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6-6 鉄壁の剣技




 緑色の草原の上で、解放軍の軍勢と国軍の軍勢がぶつかり合っている。

 解放軍の陣形は所々が攻め込まれて薄くなっていた。グラン・マルキノの砲撃で動きが大きく乱されたためだ。


 草原を押しつぶし進むグラン・マルキノ。

 そのグラン・マルキノの一つひとつが爆音をとどろかせるごとに、地面が噴きあがり、巨大な炎が辺りを照らす。

 そんな中だった、グラン・マルキノの一つ、その前部が突然大爆発を起こした。それと共にグラン・マルキノの木窓から人影が飛び降りてくる。ミリアだ。


「これで二台目。あと五台…………」


 草原に着地したミリアは、近くにあった他のグラン・マルキノの一つに視線を移す。その時だった、そのグラン・マルキノも突然爆発した。


「……!」




 黒煙を上げるグラン・マルキノ。その巨大な胴体からフィンディが飛び出した。

 フィンディはスタッと地面に着地する。


「ふぅ~、これであと四台……」






 解放軍左翼の一角で、フロウとコールが向かい合っていた。

 小剣を横に構えるフロウ。

 長剣を前に構えるコール。

 二人は静かににらみ合っていた。

 すぐ近くで大砲の爆音が響いた、その直後、

 フロウが動いた。風のように速く、鋭く突進する。一瞬でコールとの距離を詰める。コールの間合いへと入った瞬間だった、フロウは驚いた。


 ヒュゥンッ!


 コールの斬撃は、素早いフロウの動きに完璧に合わせて放たれていた。

 とっさに後ろに跳ぶフロウ。肩がわずかに切り裂かれた。


「く……!」


 コールは動かず、フロウを静かに見つめている。


「やるね……」


 フロウはそう言って剣を構え直す。フロウは再び動いた。今度は俊敏に左右に動きコールをかく乱する。コールは動じず冷静にフロウの動きを追っている。フロウは一瞬でコールの横に回り込み、一歩踏み込んだ、その直後、


 ヒュゥンッ!!


 コールはあっさり反応し、フロウの動きに合わせた斬撃を振るう。


 ギィンッ!!


 フロウはとっさに防御した。続けて放たれるコールの斬撃。


 ギィンギィンギィンギィンッ!!


 フロウとコールの斬撃がぶつかり合う。フロウが距離を詰めようとにじり寄ると、コールはそれに合わせて後ろへ下がる。

 フロウは険しい表情をする。


(懐に入れない……!)


 間合いが長いコールの斬撃だけが一方的にフロウを襲う。斬撃の一つがフロウの肩をわずかに切り裂いた。


「く……!」


 フロウは勢いよく踏み込んだ。直後、コールの斬撃がその動きに合わせてフロウの胴体を切り裂いた。


「ぐ……ッ!!」


 宙に血が飛ぶ、それでもフロウはひるまなかった、さらに一歩踏み込んだ。


「この距離なら……!!」


 フロウは斬り込んだ。


 ヒュンッ!!


 紙一重で避けるコール。


「まだまだぁ!!」


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 フロウからスピードにものをいわせた無数の斬撃が放たれる。コールは全て紙一重でかわす。コールは顔色一つ変えない。


 キィン


 コールはフロウの斬撃の一つを鮮やかに受け流した。わずかに崩れるフロウの体。それに襲いかかるコールの斬撃。


 ヒュゥンッ!!


 フロウは後ろへ跳んで離れた。しかしコールの斬撃はすでにフロウの全身を浅く切り裂いていた。


「くぅ……」


 フロウはわずかによろめく。体からは血がポタポタと流れ落ちた。

 コールは追わず、その場で剣を構え直す。


「なるほど……君からは来ないのか」


 フロウの言葉にコールは冷静に答える。


「まあね、いま押してるのは国軍の方だし、無理にきみを倒しにいかなくても、勝手に解放軍は崩れていくから」


「やれやれ、まいったね……」


(まるで別人のような強さだ……天性の見切りのセンスに加え、長剣による懐の深さと高い技術が加わって、鉄壁の防御を成している…………この年でこの強さ。末恐ろしい子だ)


「こないの?」


 コールが静かに言った。


「………………」


 フロウは黙って剣を構える。


(これを崩すことは……できるのか?)






 解放軍陣の中央、前方に立ち塞がるグラン・マルキノから巨大な砲撃が放たれた。

 その大爆発により、解放軍の中央がさらに崩れる、その時だった。

 そのグラン・マルキノの鉄板の上から無数の人影が解放軍に向けて飛び出してくる。その空中を飛ぶ人影から、無数のナイフの雨が解放軍兵たちに放たれた。


「うわああああ!!」


 無数のナイフは、中央を守る解放軍兵たちに降り注ぎ、次々と体を切り裂いていく。

 宙を舞い飛ぶ人影は全員、黒い衣装で全身を包んでいた。

 グラン・マルキノから無数のアサシンたちが飛び出してきた。

 地面に着地するアサシンたち。80人ほどの大集団だ。

 先ほどの砲撃とナイフの雨で、解放軍陣の中央を守る兵士がだいぶ減っていた。アサシンたちは一斉に駆け出し、中央の兵士たちをあっという間に斬り伏せていく。

 素早い身のこなしで襲いかかってくるアサシンたちに、解放軍兵は全く対抗できない。次から次へとナイフで斬り伏せられていく。

 アサシンたちは真っ直ぐ指揮官を目指して突き進んでいた。

 先頭のアサシンが口を開く。


「指揮系統を一気に潰すぞ!! この状況なら行ける!」


 アサシンたちは次から次へと解放軍兵を斬り伏せ、一気に中心部に向かって突き進んでいく。


「これで終わりだ、道は開けた!!」


 ヒュゥンヒュゥンッ!!


 前を走るアサシン二人が血しぶきを上げ、倒れた。アサシンたちは一斉に立ち止まる。目の前にはアールスロウが立っていた。


「残念、行き止まりだ」


「『千牙の狼』……! なぜこんな所に!」


 アールスロウは静かに口を開く。


「この状況で、全体を冷静に見渡せる者が一人ぐらいは必要だろう」


 アールスロウは剣を構え、アサシンたちを鋭くにらむ。


「さあ、かかってこい」





 パンッ!


「第二陣突撃!!」


 後ろに控える解放軍の50000の横陣が戦場に加わろうと動き出した。






 解放軍左翼の一角、フロウとコールはにらみ合っていた。

 すでにいくつかの傷を負うフロウ。

 傷一つなく、動かずに待ち構えるコール。

 フロウは静かにコールを見つめる。


(………………ダメだな。彼の守りを打ち砕く手が思い浮かばない。まったく……どっしりと構えちゃって、憎たらしいな。手がないなら仕方ないか……)


 フロウは小さく息を吐いて、再びコールをにらむ。


(あとはもう、自分を信じよう)


 フロウは駆けだした。高速でコールに向かって突進する。フロウが間合いに入った瞬間、コールの斬撃が飛ぶ。


 ギィン!!


 二つの斬撃がぶつかり合った。フロウは足を止めない。一気にコールの懐に迫る。その動きに合わせて、コールからさらに斬撃が飛ぶ。


 ヒュゥンッ!!


 フロウの腕がわずかに切り裂かれた。しかしフロウは止まらない。


「うわあああああ!!」


 フロウは剣を振り回した。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 フロウから無数の斬撃が放たれる。コールはすべて見切って紙一重で避ける。

 それでもフロウはひるまない。さらに剣を振り回す。


(速く……もっと速く……!)


 コールはフロウの様子に戸惑う。


「まさか、ボクの見切りに対抗してる……!?」


 コールは鋭く斬撃を返す。フロウは素早く反応した。


 ギィンッ!!


 剣がぶつかり合った直後、フロウは再び連続の斬撃を放つ、先ほどよりもはるかに激しく。


(どんなに剣を鍛えたとしても……僕の長所はやっぱりこのスピードなんだ。だから、ここだけは負けられない! ここだけは信じる!!)


 ヒュンッ!!


 フロウの斬撃の一つがコールの体をかすった。


「く……!」


 コールの目が鋭くなった。


 キィン


 コールはフロウの斬撃の一つを受け流した。

 わずかに崩れるフロウの体。コールは鋭く斬撃を放つ。フロウは一瞬で体勢を立て直し、剣を振るう。


 ヒュゥンッ!! ヒュンッ!!


 フロウの脇腹から血が噴き出る。その中でフロウはさらに一歩踏み込んだ。


 ヒュンッ!!


 コールの肩がわずかに切り裂かれた。


「く……!」


 わずかにひるむコール、後ろへ跳んだ。その瞬間だった、フロウは前へ飛び込んだ。


 ヒュンッ!!


 フロウの剣はコールの脇腹を深く切り裂いた。コールの脇腹から血が噴き出る。


「ぐ……ッ!」


 コールの体がわずかによろめく。フロウはさらに一歩踏み込んで斬りつけた。しかしコールも負けていなかった。コールは叫んだ。


「うわああああ!!」


 フロウの剣が届く直前、コールの蹴りがフロウをとらえた。フロウは後ろへ押された。

 コールは後ろへ跳ぶ。二人の距離が離れた。


「く…………!」


 コールは険しい表情をしていた。脇腹からは血が流れ落ちる。


「こんな……こんなところで、まだ、倒れるわけにはいかない……」


 コールは後ろへとさらに跳ぶと、そのまま後退していった。

 フロウは追わず、静かにそれを眺めていた。


「ハア…………ハア…………ハア…………」


 荒く息をするフロウ。わずかにふらつく。


「二連戦は……さすがにきつかったな…………」


 そんなフロウの前に、一人の剣士が近づいてきていた。フロウはそれに気づく。そして、その剣士の姿を見た途端、苦笑いを浮かべる。


「まさかの三連戦か……しかも相手は……」


 フロウの前に、レイデル・グロウスが現れた。赤い瞳で鋭くフロウを見つめている。

 レイデルはニヤリと笑った。


「さて…………殺すか」








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