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5-17 中心に立つ者




 シャルルロッド基地の食堂のテーブルでスコアとアピスが話していた。


「もうすぐボクはゴウドルークスに招集を受けると思う」


「うん、分かってる……」


 アピスは少しうつむいている。

 その様子を見てスコアは笑顔を見せる。


「大丈夫、ボクは必ず戻ってくるから……」


「うん……」


 アピスは弱く返事をした。どこか様子が不自然だと、スコアはそう感じた。


「アピス……?」


「スコア!」


 突然、コールの声が響いた。驚くスコア。

 コールは勢いよくスコアの前に立った。


「大変だ」


 緊迫した様子のコール。それを見てスコアは戸惑った。


「いったいどうしたの?」


 コールは少し間をおいて息を整えたあと、ゆっくりと口を開く。


「ラティル大佐が死んだ」


 スコアは一瞬、耳を疑った。


「……え?」


 スコアは呆然としたまま口を開く。


「そ、そんなはず……だって、数日前まであんな元気で……」


 コールは辛そうに口を開く。


「殺されたんだ……例の重役殺しだ。ラティル大佐がその被害に……」


 スコアはまだ信じられない様子だった。


「ウソだ……そんなこと……」


 スコアの体がわずかに震えた。


「そんなはず……ない」






 グラウド国軍本部基地の広い廊下を、ライトシュタインは緊迫した様子で歩いていた。


「なんてことだ……」


 ライトシュタインは早足で廊下を歩く。


(ラティル大佐が殺された……やったのは間違いなく『レギオス』だ。ラティルはおそらく我々の協力者だった。ロストブルーが協力者として選んだ人物がラティルだった。だとすると、ラティルを殺したのは、ラティルが協力者として選んだ人物か。そうなるとロストブルー側の協力者はすべていなくなったと見ていい……そうなると…………)


 ライトシュタインの表情に徐々に緊張感が増していく。


(この状況はまずい……まず過ぎる。今すぐに行動を起こさなければ……!)





 夜のゴウドルークス。その闇に染まった巨大都市の中心には、首都のシンボル、デュークヴァン城がそびえ立っていた。ブルテン皇帝の権力の象徴である巨大で華やかな城も、夜の闇の中では、不気味にそびえる山脈のように見えた。

 その巨大な門の前に、ライトシュタインの姿があった。

 門に向かって真っ直ぐ歩くライトシュタイン。すると門の前に建つ警備兵二人が気付き、止めに入ってきた。


「止まれ、何者だ」


「国軍中将、ライトシュタインだ」


 ライトシュタインは冷静な様子で言った。

 二人の警備兵は同時に驚いた。


「ラ、ライトシュタイン中将……し、失礼しました!」


 もう一人の警備兵が口を開く。


「し、しかしライトシュタイン中将、こんな夜中にどのような御用で……」


「グランロイヤー総務大臣に会いにきた。現在皇務大臣代理として、城に身を置いていると聞いてな」


「は、はい、ですが……」


「緊急だ、すぐに通してくれ」


 二人の警備兵は一瞬顔を見合わせる。


「……分かりました。しかし、ご存じだと思いますが、四階以上は皇族以外立ち入り禁止です。たとえ議員の方でもです。ご注意ください」


「分かっている」


 ライトシュタインは城の中へと進んでいった。





 デュークヴァン城五階、そこの暗い階段の前には皇帝護衛の近衛兵が二人立っていた。

 わずかな火と、月明かりの光だけの暗い空間の中、片方の近衛兵が口を開く。


「今日は特に月明かりが弱い。なんか不気味な夜だな」


「おい、あまり口を開くな」


 もう片方の近衛兵が注意した。


「分かってるよ、けどどうも落ち着かなくてな」


「…………まあ気持ちは分かるよ。最近変な事件が多いからな」


「ああ、巨大な事件から、妙な事件までな。今夜だって………………ん!?」


 近衛兵の片方が素早く剣を抜いた。それを見てもう一方の近衛兵も剣を抜く。

 向かいから人影が近づいてきていた。


「誰だ!!」


 二人は剣を構える。

 近衛兵たちの前に、ライトシュタインが現れた。


「ここを通してくれないか?」


「あなたは……ライトシュタイン中将。なぜあなたがここにいる!?」

「ここは皇族以外立ち入り禁止だぞ!!」


「知っている」


 ライトシュタインは冷静な様子だ。

 近衛兵はしっかりと剣を構え、ライトシュタインをにらむ。


「どういうつもりだ!」

「ここから先は皇帝陛下の寝室だぞ!!」


「知っている、皇帝陛下と話がしたい」


 ライトシュタインは小剣を抜いた。


「黙ってここを通してほしい……できれば、君たちを斬りたくはない」


 その言葉を聞いて、二人の近衛兵の表情が一気に緊迫する。


「く……!」


「おい、どうする!?」


「斬るぞ、たとえ中将とはいえ、皇帝陛下の寝室に侵入するなど許されることではない」


 近衛兵の二人はライトシュタインに斬りかかった。


 ヒュンッ!!


 ライトシュタインの小剣は、近衛兵の一人を切り裂いた。


「ああ……!!」


 短い悲鳴と共に近衛兵の一人は床に倒れた。


「この!!」


 もう一人の近衛兵がライトシュタインに斬りかかる。


 ギィンッ!!


 互いの剣がぶつかり合った。二人は鋭い斬撃を連続でぶつけ合う。


 ギィンギィンギィンッ!!


「流石は近衛兵……手強い……だが」


 ヒュンッ!!


 ライトシュタインの小剣は近衛兵の体を切り裂いた。

 勢いよく倒れる近衛兵。

 痛みで苦しむ二人の近衛兵を置き去りにして、ライトシュタインは皇帝の寝室へと歩いていった。


 階段を上るライトシュタイン。その先の短い廊下のさらに先に、扉があった。ライトシュタインは扉を開け、部屋へと入る。


「誰だ……!」


 すぐに声が飛んできた。炎に照らされた広い部屋、数々の修飾品の姿が、炎に照らされてぼんやりと浮かびあがっている。部屋の中央の白い机に、長いひげと長い髪の老人が座っていた。ブルテン皇帝だ。


「な、なんだ、誰だ貴様は!?」


 ブルテン皇帝は怯えたように声を張り上げる。


「十六年ぶりですね、皇帝陛下」


 ライトシュタインは入口の前で足を止める。


「じゅ……十六年ぶり……?」


「お忘れですか、ザベル・ライトシュタインです」


 ブルテン皇帝は落ち着かない様子でにらみつける。


「な、なぜ貴様がここにいる!? すぐに出て行け! へ、兵を呼ぶぞ!!」


 ライトシュタインはじっとブルテン皇帝を見つめる。


「落ち着いてください。私は陛下に何かしようとここに来たのではありません。陛下にどうしてもうかがいたいことがあって来たのです」


「で、出て行け!! 貴様に教えることなどない」


「………………」


 ライトシュタインはじっと観察するようにブルテン皇帝を見つめる。


「…………陛下、話をするだけです」


「く……出て行け!」


 ブルテン皇帝は、部屋の隅に設置されているロープに視線を移す。

 ライトシュタインは素早くそれに気づいた。


(城中にベルを鳴らす、非常用のロープか)


 ブルテン皇帝は立ち上がり、部屋の隅にあるロープに右手を伸ばそうとする。それを見た途端だった、ライトシュタインは、ブルテン皇帝をにらみつけた。


「誰だ……おまえは……?」


 ライトシュタインの殺意に満ちた低い声で、ブルテン皇帝の動きが止まった。


「皇帝は……左利きだ」


 ライトシュタインの声が響いた直後だった。皇帝の喉の奥から小さな声が漏れ始める。


「……ヒ……ヒ……ヒヒ………」


 皇帝は痙攣するように体を震わした。


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……」


 ライトシュタインは小剣を引き抜いた。




 カンカンカンカンカンカン!!


 城中に巨大なベルの音が響き渡った。城中の近衛兵たちが一斉に皇帝の寝室へと駆けつける。初めに来た数人が、寝室へと続く階段の前に倒れる二人の近衛兵に気づく。

 それを見て、先頭の近衛兵が仲間に呼びかける。


「おまえはこの二人を! 私たちは寝室へ急ぐぞ!!」


 一人を残し、あとの三人の近衛兵は寝室へと飛び込んだ。

 炎が消え、部屋は闇に包まれていた。


「火をつけるんだ、早く!!」


 近衛兵の一人が部屋に明かりをともした、その時だった。


「うわあああああ!!」


 部屋の壁に皇帝が寄り掛かって倒れていた。胸の真ん中からは大量の血が流れ出ている。


「な……なんてことだ」


 近衛兵たちは一瞬立ち尽くした。


「医者だ!! 早く医者を!」


 叫ぶ近衛兵の前に、先ほど残してきた近衛兵が駆けつけてきた。何かを報告しようと口を開きかけたが、部屋に倒れている皇帝を見て言葉を失う。


「何だ、何を言おうとした!!」


 その言葉にハッと正気を取り戻す。


「ラ……ライトシュタインです。倒れている近衛兵はまだ息があり、ライトシュタイン中将がやったと」


「な……なんだと!?」





 すぐに城中に明かりがともされた。廊下という廊下を近衛兵たちが騒がしく駆け回った。


 ドンドン!!


 グランロイヤーの寝室が騒がしくノックされる。

 ノソッと動き、扉を開けたグランロイヤーに、緊迫した近衛兵の顔が飛び込んできた。


「グ、グランロイヤー総務大臣!!」


「な、何かね、一体……」


 近衛兵の様子に驚くグランロイヤー。


「詳しいお話はできないのですが…………我々はいまライトシュタイン将軍を探しているのです。見かけてはいませんか?」


「え? ライトシュタイン?」


「はい、ライトシュタイン将軍です」


「見かけるも何も、私はずっと寝室で仕事をしていたから……」


「分かりました、もし万一ライトシュタイン将軍の姿を見つけたら、すぐに城の兵士にご連絡を」


「あ、ああ……分かった……」


 部屋の扉は閉められた。

 グランロイヤーはゆっくりと部屋のイスへと進んで、ため息をついた。


「ふう……」


 イスへと腰掛けるグランロイヤー。


「城中が騒がしいし……あの近衛兵の様子…………一体何をやらかしたっていうんだ。君は……」


 向かいにはライトシュタインが座っていた。


「………………」


 ライトシュタインは軽くうつむきながら、静かに口を開いた。


「ブルテン皇帝を殺してきた」


「……!!」


 グランロイヤーのイスが勢いよく揺れた。


「お……おい……!!」


「だがあれはブルテン皇帝ではない。偽物だった」


「え……? に、偽物……」


「ああ、ブルテン皇帝とうりふたつのな」


「じゃあ、本物は……?」


「………………」


 ライトシュタインは口元を険しくした。


「なぜ、やつらが、ここまで国を自在に操れたのか、やっと分かったよ」


 ライトシュタインのその言葉に、グランロイヤーは呆然とした。


「ま、まさか、皇帝をすり替えたのは……?」


「ああ、そして、もう本物は……この世にはいないだろう」


 グランロイヤーは言葉を失った。

 ライトシュタインも黙る。

 少しの静寂の後、グランロイヤーが口を開いた。


「こ、こんなことが……こんなことがあっていいのか……」


 おびえた声だった。


「奴らがここまでの力を持っていたなんて……」


「私も完全に誤算だった」


「ザベル、その皇帝を偽物だと証明できるんだろうな」


「できないだろうな。現実にはできるが、奴らにかき消されるだろう」


「じゃ、じゃあ、君はもう……」


 グランロイヤーは徐々に冷静さを失っているようだった。


「な、仲間は……いま何人ぐらいいるんだ?」


 グランロイヤーはすがるようにライトシュタインを見つめた。

 ライトシュタインは冷静に口を開いた。


「君と私だけだ」


 グランロイヤーは恐怖で震えた。


「そ……そんなことが……」


「こんな状況だからこそ、このような行動をとるしかなかった」


 グランロイヤーは顔を手で覆い、少しのあいだ固まっていた。やがて手を下ろしライトシュタインを見つめた。


「なあ、ザベル、一つ答えてくれないか?」


「なんだ」


「私と君は……一体これから、どうなるんだ?」


 その質問を聞いて、ライトシュタインは黙った。

 部屋が静寂に包まれる。

 ライトシュタインは冷静な表情でグランロイヤーを見つめていた。ライトシュタインの口がゆっくりと開く。


「君が、それを私に聞くのか?」


「え…………?」


「『ダークサークル』を引き起こした張本人は、君だろ」



 部屋が再び静寂に包まれた。遠くで響く近衛兵の声が、部屋の窓から入ってきた。それ以外の音は部屋にはない。

 夜の静かな部屋でライトシュタインとグランロイヤーは向かい合って座っていた。


「お……おい、冗談はやめてくれよ、ザベル」


 グランロイヤーは笑いかけた。


「私が首謀者だって? 君は何を言って……」


「偽物の皇帝…………アレにもう少し忠義心を植え付けておくんだったな」


「え……?」


「胸に剣先を当てただけで、色々と話してくれたよ」


 ライトシュタインの言葉の直後、グランロイヤーは口を閉ざし黙った。

 わずかな静寂の後だった。


「ククク…………ハハハ……」


 グランロイヤーの口からわずかに笑い声が漏れた。


「ハハハ……ハハハハハハ!!」


 グランロイヤーは鋭い笑い声を響かせた。

 ライトシュタインは冷静にその様子を見つめている。

 グランロイヤーは冷たい目でライトシュタインを見つめる。


「そうだよ、私が『レギオス』のトップ。『ダークサークル』を引き起こした張本人だ。だがまさかこのタイミングで気付かれるとはな。あんな偽物のじじいに足を引っ張られるとは夢にも思わなかったよ」


「いや……」


 ライトシュタインは冷静な様子だ。


「一応、あの偽物の名誉のために言わせてもらえば、あれから情報を得たわけではないよ。君が首謀者だと確信したのは、今さっきだ」


「…………!」


 グランロイヤーは一瞬驚いたあと、悔しそうに笑みを浮かべた。


「とんだ子供だましに引っ掛かってしまった訳か……」


「別に気にすることはない、事件の夜は誰もが冷静ではいられないものだ。あの偽物がすぐに非常用ベルを鳴らしたせいで、問い詰める時間がなかったんだ」


「……だが、私にカマを掛けたということは、君は私を疑っていたという訳だな。いつだ? いつの段階で疑っていた?」


 ライトシュタインはじっとグランロイヤーを見つめる。


「初めからだよ」


「…………協力を頼んだ時からか」


「私は始めから君に目星をつけて、君を監視するために協力を要請するふりをした」


「君は言ったな、私の言葉や発言が信頼に値すると……」


「あいにく私は、人を言葉だけでは絶対に信用しない」


「……大した狐だ。なるほど、私と君が手を組んだふりをした時点で、私と君は騙し合いをしていたという訳か。…………だが、なぜ私を疑った?」


「理由は二つある」


 ライトシュタインはゆっくりと話し出す。


「まずは、ダークサークルの動きだ。国の荒れ具合は、皇族と貴族、そして国軍に、富と権力の偏りを見せていた。この現象について単純に考えれば、皇族や貴族、国軍の増長を狙っていたかのように思える。しかし実のところ、狙いは逆。偏り過ぎた富や権力……巨大になり過ぎた力は、ピークを過ぎれば必ず衰退へ向かう。国民の怒りを買った皇族と貴族……解放軍やルザンヌ軍に刃を向けられた国軍……。つまり本当の狙いは、それら国家権力の弱体化だったわけだ。そうなると残る権力は議員、特に大臣たちの権力だ。その視点で物事を見れば、もっとも疑うべきはその大臣の中心、つまり総務大臣の君だ」


「ふ……大したものだ、外側からこちらの狙いを的確に見極めていたとはな」


「ああ、だがこれはあくまで表面的な推測にすぎない。決め手となったのは、君の内面だよ」


「私の内面だと……?」


「そうだ、君は、常に皮をかぶっていた。快活で、人なつっこく、素直な人間を装っていた。そういう人間の前では、人は心を開き、信用することを知っていたんだ。私にもそれに近い時期があったから良く分かったよ……。そういう人間を演じ、人に取り入り、邪悪な意思で意のままに操ろうとする。それが、私が君を疑う最大の理由となった君の内面……つまり、君の本性だ」


「………………」


「ついでにもう一つ言わせてもらおう。総務省に君に見せたもらった資料。あれには改ざんの跡があった」


「……気付かないように、自然に見える形で改ざんしたはずだが」


「確かに一見、改ざんしたかしないか判断できないようにしてはあった。しかし部分部分で完璧にカモフラージュできても、それを全体として見れば、その部分は必ず浮き出て見えるものだ。物事を判断するときは、理屈やつじつまだけで見てはいけない、最も重視すべきは経験から得た感覚だ」


「………………大したものだ」


 グランロイヤーは一瞬苦笑いを見せた。


「君を相手に一対一の騙し合いの勝負をしたこと自体が失敗だったわけだ。結果的に、こちらの情報だけを一方的に吸い取られる形になった。やはり君は恐ろしい男だよ」


 グランロイヤーは自信に満ちた笑みを浮かべる。


「だが、最後に勝つのは私だ。君は仲間を全て失い、たった一人。さらに逆賊として国中を追われる羽目になる。もう君には何の手だてもない」


「それはどうかな?」


 ライトシュタインは素早く立ち上がり、小剣を引き抜いた。


「ここで君を斬れば、私の逆転勝利ということになる」


「そんなことは……」


 グランロイヤーは懐に忍ばせていた小銃を素早く取り出した。その小銃が火を噴く直前だった。


 ヒュンッ!!


 ライトシュタインの斬撃が、小銃を真っ二つに切り裂いた。

 グランロイヤーは驚き立ちあがり、数歩下がった。

 そのグランロイヤーに対し、ライトシュタインは剣先を向ける。


「チェックメイトだ」


「それはどうかな?」


 グランロイヤーの顔から余裕の笑みが浮かぶ。


「私にはまだ、切り札があるのだよ」


 その言葉の直後だった、部屋のガラスが勢いよく割れ、ベランダから人影が飛び出してきた。


 ギィィィンッッ!!


 ライトシュタインの剣と、リーヴァルの剣が互いにぶつかり合った。二人の剣は交差したまま震える。


「リーヴァル・クロスレイか……!!」


 ライトシュタインの表情か険しくなる。

 リーヴァルが腕に力を入れた途端、ライトシュタインの剣は勢いよくはじかれた。


「く……!」


 後ろに下がるライトシュタイン、それを追撃するリーヴァル。直後、二人のあいだで、数発の斬撃が交錯した。その直後、ライトシュタインの脇腹が裂けた。


「ぐぅ……!」


 ライトシュタインは苦しそうに後ろへ下がった。

 その様子をグランロイヤーは楽しげに眺める。


「無駄だよザベル。彼には絶対に勝てない。私が見つけた最高の才能だよ」


 脇腹を押さえるライトシュタインに、リーヴァルがにじり寄る。リーヴァルが鋭く斬りつけようとしたその瞬間、ライトシュタインは懐から何かを取り出し、床に叩きつけた。その直後、白い煙幕が部屋中を満たした。

 驚くグランロイヤー。


「発煙弾か!! リーヴァル、私を守れ!!」


 リーヴァルは素早くグランロイヤーの前に立った。


「流石はザベル、用意がいい」


 煙が収まると、部屋にはライトシュタインの姿だけが消えていた。


「逃げたか……」


 するとリーヴァルが口を開いた。


「ですが……」


 リーヴァルは床を見る。床には大量の血だまりが残っていた。血は廊下へと続いている。


「私がつけた傷は浅くはありません。遠くまでは逃げられないはず」


 リーヴァルは冷静な様子だ。


「そうか……ならば追えリーヴァル」


「生け捕りになさいますか?」


「いや、殺せ」


「承知しました」


 リーヴァルは駆けだした。

 リーヴァルは廊下へと続く血の跡を追う。血の跡は近衛兵の掛け声から遠ざかる形で、廊下の奥へと続いていた。リーヴァルはその血を延々とたどる。そのまま廊下の角を曲がった時だった。


「クソ……」


 血がきれいに途絶えていた。


「悪あがきを……」





 闇に沈むデュークヴァン城のベランダの一つに、ライトシュタインの姿はあった。手すりに寄り掛かりながら、どうにか立っている。脇腹のケガを押さえながら、苦しそうに息を乱す。


「まだだ…………まだ……」


 ベランダには血だまりができていた。


「見つけたぞ」


 ベランダにリーヴァルが入ってきた。


「もう無駄だ、あきらめろ」


 リーヴァルは大剣を片手にゆっくりと近づいてくる。

 ライトシュタインは手すりに寄りかかりながら、リーヴァルの方向を向き、真っ直ぐにその姿を見つめた。


(どうやら……)


 ライトシュタインはゆっくりと床に腰をつけた。


(どうやら死の瞬間が来たようだな。私の命はここで尽きる…………)


 リーヴァルが目の前に立った。それを見て、ライトシュタインは静かに目を閉じた。


(すまないソラ。チェスの約束、守れなかった……)




 大剣は振り下ろされた。

 ライトシュタインの体は切り裂かれ、大量の血しぶきが上がった。その体はベランダの床に倒れ伏した。






 それと時を同じくして、デュークヴァン城から一羽の小型の手紙鳥が飛び立った。







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