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0-10 スコア・フィードウッド(後編)



 スコアは朝早く、荷車に商品を詰めて出かけようとしていた。


「これでよしっと」


 荷車に箱を積み終えたスコアに、母が駆け寄ってくる。


「待ってスコア。これもお願い」


 母の手にはうさぎの木彫り細工があった。うさぎとは思えないようなポーズを取っている。首も妙に長い。


「えっと、確か『青く発光しながら空を飛ぶうさぎ』……だったよね。なんだか変わったうさぎだね」


「ええ、発光しながら空を飛ぶ様子を表そうとしたら、少し変わった感じになっちゃったわね。でもかなりうまくいったと思うわ。かなりの自信作よ。 ……どう?」


「う、うん。いいと思うよ」


 スコアはその木彫り細工も箱に入れる。


(いまだに自信作と失敗作の見分けがつかないんだよなぁ)


「スコア、気を付けてね」


「うん、それじゃあ行ってくるよ」


 スコアは出発した。

 その日は少し冷たい風が町に吹いていた。荷車を引いてスコアは歩く。


 数時間後、今度は迷うことなく、町のはずれの市場にたどり着くことができた。


(今日こそは、なんとか商品を売ろう)


 そう思ったスコアだが、昨日の嫌な記憶が少しだけよみがえる。


(もし、昨日の人にまた会ったら…………いや)


 スコアは必死に自分を勇気づけた。


(怖がっててもしょうがない。とにかくお金を稼がないと……)


 スコアは市場全体を見渡した。昨日とは商人の顔ぶれも違い、布の敷かれている位置も変わっていた。昨日見た筋肉質の男は、今日は見かけなかった。

 スコアは適当に空いているスペースを見つけ、そこに商品を並べて、商売を始めた。

 人影はポツポツと見えるが、ほとんどの客はスコアの店に見向きもしなかった。


 それから数時間が経っても、店の商品は一つも売れなかった。


(全然客が来ない……数人は見てくれたけど、すぐに行っちゃったし……せっかく勇気を出してもう一度来たのに、徒労に終わっちゃうのかな……)


 スコアが小さくため息をついた時だった。中年の小男が、スコアの店をのぞいた。


「いらっしゃいませ」


 小男は、じっと母の作った木彫り細工を眺めていた。興味を示してくれたようだ。


「ど、どうですか?」


 子男はひげを触りながらうなずいた。


「ふむ……私はね、レデツリーの出身の商人なんだがね」


「レデツリーっていうと木彫り職人の聖地ですよね」


「ああ……もしかしたら、レデツリーで高値で売れるかもしれん」


「ええ!?」


(母さんの作品が……よりによってレデツリーで売れるって!? そんなすごかったのか!?)


 子男はまじまじと母の木彫り細工を見つめながら口を開く。


「レデツリーの木彫り細工はね……なんていうか、完成度はすごいんだけど、どの職人も、なんて言うか、似たり寄ったりでね。同じようなものばかり作るんだ。そのせいで、最近若い職人のあいだで木彫り細工の新境地を開拓しようって運動が盛んになってね。その関係で個性の強い作品に高値がつくようになったんだよ。ここの商品、個性はすごいよね」


「そ、そうですよね。個性だけはどこにも負けないと思います」


「これと、これと、これと、あとここら辺にあるの全部……もらえないかな」


「え!? 買っていただけるんですか?」


「ああ」


「あの……この『青く発光しながら空を飛ぶうさぎ』は、少し高めで3200バルするんですが」


「ああ、構わんよ」


「はい! ありがとうございます、全部で36500バルになります」


「36500バルね……はいよ」


 男は金を払って、二十近くの木彫り細工を買っていった。


(やった、やった、やった!)



 スコアはその日、軽い足取りで帰宅する。


 夕暮れの空、店にたどり着く直前だった、スコアは馬にまたがったフレアに会った。


「ようスコア」


「フレア、見回り?」


「ああ……」


 フレアは馬を停めて、降りる。険しい表情でスコアの前に立った。


「また殺人だ。今回で四件目」


「また……」


「おまえも気をつけろよ」


「うん……」


(またか……市場に行くのは残念だけど、しばらくは無しだな。店に母さん独りにしておくわけにはいかない)


「手がかりはつかめてるの?」


「そうだな、目撃情報はあるんだけど、仮面と黒いローブで姿を隠してるらしいからな。それでもガタイは良かったから男だろうって。あと凶器が中型の刃物ってことは分かってる」


「そっか、それだけじゃ探すのは大変だね」


「ああ、だから見回りが中心だよ。とにかく気をつけろよ」


「うん」


「ついでにおばさんの顔も見てくかな」


 そう言ってフレアはそのままスコアについてきた。


「ただいま」


 スコアが戻ると、母はすぐに笑顔を見せた。


「おかえりスコア、あら、それにフレアも」


「こんにちは、見回りのついでです」


「あら、わざわざ来てくれてアリガト。そうだ! 聞いてスコア。今日店の商品がたくさん売れたのよ」


「え!? 母さんも」


「そうなの、いくつも商品を買ってくれたお客さんがいてね。それにほら、私の自信作のひとつ『逆さで高速回転しながら踊るカニ』も買ってくれたのよ」


「え、あの特に変……じゃなくて、特に自信を持ってたアレを……」


「ええ、そうなの、ただ少しだけ変わった人だったけど」


「ええ、それは分かります」


 フレアがパッと答えた。






 営業を終えたスコアは、外の道路に出て、夕焼けの空を眺めた。


(今日は本当にいい日だった。母さんの店で商品が売れたのも、レデツリーの運動と関係あるのかな? だったらこれから木彫り細工が今より多く売れるようになるかも)


 スコアは将来への希望が少し湧いてきた。


(これからうまくいくようになるかもしれない)


 するとコウモリがキーキーとうるさく鳴き声を響かした。


(騒がしいな……どうしたんだろ)


 コウモリの鳴き声に導かれて、スコアが数歩道路へと歩いた、その時だった。


 ドンッ!


 何かにぶつかりスコアは吹っ飛ばされた。見ると、すぐ近くに柄の悪い男が立っていた。

 筋肉質の眼つきの悪い男だ。昨日、市場でスコアを追いだした男だった。


(市場はここから大分離れてる。どうしてこんな所に……)


 スコアが呆然と男を見つめていると、男はギロリとにらみつけてきた。


「テメエ……この前の……」


 スコアはハッとした。


「ご、ごめんなさい」


 スコアはすぐに謝ったが、男はスコアの首をつかんで、押して、店の壁に叩きつけた。


「どうやら全然こりてねーらしいなあ」


 スコアの首はギリギリと力づくで絞めつけられた。


「うう……」


 苦しむスコアを、男は血走った眼でジロリと見つめた。


「オレをなめたらどうなるか……分かってねぇみてぇだなあ」


 男は大きなナイフを取り出して、それにほおずりをした。


「オレはなあ、おまえが思ってるより、ずうっと恐ろしい男なんだぜ。ヒヒヒヒ」


 男の明らかにおかしい様子を見て、スコアは背筋がゾッとした。


(がたいがよくて、中型の刃物。まさか……!)


「な、何してるの!!」


 母が気付いて店から飛び出してきた。

 男は母をじっと見つめた。


「おまえの母親か……? いい女じゃねえか、まだ若い。オレの好みだ……」


 男はスコアの首から手を離し、母の方を向いた。ナイフを持ったまま、血走った眼でゆっくりと母ににじり寄る。


「やっぱり女は良いぜ。女はな……」


 母が恐怖で一歩下がった。その時だった。スコアは男を鋭くにらみつけた。


「母さんに手を出すな……!!」


 次の瞬間、スコアの拳が男のアゴを勢いよく打ち抜いた。男の体はぐらりと揺れ、その場で大の字になって倒れた。


「ス、スコア……」


 母はその様子を見て驚いていた。殴った本人であるスコアもその状況に驚いて呆然としている。

 少しのあいだ、二人が立ち尽くしていた時だった。


「どうした、何の騒ぎだ!」


 見周りの兵士が三人、馬に乗って現れた。


「息子が……この男に襲われていて……」


 母がすぐに声を出す。兵士の一人が馬から降りて、気絶している男を見る。


「ナイフを持ってる……それにこの体つき。まさかこいつ……とにかく連行しよう」


 男は縄で縛られて連れていかれた。

 その様子を見送りながら、母は一言言った。


「でもどうしてあの男、スコアを襲ったのかしら」


「道でぶつかっちゃって、その前も市場で一回もめたんだ……。でも、よりによって、それが殺人犯だったなんて……」


「不運だったわね。でもこれで捕まったから良かったわ。これで一件落着ね」


 母は嬉しそうに言った。



 その日の夜、二人はテーブルを挟んで話をした。


「へえ……レデツリーでそんなことが」


「うん、これから店の売り上げも良くなってくるかもしれない」


「そう……」


 母は少しだけ何かを考えている様子だった。


「大丈夫だよ、母さん。ボクもがんばるから、この店はきっとうまくいくようになるよ」


「そうね」


 母は笑顔を見せた。


「スコアもやる気があるし、とにかく今は頑張りましょう」






 夜のシャルルロッド基地の廊下でフレアは一人壁に寄り掛かっていた。すると近くのドアが開き、若い兵士が一人出てくる。


「どうでしたか、あのナイフ男は?」


 フレアが兵士に訪ねた。


「知らないの一点張りだよ。……とはいえ、見た目は目撃情報とは一致するしなあ」


「…………」


 フレアは少し何かを考える様子を見せたあと口を開いた。


「確かに相当悪そうには見えますけどね。だけど、あれほど異常な事をするほどおかしい奴にも見えないんですよね」


「…………確かにな。オレも正直そう思うんだ」


 すると、別の年配の兵士が廊下側から現れた。


「どうだった?」


 若い兵士が苦笑いを浮かべる。


「何だか自信がなくなってきましたよ」


 年配の兵士が残念そうに眉を寄せる。


「そうか…………別の線で考える必要もありそうだな。それと関係して何だが、今日の昼に、気になる目撃情報が入っててな」


「目撃情報?」


 フレアが反応する。


「ああ……四件目の被害者、花屋の若い女の子の件なんだけどな。その店の客の一人が、殺された日の昼、妙な男性客を見たって言ってるんだ」


「妙って、どういう風にですか」


「見た目は普通だったらしいんだ。むしろ小ぎれいな格好をしてたらしいんだが、その客がその子に、変な質問をしてたそうなんだ」


「変な……質問……?」


 その時だった、フレアの脳裏に、夕方、スコアとスコアの母とした会話の内容がよみがえった。


「そうなの、いくつも商品を買ってくれたお客さんがいてね。それにほら、私の自信作のひとつ『逆さで高速回転しながら踊るカニ』も買ってくれたのよ」


「え、あの特に変……じゃなくて、特に自信を持ってたアレを……」


「ええ、そうなの、ただ少しだけ変わった人だったけど」


「ええ、それは分かります」


 フレアがパッと答えた。


 そのすぐあと、スコアが話を続けた。


「どんなふうに変だったの?」


「それがね、変わった質問をしてきてね」



 フレアの心臓からドクンと嫌な音がした。




『国軍は好きですか?』



 フレアは、一瞬で緊迫した。


「まずい……!!」





 ガンガンガン!!


 スコアの家のドアが乱暴に鳴った。


「なに……?」


 居間に一人でいた母は、ドアの方へと歩いていった。

 母がドアを開けたその瞬間だった。

 母は見た。目の前に、大きな男が立っているのを。黒いマントに身を包み、禍々しい大きな目玉のヤギの仮面をつけていた。手には大型のナイフが握りしめられている。

 その男はブツブツと独り言のように何かをつぶやいていた。


「愚かなる国軍に従う、罪深き下僕…………国民の裏切り者に……血の制裁を……!!」


 家中に母の甲高い悲鳴がこだました。



 悲鳴を聞きつけ、居間へと駆けつけたスコアが見たものは、部屋の隅で震え上がる母と、その母にナイフ片手ににじり寄る不気味な風貌の男だった。


「やめろオオオオオオ!!」


 スコアは男に突進し、勢いよく体をぶつけた。男はテーブルを巻き込んで、大きな音を立てて倒れ込んだ。スコアは素早く立ち上がり部屋に置いてある自衛用のこん棒を拾い上げた。


「ァァァアアァァアア!!」


 男は奇声を上げ、立ち上がった。


「血の制裁を、血の制裁を、血の制裁をオオオオ!!」


 スコアは震えながらも男と向かい合い、こん棒を構えた。


「ァアァアァア」


 男はスコアに向けた斬りつけた。そのナイフをスコアは素早くかわした。


 ゴッ!!


 こん棒が、男の仮面に直撃した。仮面は勢いよく割れ、鼻血と共に男の素顔が現れた。


「あ……昼間の人……」


 母は呆然と声を漏らした。男は大きな音を立て、勢いよく仰向けに倒れた。男に巻き込まれ、ランプの灯が床に燃え移る。スコアはそれには目もくれず、すぐに母に視線を移した。


「か……母さん」


 スコアが母の方を振り向いた瞬間だった。スコアの体から血が噴き出た。ナイフが体を貫通していた。男はいつの間にか上体を起こし、スコアにナイフを突き立てていた。

 スコアの姿を見て、母が悲鳴を上げた。


「スコア、スコア!」


 スコアの体がよろける。男は再び立ち上がり、狂気に満ちた目でスコアをにらみつけていた。炎が徐々に床を満たしていく中で、男はナイフを再び構え、スコアににじり寄ってくる。


「うう……」


 スコアは必死で向かい合い、こん棒を構える。

 男は再び奇声を上げ、スコアに斬りかかる。スコアはよろけながらも、ナイフを紙一重でかわし、再びこん棒を男の肩に叩きつけた。鈍い音が響き、男の体がよろける。

 その男の体を、さらにこん棒で殴りつけた。


「ぎゃあああああ!!」


 男は叫び声を上げたが、その体は倒れることはなかった。ナイフは再びスコアの体を切り裂いた。


「うわああああ!!」


 スコアは苦痛で叫び声を上げた。血が大量に床に飛び散る。スコアの体はバランスを崩し、ついに床に倒れてしまった。

 スコアは苦しみながらも力を振りしぼり、なんとか上半身だけ起こしたが、男はすでにナイフを振り下ろそうとしていた。


「血の制裁をオオオオオオオ!!」


 スコアに向かってナイフが一直線に振り下ろされた。部屋中に大量の血が飛び散る。

 スコアは我が目を疑った。

 スコアの前に、母が盾になるように立っていた。その体は無残に切り裂かれ、おびただしい血が噴き出ていた。


「うわあああああああ!!」


 スコアは叫んだ。激痛すらも忘れる悪夢のような光景だった。

 母の体は力無く、床に倒れ込んだ。その時だった、ドアが乱暴に開かれ、フレアが部屋へ飛び込んできた。フレアは部屋を燃やす炎に一瞬驚いたあと、すぐにその炎に照らされる母の姿に気付いた。フレアは一瞬呆然としたあと、見る見るうちに怒りの表情に変わっていく。


「このヤロォォォ!!」


 フレアは男に向かって突進した。男はナイフで斬りかかってきたが、フレアは小剣を引き抜き、男の体を一瞬で切り裂いた。


「ガアアアア!!」


 男の体は引き裂かれ、大きな音を立て、倒れ伏した。フレアはもがく男の前に立ち、その体にさら剣を突き立てた。男は悲痛な叫びを上げながら息絶えた。


「クソ…………」


 フレアは悔しそうに言った。

 すぐにフレアは棚の上の水びんに手をかけ、床全体にまき散らした。それによって炎の勢いが徐々に衰えていく。


 わずかに燃える炎で照らされる部屋で、スコアは血で染まった母の体に覆いかぶさっていた。

 母は虚ろな目で、スコアを見つめる。


「スコア……無事……?」


 小さな声だった。


「母さん……」


「良かった……」


 母は安心したように言った。


「いやだ……母さん、死なないで……」


「ごめんなさい……」


「母さん……」


「スコア……最後に良く聞いて」


「最後なんて、聞きたくない」


「お願い……」


「……」


 母は優しく見つめる。


「高く、空を飛べるのは、鳥だけとは限らない。いつかあなたが瞳を輝かせて生きていく姿を、私は何度も思い浮かべたわ。だからあなたは…………あなたの行きたい場所へ。あなたのなりたいものに………………」


 母の言葉が途切れた。


「母さん…………? 母さん!!」


 母はもう動かなかった。


「ウソだ……ウソだ……こんなはずない……こんなはずない……」


 動かなくなったその体の上でスコアは震えた。

 フレアは思わず目を逸らしそうになったが、必死でスコアを見つめた。


「スコア……」


 フレアの呼びかけに、スコアは全く反応しない。母の体を覆ったまま、ずっとつぶやいている。


「ボクは……守るんだ……母さんを……ずっと……ずっと一緒に……」


 スコアは泣いていなかった、ただ震えるようにその場でつぶやき続けていた。


「守るって約束したんだ。ボクが……ボクが母さんを守るって……! なのに……なのに……どうして……? ボクはボクは、母さんに……母さんに……」


 スコアの体はガタガタと震え出した。

 大きな叫び声が部屋中に響き渡った。






 数時間後、商店街の道路に五、六人の国軍兵が集まっていた。大きな店同士のあいだの狭いスペース。小さな店があったその場所には、建物の形をした燃えカスがポツンと存在していた。

 道路では引っ張り出された殺人犯の死体を国軍兵たちが囲んでいる。

 その少し離れたところに、母の死体が同じように置かれていた。

 そのすぐ隣に、スコアは座っていた。下を向いたまま、まるで動く気配がない。



 その近くで、ラティルは兵士たちと話をしている。


「一連の殺人事件、犯人はコレで間違いなさそうだな」


「はい、犯人の姿も目撃情報と完全に一致しています」


 確認を取ったラティルが、兵士たちから離れた時だった。ラティルの目の前にスコアは立っていた。


「スコア・フィードウッド……」


 スコアは真っ直ぐラティルを見つめていた。


「すまなかったスコア。我々がもっと早く……」


 そのラティルの言葉をスコアの声がさえぎった。


「ラティル中佐、決めました」


「……? なにをだね」


「ボクを軍に入れてください」


 その言葉を聞いてラティルは一瞬戸惑った。

 スコアはラティルを真っ直ぐ見つめていた。


「欲しいんです、力が……大切なものを守る力が……」


 ラティルを真っ直ぐに見つめていたスコアの目から、遅れた涙が流れ出してきた。


「ボクは母さんに守られた。命を助けられた。ボクが弱かったから……」


 涙であふれるスコアの目、その目に浮かぶ深い青い瞳は力強くラティルを見つめていた。


「ボクはもう……誰にも守られたくない………………強くなって、大切なものを、守れるように、なりたい……!!」


 ラティルはそんなスコアを静かな目で見つめていた。ラティルの口が小さく開かれる。


「確かに承諾した、スコア・フィードウッド」






 数週間後、シャルルロッド基地の一室、イスに座るラティルの前に、スコアは一人立っていた、青い国軍の軍服に身を包んだ姿で。


「なかなか似合うじゃないか、スコア」


 ラティルはほほえんだ。


「ありがとうございます」


 スコアもほほえみを浮かべる。


「さて、これで君は軍人となった。君のような若者には、この世界は少し厳しいかもしれない。けれど……」


「覚悟はあります」


 スコアははっきりと言った。


「どんな辛いことがあっても、どんな厳しいことがあっても、どんな恐ろしいことがあっても、それでもボクは、強くなりたい」


 スコアはラティルを鋭い目で見つめた。


「ボクは、ボクの大切なものを守りたい、守れるようになりたい。そのためなら、ボクは、ボクの全てを懸けられます」


 その言葉を聞いてラティルはほほえんだ。


「頼もしいな」


 ラティルはそう言ったあと、真剣な表情でスコアを見つめた。


「けれど忘れないでほしい」


 ラティルはゆっくりと語りかける。


「君が、君の大切なものを守りたければ、君自身が生きていなければならない。君が死んでしまえば何も守れないのだから」


 ラティルは静かに言った。


「君は、君の大切なものを守るため、どんなことがあっても生きなけらばならない。それだけは忘れないでほしい」


 スコアは敬礼した。


「了解しました」








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