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6-7 誇りに懸けて




 首都ゴウドルークスの純白の街から巨大なニコ川が流れ出ている。ニコ川は緑色の草原を横切り、西へと伸びていく。その大河の南側、そこには巨大な黒い軍勢と、青い軍勢が互いの生死を懸けてぶつかり合っていた。


 解放軍の砲兵隊が動き出す。


「撃て、撃て、撃てー!!」


 目の前に立ち塞がるグラン・マルキノへ向けて砲弾を飛ばす。グラン・マルキノの前部の装甲から砲火が噴き出る、しかしビクともしない。


「ダ……ダメだ……全く効かない」


「あきらめるんじゃねー!」


 ローズマンが砲兵たちに呼びかける。第二陣から加わっていたのだ。


「前の装甲はぶ厚すぎる、そこを狙ってもダメだ!」


「そうか! 車輪を狙えば……」


「バカ野郎! 動きを止めても撃ってくるだろうが!!」


 ローズマンは走り出す。


「側面に回り込むんだよ! みんなオレについて来い!」


 ローズマンは砲兵隊を引き連れ、グラン・マルキノの側面へと回り込んだ。


「撃て撃て撃てー!!」


 ドンドンドンドンドンドンドンドンッッ!!


 無数の砲火がグラン・マルキノを横から襲った。側面の鉄板が徐々に砕けてから間もなくだった。


 ドオオオオオオオオンッ!!


 グラン・マルキノの前部が大爆発を起こし、砕け散った。


「ヨッシャー!!」


 ローズマンは叫んだ。





 所どころで爆音が響き渡る戦場、その一角で、フロウは静かに剣を構えて立っていた。

 フロウの目の前にはレイデルが立っている。レイデルは右手の剣をぶらぶらと揺らしながら、散歩しているかのような軽い足取りで近づいてくる。

 フロウはレイデルを見つめる。


「灰色髪に赤い瞳、それにこの殺気……レイデル・グロウスか。『消剣の騎士』。最速の斬撃を持つ剣士……」


 レイデルは足を止めて、フロウをじっと見る。


「おまえ、ちょっとは戦えそうだな、名前は?」


「フロウ・ストルーク……」


「……知らねぇ名だな。じゃあザコか」


「…………」


「まあ、気にすることはねぇよ。オレは両手で数え切れる程度しか名前を覚えてねぇからな。オレが戦っても楽しめそうなやつだけな」


 レイデルはゆっくりと剣を構える。


「おまえの名前もどうせすぐ忘れる」


 フロウとレイデル、二人は静かににらみ合った。

 先に動いたのはフロウだった。一気にレイデルとの間合いを詰める。フロウはレイデルの剣に意識を集中させていた。


(アレを見切らないことには勝機はない……!)


 フロウがレイデルの間合いに入ったその瞬間、レイデルの剣が動いた。フロウは一瞬レイデルの剣が消えたように錯覚した。フロウは目を凝らす。

 レイデルの剣はもう体に触れる直前まで迫っていた。


 ヒュンッッ!!


 フロウは体をそらしていた。軍服がわずかに裂け、少量の血が宙へと飛んだ。


「へぇ……オレの斬撃に反応するとはな」


 レイデルはニヤリと笑った。


「でも、惜しかったな」


「……!」


 フロウは驚いた。腹から突然血が噴き出た。


「ぐ……あ……!」


 フロウの体がよろける。

 レイデルは笑みを浮かべながらその様子を見ている。


「二段構えだったんだよ。最初の斬撃を放った直後に、素早く小ぶりの斬撃を死角に滑り込ませたんだ。斬撃が速いぶん、みんな一撃目に神経を集中させるだろ? だからあっさり当たる」


 フロウの体が徐々に傾いていく。


「バイバイ」


 フロウは草原に倒れ伏した。

 横たわるフロウの姿を、レイデルは見ようともしない。キョロキョロと周りを見渡して、次の相手を探す。

 レイデルは倒れたフロウを横切り、さらに前へと進んでいく。




「待て……」


 レイデルは振り返った。フロウは立っていた。辛そうな表情で、腹からは血がボタボタと流れ落ちている。


「あーあ、まだ動けたのか」


「戦った相手の生死ぐらい、関心を持ったらどうだい……」


「知るかよ、斬った相手が死のうが生きようが興味なんてねぇよ」


 レイデルは再び剣を構える。


「もうやめたらどうだ? どうせおまえじゃオレに勝てねぇよ」


「冗談じゃないよ……」


「ああ、そうかい……」


 レイデルはフロウを赤い瞳で静かに見つめる。その瞳からわずかな殺気が漏れ出した。


「なら……死ね」


 レイデルが動いた。フロウの前に一瞬で立ち、剣を動かす。


 ヒュンッ!!


 ギィンッ!


 フロウはレイデルの斬撃を止めた。


「うわあああああ!!」


 フロウは力任せにレイデルの剣を弾き飛ばした。その直後、フロウは斬りつける。


 ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 フロウは傷だらけの体を必死で動かし、高速の剣を振るう。辺りにフロウの血が舞い散る。フロウから放たれる斬撃の嵐を、レイデルは最短の動きで全てかわす。フロウの斬撃の一つをかわした直後だった。レイデルから再び斬撃が放たれる。


 ヒュンッッ!!


 フロウは俊敏な動きで紙一重でかわした、その直後だった。レイデルの鋭い蹴りがフロウの脇腹をとらえた。


「あ……ッ!!」


 フロウの口からわずかに声が漏れる。

 一瞬かすんだ視界が元に戻った時、フロウは見た、レイデルの剣はもう振り下ろされていた。

 フロウの全身が裂けた。血が噴き出た。


「あ……あ……」


 フロウはヨロヨロと数歩、後ろに下がった。

 レイデルは追わず、その様子を見ている。


「はい、これで終わり」


 フロウの体が傾いていく。その直後、フロウは地面を踏みしめた。

 フロウは倒れなかった、荒く息をしながらレイデルをにらみつける。


「まだだ……まだ、倒れて、たまるか……!」


 レイデルは冷静にフロウを見ている。


「いい加減あきらめたらどうだ……?」


「悪いけど、僕は、僕の『誇り』に懸けて、退く気はないよ……」


「やれやれ、どうしようもないバカだぜ」


 レイデルはため息をついた。その直後、レイデルは何かに気づき、フロウからわずかに目をそらし、上を向いた。


「へぇ……」


 レイデルの目にはグラン・マルキノの姿が映っていた。巨大な車輪は破壊され、すでにバランスを失い、動きを止めている。


「こりゃあ、おもしれぇ……」


「……!」


 グラン・マルキノの巨大な砲口がフロウとレイデルの立つ一帯に照準を定めていた。

 レイデルは小さく笑った。


「おいおい、もうすぐここ、吹き飛ばされるじゃねぇか」


 レイデルはフロウを赤い瞳でギラッと見た。


「つまりだ、勝った方は逃げられて、負けた方は粉々になるデスマッチってわけだ。おもしれぇ、少しゾクゾクしてきたぜ」


 レイデルは楽しそうに笑みを浮かべる。


「早く斬っちまわないとな……」


「………………」


 フロウは静かに小剣を横に構えた。

 互いに剣を構えて、二人はほんのわずかにらみ合っていた。

 同時に動く二人。

 フロウとレイデル、互いの剣が動いた。


 ギィンギィンギィンッッ!!


 三発の斬撃が互いにはじけた直後、レイデルの剣が素早く軌道を変えた。


 ヒュンッ!!


 フロウの脇腹が裂ける。フロウの動きが一瞬止まった。その一瞬の隙を、レイデルが見逃すはずはなかった。レイデルの斬撃がフロウに向けて放たれる。フロウを真っ二つにする横の斬撃。その斬撃は一瞬でフロウの体に到達した。フロウの体は裂けた。血が勢いよく飛ぶ。


「なんだと……!」


 レイデルはわずかに戸惑った。フロウを容赦なく切り裂くはずだったレイデルの剣が、途中で止まっていた。フロウは自らの剣を体の内側に構えていた。レイデルの剣は、フロウの体にわずかに食い込んだまま動きを止めている。


「な、なぜ、内側に……」


「なぜだろうね……」


 フロウは笑みを浮かべた。素早く前に進み出るフロウ、レイデルの剣が体をえぐる中、さらに前に進み、レイデルの腕を脇で挟んだ。レイデルの動きが止められる。


「ま……まさか、おまえ……」


 レイデルの表情が初めて焦る。


「これしか……思い浮かばなかったんだ」


「て、てめぇえええええ!!」


 グラン・マルキノの砲口が震えた。



 フロウはうつむき、そっとほほえむ。


(僕も……クレイドのことを悪くは言えないな)





 フロウとレイデルの立つ一帯が、巨大な爆炎に包まれ、砕け散っていった。







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