5-12 現れた剣士
薄茶色の大地にそびえ立つウォールズ・ヘルズベイ基地。城門の外側の大地と、城門の内側の広場では、なおも激しい戦闘が繰り広げられていた。兵士の雄叫びと、大砲の爆音が鳴り響き、銃声が鳴り、剣と剣がぶつかり合う。
基地の内部でも激しい戦闘が繰り広げられていた。解放軍はすでに入り口付近の広間を突破し、数十人ごとに分かれて基地の各通路を進んでいた。その通路の一つ、広い廊下をクロコは走っていた。後ろには数十人の解放軍兵が付いてきている。
クロコは先頭を駆け、立ち塞いでくる国軍兵をあっという間に斬り伏せていく。剣兵も銃兵も全く相手にならなかった。
クロコは足を止めることなく廊下を進む。順調に進行しているにも関わらす、その表情はどこか落ち着きがなかった。
(…………なんでだ)
クロコは剣を握る力を強める。
(何で、さっきから嫌な感じが抜けない)
クロコはずっとゾッとするような嫌な感覚が続いていた。
(基地に入ってからずっとだ……この基地に、それを感じさせる何かがあるのか……?)
けれどクロコは走る力を緩めなかった、解放軍兵たちは基地の廊下をどんどん進んでいく。
すると突然、後方から味方の悲鳴が上がった。クロコは足を止め、振り返る。
「敵だー!! 後ろに回り込まれたぞー!!」
激しい銃声が連続で響き渡る。
「銃兵隊だー!! かなりの数だ!!」
クロコは後方をにらむ。
「この……」
クロコは後ろに引き返そうとする。すると、すぐ後ろの兵士がクロコを止める。
「待て、ここはオレたちに任せろ。おまえは先に行くんだ。」
「……けど」
別の兵士も口を開く。
「これぐらいの広さだったら、おまえ一人の方が戦いやすいだろ。先に行って、早くこの戦いを終わらせてくれ」
クロコは一瞬迷ったがうなずいた。
「……分かった」
クロコは兵士たちに背を向け、一人で走り出した。長く続く広い廊下をクロコは進む。
先ほどの銃声が小さくなっていった頃だった。数人の国軍の剣兵が再び前を立ち塞ぐ。しかし……
ヒュヒュヒュンッ!!
クロコは一瞬で斬り伏せた。
そして再び前に進もうとした、その時だった。
「そこまでだ」
クロコの正面に、若い剣士が立っていた。赤髪の剣士フェイムが剣を構えて立っていた。
フェイムは静かにクロコをにらみつける。
「黒髪に真紅の瞳……なるほど、最近噂になっているクロコ・ブレイリバーか」
クロコは黙って足を止めた。
フェイムは自信に満ちた笑みを見せる。
「本物のスピードというのを見せてやろう」
フェイムは一瞬でクロコの横をついた。直後、鋭い斬撃を放つ。
ヒュンッ!!
クロコはあっさりとかわした。
「なに……!」
フェイムが声を漏らした時には、クロコはすでにフェイムの横をついていた。
ヒュンッ!!
クロコの斬撃はフェイムよりはるかに速かった。右肩が裂けるフェイム。
「く……、この!!」
フェイムは素早く斬撃を返す。
ヒュンヒュンヒュンッ!!
三発の鋭い斬撃を、クロコはかわした、風のように流れる動きだった。
「な……なんだこの速さ……」
フェイムが驚きの声を上げた直後、素早く放たれたクロコの蹴りは、フェイムの剣を握る拳を直撃した。フェイムの腕が大きく逸れる。
「え……!?」
ヒュンッッ!!
クロコの黒剣は、フェイムの体を深く切り裂いた。血しぶきが上がり、フェイムはヨロヨロと数歩下がる。
フェイムは信じられないという表情をしていた。
「そ……そんな、こんな、バカなことが……」
フェイムは力無くドサッと石床に倒れ伏した。
クロコは動かなくなったフェイムの姿を少し見つめたあと、再び廊下を走りだす。
(嫌な感じが消えない……。こいつじゃない、嫌な感じの正体は……)
再び、剣兵が現れた、五、六人の集団だ。
しかしクロコは足を止めない、左右に素早く動きながら距離を詰め、その集団を一瞬で斬り伏せた。
クロコはどんどん廊下を進んでいく。廊下はわずかに狭くなり、息苦しい感じがした。先ほどからの嫌な感覚も含め、どこか気分が悪くなってきた。
(早くこの廊下を抜けたい……)
クロコは自然にそう思っていた。
敵が突然現れなくなり、廊下だけが延々と続いていた。
角を曲がった時だった。狭い廊下が突然途切れ、急に視界が開けた。
薄黄色の壁が辺りを包む。クロコは広間の一つに出ていた。息苦しさの消えた広い空間が視界を包む。
黄色い広間に入ったクロコは、思わず足を止める。
その時、クロコは気づいた。その黄色の広間の石床、クロコの正面に一人の剣士が立っていた。
クロコは思わずその剣士を見つめた。
その長身の剣士は、黄色い髪をしており、青い瞳で、真っ直ぐとクロコを見つめていた。
その剣士はほほえみを浮かべている。
「やあ……久しぶりだね、クロコ」
クロコはそのとき、嫌な感覚の正体がはっきりと分かった。ディアル・ロストブルーがクロコの前に立っていた。