表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/129

5-13 闘ってはいけない相手




 ウォールズ・ヘルズベイ基地内部、薄黄色の壁に覆われた広間で、クロコとロストブルーは向かい合って立っていた。

 緊迫した表情で剣を構えるクロコ。柔らかいほほえみを浮かべているロストブルー。剣は鞘に収まったままだ。

 クロコはロストブルーをじっと見つめる。


「ディアル……」


「また戦場で出会うとはね」


 ロストブルーはクロコの姿を見つめる。


「黒い髪に、黒い軍服、それに黒剣か…………まるで小さなグレイだな」


 ロストブルーはゆっくりと一歩、また一歩と歩み寄ってくる。クロコは動かず、じっとロストブルーを見つめていた。


「逃げないのかい? それとも逃げる隙をうかがっているのかな」


 その言葉を聞き、クロコはロストブルーをにらみつけた。


「逃げないさ……オレがここで逃げれば、アンタは他の味方を斬るんだろ」


 ロストブルーはゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


「その結果は、君が逃げなくても同じじゃないのか」


「違う」


 クロコは鋭く見つめた。


「オレは、アンタには負けない。ここでアンタを倒す」


「そうか……」


 ロストブルーは足を止めた。


「勇敢だな」


 ロストブルーは剣の柄を握り、ゆっくりと青い大剣を引き抜いた。


「では勝負といこう、果たして今の君は、私と一騎打ちで戦う資格があるのかな」


 ロストブルーは剣を構えた。

 クロコとロストブルー、お互いに剣を構えて、向かい合う。

 ロストブルーの目つきがわずかに鋭くなる。

 二人は静かににらみ合っていた。

 静寂が流れる広間に、外の爆音がわずかに響いたその瞬間だった。

 ロストブルーが動いた。二人のあいだの空間を飛び越えるような圧倒的なスピードで、一瞬にしてクロコの横に立っていた。直後に放たれた斬撃は、一瞬の閃光の如く、クロコの体へと伸びていった。


 ヒュンッッ!!


 その斬撃は空を切った。クロコは一瞬の反応でかわしていた。すぐさまクロコは攻撃の姿勢に移った。次の瞬間、二人のあいだで無数の斬撃が飛び交った。二人の体は瞬間の反応を繰り返し、高速で広間を動き回った。その二人の間を刃の光が火花のように弾け飛ぶ。

 人知を超えた高速の攻防が一瞬のあいだ繰り広げられた。


 ヒュンッ!!


 クロコの斬撃が空を切った直後、ロストブルーが後ろに跳び、距離を取った。

 二人は静かににらみ合う。

 剣を構えるクロコ。その右肩はわずかに切り裂かれ、血が流れていた。


 ロストブルーはゆっくりと自身の左肩に手を触れた。ロストブルーの左肩も、切り裂かれていた。わずかな血が白い軍服を赤く染めていた。

 ロストブルーは手に付いた血を一瞬見たあと、嬉しそうにほほえんだ。


「戦場で、私に一撃を当てたのは君で二人目だよ。君と……グレイだけだ」


 ロストブルーは青い瞳でクロコを見つめた。


「どうやら君は、私と戦う資格を持つ者のようだ」


 クロコは黙ってロストブルーを見つめる。

 ロストブルーはゆっくりと話し出す。


「正直信じられないよ。たった数ヶ月で、別人のような強さだ。いま思えば、フルスロックの街で初めて君と出会ったときから、私は、君の内に秘められたものを感じていたのかもしれない」


 ロストブルーは青い大剣を構え、クロコを鋭く見つめた。


「だが……この運命も、ここまでの様だな。私が君を倒して、静かに終わりを迎えるのだろう」


「オレは……アンタには負けない」


「そうか、ならば見せてみたまえ、君の強さを」


 クロコは動いた、一瞬でロストブルーの間合いに入る。左右に俊敏に動いたあと、瞬時にロストブルーの横をつき、鋭い斬撃を放つ。


 キィン


 その斬撃はあっさりと受け流された。クロコの動きはロストブルーに完全に読まれていた。クロコの体はわずか流れた、それによりできた一瞬の隙を、青い大剣が鋭くついた。


 ヒュンッッ!!


 クロコの脇腹がわずかに裂けた。


「く……!」


 クロコは一瞬で体勢を立て直し、素早く反撃に出た。空間を切り裂くような高速の斬撃。


 キィン


 再び受け流される。直後のロストブルーの剣がクロコの左肩を切り裂いた。クロコはひるまず、一瞬で逆を突く。鋭く放たれた黒剣の斬撃は、素早く軌道を変え、突きへと変わったあと、打ち下ろす斬撃へと変化した。


 ヒュンッ!!


 キィン


 ロストブルーはあっさりと読み切っていた。クロコの斬撃が床を切り裂いた、次の瞬間、

 青い斬撃が空間を飛び越えるようにクロコに向かって直進する。


 ヒュンッッ!!


 クロコの腹から血が噴き出る。


「う……!!」


 クロコは素早く後ろに跳び、距離を置いた。ロストブルーは追わず、動きを止める。

 二人の距離が離れた。

 険しい表情のクロコ。ロストブルーはほほえみを浮かべた。


「かなりのレベルの技術だ。いい師に巡り合えたようだね。…………だが、まだまだだ」


「く……!」


 クロコは突進した。高速の斬撃を連続で放つ。


 ヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!


 クロコは嵐のような斬撃を放ちながら、ロストブルーに詰め寄っていく。

 二人の間で高速の斬撃がぶつかり合った直後、


「ああっ!!」


 クロコから掛け声と共に、大振りの力強い斬撃が放たれた。


 ギィィィンッ!!


 ロストブルーは素早くその斬撃を受け止めた。


「なるほど、次は力押しか……」


 ギィンギィンギィンッ!!


 ロストブルーはクロコの強烈な斬撃を受け止め続ける最中、ゆっくりと口を開く。


「……だがそれは、小さな君がもっとも打ってはいけない手ではないのか?」


 クロコの斬撃の一つをロストブルーはかわした、その直後、


「はあっ!!」


 ロストブルーは掛け声を上げ、力強く剣を打ち下ろした。


 ギィィィィンッッ!!!


「う……!!」


 剣を受け止めたクロコの体は浮きあがり、後方にふっ飛ばされた。

 床に着地して、バランスを崩したクロコに、ロストブルーの斬撃が襲いかかる。


 ヒュンッ!!


 クロコの左腕が切り裂かれた。血しぶきが飛ぶ。


「うぅ……」


 クロコは、逃げるように後ろに飛ぶ。再び二人の距離が離れた。

 クロコの表情に緊迫感が増していく。 

 ロストブルーはそんなクロコの様子を静かに見ている。


「技術ではダメ……力でもダメ……では、次は何で勝負する?」


「………………」


 クロコは静かにロストブルーをにらみつけた。表情を冷静なものに戻し、ゆっくりと剣を構え直す。

 クロコは小さく息を一つ吐いた。その直後、クロコは動いた。風のように速く、クロコの体はロストブルーへ向かっていく。


「なるほど、速さ、か……」


 クロコの体は、ロストブルーの回りを縦横無尽に動き回る。クロコの体は無数の残像となって、ロストブルーの周りを囲んでいた。その直後、クロコはロストブルーの横を一瞬でついた。ほぼ同時に斬撃を放とうした、その瞬間、

 ロストブルーはクロコの横に立っていた、クロコよりはるかに速く。


 ヒュンッッ!!


 ロストブルーの剣はクロコの脇腹を容赦なく切り裂いた。


「あ……!」


 クロコの口から思わず声が漏れる。血が飛び散り、クロコの体はグラリと崩れる。

 ロストブルーは静かに口を開いた。


「私の異名を、知っているか?」


 クロコの体は広間の床にうつぶせに倒れた。


 黄色い広間が静まり返った。

 倒れたクロコの姿をロストブルーは見つめる。


「分かりきっていた結果とはいえ……」


 その言葉の直後だった、突然、すぐ横の壁が爆発した。

 ロストブルーは素早くその場を離れる。


「解放軍の砲撃か……」


 砕けたガレキが辺りに散らばり、爆撃の炎が広場のあちこちに広がり、壁全体を赤く照らす。


「押され始めたか……すぐに助けに入った方が良さそうだな」


 ロストブルーは倒れたクロコに背中を向け、クロコが先ほど来た廊下へ入ろうと歩み始めた。


「待て……」


 クロコの声が小さく響いた。ロストブルーはゆっくりと振り返った。クロコは立ち上がっていた。脇腹を押さえ、体のあちこちから血を流し、辛そうな表情でロストブルーをにらみつけていた。


「オレは、まだ、負けてない……」


「まだ動けたのか」


 ロストブルーは無表情で言った。


「だがどうする? まだ戦うのか……この傷で」


「当たり……前だ」


「やめておきたまえ」


 ロストブルーの声が響いた。


「いま剣を納めれば、命だけは助けよう。もう分かっただろう? 君では私に勝てない。私は本来、軍人として君を始末すべきだ。だが本心では、君を殺したくはない。今、もし君が戦いを放棄すれば、これ以上君の命を狙うことはしない」


「………………」


 クロコは黙った。


「そもそも君は、自らの人生を取り戻すために解放軍に入った。いまここで、私に斬られれば、その目的は果たせない。君の行為は矛盾している。それとも、解放軍が絶対的に正しく、その目的のため、と考えを改めたのかね?」


「なら、あんたは国軍が絶対に正しいって言う自信はあるのか?」


「いや……」


 ロストブルーはほほえんだ。


「私は神ではない。絶対に正しい決断などできはしない。だが……決めなけらばならない。決断しなければ何の行動も起こせないのだから」


 ロストブルーは真剣な表情でクロコを見つめる。


「君と始めて会ったときに、最後に言っただろう。もしどちらが正しいという判断を下せないのなら、自らの中にある正義を頼るしかないと。私は国軍人として、国を救い、私の愛する者のために戦う。それが、私の正義だ。君にはあるのかね。その正義が……?」


「オレには…………」


 クロコはロストブルーを見つめた。


「オレは、アンタみたいな大層な考えなんて持ってない。だけど一つだけ言える。もしここでアンタを通して、オレの大切な仲間の誰かが死ねば、オレは絶対に後悔する」


 クロコは黒剣を再び構えた。


「だから、アンタはここで、オレが倒す」


「………………」


 ロストブルーは口を閉ざし、静かにクロコを見つめていた。


「分かったよ」


 ロストブルーは青い大剣を再び構えた。


「ならば決着をつけよう。この戦いの果てに生き残るのは、どちらか、一人だけだ」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ