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6-5 開戦




 緑色の草原帯が広がっている。

 その草原帯を、東から西へと流れる巨大なニコ川が分断している。


 そのニコ川の南側の草原、そこには数えきれないほど多くの解放軍兵が整列していた。

 ヘルムの旗印の赤色の旗を高く掲げ、黒い軍勢が緑の草原を覆い尽くしている。

 解放軍領の西部、北部、南部、中部から集結した解放軍の兵力は250000。

 その兵士たちが整列し、巨大な陣を形成していた。


 そのおよそ1,5km前方、ニコ川の上流には純白の巨大都市が広がっていた。

 首都ゴウドルークスだ。

 巨大な城壁に囲まれた純白の街。東南には城壁を分断した形でエコースト山がそびえている。

 西の城壁の前には、解放軍と向かい合う形で国軍が待ち構えていた。

 解放軍と同じく、国軍領全土から集められた兵士たちが、陣を作って構えている。およそ100000の横陣。これでも全体の一部だ。

 角の生えた馬の旗印の緑色の旗を高く掲げ、青い軍勢が静かに解放軍をにらんでいる。



 晴れ渡った空の下、緑色の草原に弱い風が吹いた。

 解放軍は50000ずつの横陣を五列作り、静かに国軍を見つめている。

 その先頭の前衛、そこでフロウ・ストルークは、静かに前方を見つめていた。

 国軍の軍勢が、緑の草原の中に青いロープのように伸びているのが見えた。

 その後方には白い壁が見える。横長の純白の巨大城壁が草原の上に厚いじゅうたんのように広がっていた。そのそびえ立つ城壁のさらに上に、巨大な純白の建築物の姿が所々はみ出して見えた。純白の四角い屋根が所々で頭を出し、とがった屋根もいくつも見える。とても高い塔が針のように突き出てもいた。そのさらに奥、純白の街の右側には、緑色の山がそびえ立っていた。

 青い空に、緑色の草原、純白の都市、魅入ってしまうような美しい景色が目の前に広がっている、にも関わらず、辺りを覆う空気はそれとはまるで違っていた。

 息が止まるような強烈な緊張感が辺りを支配している。

 目の前に広がる景色は、これから始まる決戦の息継ぎにもならない。

 兵士たちはただ黙って、始まりの合図を待っていた。




 時間だけが、ただ静かに過ぎていた。






 パンッ!!


 一発の信号銃と共に、解放軍の第一陣が動き出した。50000の軍勢が雄叫びと共に国軍に向かって一直線に突き進んでいく。

 ジワジワと国軍との距離が縮まっていった。横陣の幅は国軍とほぼ同じだ。

 国軍は動かなかった。どっしりと待ち構えている。

 解放軍があと少しで国軍とぶつかるだろう、その瞬間、


 ドンドンドンドンドンドンドンドンッッ!!


 国軍から数え切れないほどの砲弾が飛び出した。砲弾は雨のように解放軍の軍勢に降り注ぐ。解放軍の巨大な軍勢の所々から赤い閃光が瞬いた。

 解放軍は怯まず突き進む。

 ついに解放軍の軍勢が国軍の軍勢にぶつかった。

 その瞬間だった。

 解放軍陣の前衛、その中心から、二人の剣士が飛び出した。ミリアとフィンディだ。

 二人の剣士は一気に国軍の集団へと飛び込んだ。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!!


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!


 二人は圧倒的な速さで剣を振り回す。ミリアは自らの前方に超高速の斬撃の壁を作りだし、触れた敵兵を一瞬にして斬り伏せる。

 フィンディは動きを止めるピンポイントの斬撃でどんどん敵兵を斬り伏せていく。

 中央の国軍兵たちは雪崩に遭ったかのようになぎ倒されていく。国軍陣の中央が大きく切り開かれていった。

 その切り開かれた空間に、解放軍の剣兵が一気になだれ込む。


「このまま一気にケリをつけてやる!」


 フィンディは次々と敵兵を斬り伏せる。

 ミリアも次々と敵兵を斬り伏せていく。

 国軍の分厚い陣が徐々に徐々に崩れていく。その時だった。


「……!」


 ミリアの目の前に突然一人の剣士が飛び出した。ミッシュ・ノルフォークだ。


 ギィンッ!!


 ミリアの斬撃がミッシュによって止められた。


「はあ!!」


 ミッシュは勢いそのままにミリアの剣を力づくで後ろに弾き飛ばした。わずかに崩れるミリアの体勢、その一瞬の隙。


 ゴッ!!


 ミッシュの重い蹴りがミリアの体をとらえた。


「…………!」


 ミリアは後ろに弾き飛ばされる。

 それとほぼ同じ時、フィンディの目の前にとんでもなく巨大な剣士が立ち塞がっていた。

 ゴッドブラン中将が殺気に満ちた目でフィンディをにらみつけた。


「ここまでだ……小僧」


 ギュオンッ!!


 ゴッドブランから巨大な剣が振り下ろされた。フィンディは素早く反応し、受け止めるが……。


「なに……!!」


 ガアアアアアン!!


 受け止めたフィンディの体は浮きあがり、後方にふっ飛ばされた。

 ミリアとフィンディの前進が止まったその瞬間、


 ドンドンドンドンドンドンドン!!


 国軍の後方から解放軍の中央に向けて大量の集中砲火が注がれた。


「うわっ!!」


 フィンディの目の前を爆炎の壁が包み込む。


「…………!!」


 ミリアも爆炎の前で動きを止められた。

 あまりに激しい爆炎の前に、二人は下がるしかなかった。解放軍の前進が止まった、その直後だった。

 国軍陣のさらに後方、国軍陣と城壁のあいだの地面が次々と盛り上がっていく。


 解放軍左翼、フロウは一気に表情を緊迫させた。


「まさか……あれは!」


 解放軍の前方に次々と現れる巨大な影。

 屋敷ほどの大きさの鉄の塊、上部の煙突二つから煙を噴き上げ、鋼鉄の車輪で草原を揺らし、巨大な砲身を斜めに天へと伸ばし、グラン・マルキノが姿を現した。

 二台や三台ではなかった、解放軍の前に現れたグラン・マルキノの数は二十近くあった。



 遠くからその様子を見ていたローズマンの顔が引きつる。


「おいおいメチャクチャだぜ。あの数のグラン・マルキノをふつう地面に隠そうとするか……? 地形変わってんじゃねーか……」





 ドゴォーンドゴォーンドゴォーンッ!! ドゴォーンドゴォーンッ!! ドゴォーンドゴォーンッ!!


 無数のグラン・マルキノの砲口が揺れた。

 その直後、


 ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!!


 空と大地が赤い閃光で染まった。

 いくつもの巨大な火柱が、解放軍の黒い軍勢を一瞬で飲み込んた。兵士たちの数え切れないほどの悲鳴が上がる。陣全体を砕くような大爆撃だった。


 フロウの体にも強烈な爆風が叩きつけられる。


「く……!!」


 フロウは見た、近くで新たな火柱が広がるのを。

 辺りを再び赤く染め、大爆音が頭の中で暴れる。次から次へと新たな爆音が鳴り響き、頭の中で狂ったように叫び続ける。

 遅れて、さまざまな方向から爆風が吹きつけ、爆風同士がぶつかり合い、辺りの空気が竜巻のように暴れまわる。草原の草が一気に巻き上がられ、緑の紙吹雪ように辺りに舞い上がっていった。その天へと上がっていく草の影に紛れて、いくつもの人の影も空へと舞い上がっていた。





「リック・ノール前進!!」


 ランクストン総司令が叫んだ。


 長い長い砲身をつけた四角い鉄の塊が、煙を噴き上げ、無数の車輪を回し、戦場へ向かって前進する。

 十ニ台のリック・ノールはグラン・マルキノに向かって進んでいく。

 1kmほどの距離を取って動きを止めた。

 操縦士の一人が声を上げる。


「しかし総司令! リック・ノールは連続撃ちできません、あのグラン・マルキノを全部破壊するのは無理ですよ!」


「構わん! いまは壊せるだけ壊すんだ」


 操縦士は回転レバーを回す。砲身が上へと向いていく。

 十ニ台のリック・ノールはそれぞれグラン・マルキノへと照準を合わせた。


 ドォンドォン! ドォン! ドォンドォンドォン! ドォン!


 砲口が震えた直後、


 ドオオオオンッ! ドオオオンッ!!  ドオオンッ! ドオオオンッ!!


 グラン・マルキノの前部を守る鎧が砕け散った。

 いくつものグラン・マルキノが内部から爆発を起こし、破壊されていく。

 黒い煙を上げて動きを止めるグラン・マルキノ。



 草が降ってくる戦場、その中央前衛でミリアはグラン・マルキノを見渡す。


「破壊されたのは十ニ台…………あと七台か」




 残ったグラン・マルキノからさらに巨大砲弾が撃ち込まれる。


 ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!! ズオオオオオンッ!!


 地獄の業火がさらに解放軍を襲った。戦場を振動させるほどの巨大爆発により、解放軍の横陣がさらに崩れていく。


 その崩れていく解放軍をさらに追い込むように国軍の部隊が次々と攻撃を仕掛ける。

 剣兵隊や銃兵隊が冷静さを失った解放軍兵を次々と襲う。

 剣兵による連携攻撃、銃兵による連続発砲。国軍の連携のとれた攻撃が、解放軍兵をどんどん仕留めていく。



 戦場の一角、解放軍に猛攻撃を仕掛ける国軍兵たちの中で、特に動きの鋭い戦士がいた。

 アグレス・ロウレイブは長槍を振り回し、解放軍兵を次々となぎ払う。

 崩されていく陣形を守ろうと、必死で戦う解放軍兵たちだったが、ロウレイブの鮮やかな槍技の前ではまるで歯が立たなかった。


 ヒュゥンヒュゥンヒュゥンヒュゥンッッ!!


「ぬるい……! ぬるいぞ!!」


 解放軍兵たちはロウレイブに次々と斬り伏せられていく。


「そこまでだ」


「む……!」


 ロウレイブの前に一人の剣士が立ち塞がった。フロウだった。ロウレイブは足を止める。


「……きさまは見覚えがあるな」


 ロウレイブは笑みを浮かべる。

 フロウは落ち着いた様子で口を開く。


「セウスノールではどうも」


 その言葉を聞き、ロウレイブはフロウの姿をじっと見る。


「そうだったな、たしかきさまはクロコ・ブレイリバーと共に戦っていた」


「ああ、そうだ、クロコは僕の友達だからね」


 それを聞き、ロウレイブは嬉しそうに笑みを見せる。


「……クロコ・ブレイリバーの首以外には興味がなかったが、奴を葬る前に、その友の首を取るのも面白い。奴はさぞ悔しがるだろう」


「いい趣味してるね。だけど……今回はそう簡単にはやられないよ」


「私の攻撃をまともに受けることさえできない分際で……」


「まあね、今までだったらね」


 フロウは自らの剣を横に構えた。


「む……!」


 ロウレイブはその剣を見て声を漏らす。

 フロウの手には小型の剣が握られていた。その剣は幅が広く、細長い盾のようにも見える。


「……シールドソードか。変わった武器を使うな」


 フロウは鋭くロウレイブをにらむ。


「これが僕の新たな力だ」


「面白い……!」


 ロウレイブは長槍を両手で構えた。

 爆音が響き続ける戦場で、二人は黙ってにらみ合っていた。

 先に動いたのはロウレイブだった。

 鋭く長槍を打ち下ろす。


 ヒュゥンッ!!


 フロウは素早く横にかわす。しかしロウレイブの槍の軌道が一瞬で変化する。素早く放たれる横の斬撃。


 ヒュゥンッ!!


 フロウは身をかがめてかわした。


「やるな……しかし!」


 ロウレイブは軽やかなフットワークで、一瞬でフロウの横に滑り込んだ。ロウレイブの槍が打ち下ろされる。フロウは素早く反応したが、それはフェイントだった。槍の軌道は横へと変化する。


 ヒュゥンッ!


 ロウレイブの槍は勢いよく振られた。


 ギィィィンッ!!


 フロウはロウレイブの槍を受け止めた。余裕の笑みを浮かべる。


「軽いね」


「……あまり調子に乗るな。今のは小さく振っただけだ」


 ロウレイブは体を回転させる。


「だが! これは受け止められるかな……!」


 ロウレイブは体全体を回転させて勢いよく長槍を横に振った。


 ヒュゥゥゥンッッ!!


 フロウがその斬撃を受け止めようと構えた瞬間だった、槍は軌道を変え、フロウの足先へと伸びる。


「バカめ!!」


「……!!」


 一瞬の反応だった、フロウは素早く後ろへ跳んでかわした。そのフロウに向かってロウレイブが狙いすましたように追い討ちをかける。


「くらえ!!」


 ロウレイブは再び全身を回転させ、強烈な斬撃をフロウに放った。


 ガアアアアンッ!!


 フロウはロウレイブの斬撃を受け止めた。その小さな体はビクともしない。ほほえみを浮かべる。


「この程度かい?」


「………………」


 ロウレイブは後ろへ跳んで距離を開けた。

 フロウは口を開く。


「もともと僕はかわすのは上手かった。だけど防御は苦手だった。そのせいで攻め方が必然的に絞り込まれていたんだ。だけどもう、僕は自由に戦える」


 それを聞いてロウレイブは笑みを浮かべた。


「だからどうした。防御ができただけで、この私と対等になったつもりか?」


 フロウは鋭く見つめる。


「まさか……せっかく化け物を修行相手に選んだんだ。弱点の克服だけで済ますはずないだろ」


 その言葉の直後だった。フロウは動いた。一瞬でロウレイブを斬りつける。


「な……速い!!」


 フロウの速さにロウレイブは驚く。


 ギィンッ!!


 二人の間で斬撃がはじけた。フロウがさらに一歩踏み込む。鋭い斬撃がフロウから放たれた。


 ヒュンッ!!


「く……!」


 ロウレイブは後ろに跳んで紙一重でかわす、しかし素早くフロウが追撃する。


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 フロウから放たれる高速の斬撃の嵐。ロウレイブは避けきれない。いくつもの斬撃がロウレイブの軍服を裂く。


「チィ……! 図に乗るな!!」


 ロウレイブは軽やかなフットワークで、一瞬でフロウの横に回り込んだ。鋭い突きが飛ぶ。フロウは素早くかわそうとするが、突きは途中で軌道を変え、横の斬撃となってフロウを襲う。しかし、フロウはそれを見切っていた。


 ギィィンッ!!


 あっさり止めるフロウ。その直後叫んだ。


「はあっ!」


 フロウは力任せに長槍を弾き飛ばした。槍はロウレイブの意思に反して大きく横にそれる。ロウレイブの体勢がわずかに崩れたその直後、


 ヒュンッ!!


 フロウの斬撃が、一瞬でロウレイブの全身を切り裂いた。血しぶきが上がり、ロウレイブの体が後ろへと傾く。


「そんな……こんなことが…………すまない、サイ……」


 ロウレイブは草原に倒れ伏した。


 フロウは息一つ乱さず立っていた。



「やるじゃないか……」


 突然、フロウの前方から声が聞こえた。見ると、そこにはコール・レイクスローが立っていた。


「君か……」


 コールはゆっくりと歩み寄る。


「まさか、『一角獣』をあんなにあっさり倒すなんてね」


 コールはゆっくりと近づいてくる。静かにフロウを見つめていた。

 フロウは剣を横に構える。


「悪いけど、もう君には負けないよ」


「それはどうかな……?」


 コールは剣を前に構えた。その剣はフロウの知っているコールの剣とは明らかに違っていた。非常に長い剣だ。


「……!! 長剣か」


 コールは青い瞳で鋭くフロウを見つめた。


「強くなったのが、自分だけとは思わないことだね」








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