスロウはいまだに立ち、ミッシュを真っ直ぐ見つめている。アールスロウの青い瞳は、全く動じず、目をそらさず、射抜くようにミッシュを見つめていた。


 ヒュゥンッッ!!


 アールスロウは剣がミッシュの全身を切り裂いた。大量の血が宙へと噴き上がった。

 ミッシュは呆然とした。


「バカな、こんなことが……この一撃のためだけに、自ら剣に……突っ込むなど」


 ミッシュは力無く、その場に倒れ伏した。

 アールスロウは立っていた。倒れたミッシュを静かに見つめる。体からは大量の血が流れ落ちる。

 小さく息を乱すアールスロウ。



 爆音が響き渡る戦場で、アールスロウの体はゆっくりと傾き、そして、その場で静かに両ひざをついた。







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