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1-1 黒い指輪

 太い根を下ろした樹木が生い茂る森、あたりは闇に包まれていた。月はわずかに雲に隠れ、風のない静かな夜だった。

 漆黒の森に大きな光が不自然に揺らいでいる。


 森に囲まれた一つの村が炎に包まれて燃えていた。

 村にある、ありとあらゆる建物から炎が上がり、村中は血を流し倒れる村人の姿であふれていた。


 囲む森がわずかに開けている村の出口、そこに二人の少年が立っていた。

 少年の一人は黒い髪と真紅の瞳、年は十歳にも満たないだろう。悲しげな目で村を見つめている。

 もう一人の少年は茶色い髪で、年は十歳を少し超えたぐらい。静かな様子で村を見つめている。

 茶色い髪をした少年が黒い髪をした少年の手をつかみ、村の外の方へ引っ張り、歩きだそうとする。

 しかし黒い髪をした少年は抵抗し動こうとしない。黒い髪をした少年の真紅の瞳がさびしげに光る。

 茶色い髪の少年が静かに口を開く。


「……行こう」


 黒い髪の少年がゆっくりと茶色い髪の少年の方を見る。


「どこに……行くの?」


 黒い髪の少年は不安そうな表情で言った。茶色い髪の少年は表情を変えず答える。


「ここじゃない……どこかだ」


「……でも、ここはオレの……オレ達の村なんだよ」


「クロ……、もうここには何も無い、何も無いんだ……だから、行こう」


 茶色い髪の少年はそう言うと引っ張る力を強めた。


「…………」


 黒い髪の少年は黙ったままゆっくりと歩き出した。そして歩きながら振り返り、もう一度だけ村を見つめた。少年の真紅の瞳には燃える村の姿が映っていた。







 それから7年後、ネシス歴1020年。

 太陽が真上から照らしていた。

 ゴーンゴーンと教会から昼の鐘の音が響いた。

 灰色の四角い建物が道沿いに無数に建ち並んでいる。

 建物に挟まれた道は石畳で舗装されており、その道には遊びに行く子供や散歩をする老人など、この街の住人達が歩いていた。

 道の真ん中を馬車がゆっくりとした速度で通ると通行人は左右に散って道をあける。


 ここはグラウド帝国中部に位置する街フルスロック。


 この街の、ある通り、赤や黄色や青のカラフルな布で飾り付けられている灰色の建物が、道沿いに規則正しく立ち並んでいる。

 フルスロックの街の商店街である。

 肉屋、パイ屋、布屋、ベル屋、金属屋、さまざまな店がさまざま布で飾り付けられ立ち並ぶ。その中の一つに、色々な布をうまく使い分けて飾ることで、とてもきれいで明るい雰囲気をかもしだしている店があった。

 その店内には色鮮やかな果物がこぎれいに棚の上に並べられている。赤、黄色、緑、オレンジ、ピンク、探せばどんな色でもありそうだ。

 そんな果物屋で一人の少女が働いていた。

 少女は愛想よく客と接し、果物を売っている。

 その少女は年齢十五、六歳ぐらい、白い髪、ぱっちりとしたきれいな目で、明るい雰囲気を持っている。

 ヒゲを長く生やした中年の客がその少女に話しかける。


「よう、ソラちゃん、久しぶり」


「あっ! ウェルターさん、久しぶりです。元気にしてましたか?」


 果物屋の少女ソラが愛想良くニッコリと笑う。


「はっはっはっ、見てのとおりさ、久しぶりにソラちゃんの果物を食べたくなってね」


 ヒゲの客ウェルターはソラの笑顔を見て上機嫌に笑うと、店の果物をじっくり見始める。


「しかし、平和だねぇ」


 その言葉を聞き、ソラの表情が少し曇る。


「平和だなんて……東の方ではひどい戦争をしてるっていう話ですよ……」


「まあね、でもこの町はまだ平和じゃないか。ただセウスノール軍が押されれば、ここも戦場になっちまうだろうけどね。あそこには頑張ってもらわないと……、あっ、これちょうだい」


 ウェルターはそう言いながら黄色い果物をソラに見せた。


「あっ、イエローピーチですね。150バルになります」


 ソラはウェルターから銅貨を受け取る。


「ああ、カゴはいいよ、すぐ食っちまうから。それじゃあ、またなソラちゃん」


 ウェルターはそう言って、果物片手に立ち去った。



「頑張ってもらうだなんて、戦争を……」


 ソラは複雑な表情だ。

 そのとき、店に客が勢いよく入ってきた。


 ドンッ!


 ウェルターを見送っていたソラに勢いよくぶつかる。


「あっ!」


 ソラはその衝撃で倒れこんだ。


「いって~、おい店員、なに突っ立ってだよ!」


 太い声がソラに向かって怒鳴る。店に入ってきたのは年齢二十前後の男だった。ずんぐりとした大きな体には、丸太のように太い手足が付いている。顔は岩石のようにいかつい。

 ソラはそんな大男にもひるまず、キッとにらむ。


「勢いよく入ってきたのはあなたでしょう!? いったい何のために……」


「ああ!? なんだその態度は!!」


 店内に大柄の男の怒鳴り声が響き渡る。それでもソラはひるまず男をにらむ。

 するともう一人、背の高い男が入ってきた。年齢二十前後、髪をとさかのように逆立てている。


「へぇ~、おいおい、ずいぶん強気な女じゃねーか」


 どうやら大柄の男の仲間のようだ。とさか髪の男は、立ち上がったソラの姿をジロジロと見る。


「ちょっと幼いがいい女だなぁ、ハハハ」


「ああ、噂通りだな」


 二人の男はソラをなめまわすように見る。その様子を見てソラは数歩退く。


 店にいた客は不安げな顔でその様子を見ている。


「えっ? なんなの、いったい……」

「ソラちゃんが突然からまれて……」

「しっ! あいつらあの有名なジェスとベルセットだ。ヤバイって……見ろよ」


 男の客がとさか髪の男の背中を軽く指さす。とさか髪の男の背中には大きな剣が付けられている。


 大柄の男は大きな手でソラのきゃしゃな腕をつかんだ。


「オレにぶつかった謝礼として、なんか払ってもらわないとなー」


「オレ達と楽しいことしようぜ~」


 大柄の男は力任せにソラの腕を引っ張る。


「……! 痛い!」


 ソラは外へと引っ張り出された。

 大柄の男はさらに引っ張り、ソラを連れていこうとする。しかしソラは痛がりながらも必死に抵抗した。


「クソッ! こっちに来い!」


「いやだ! 離して!」


「へぇ~、無駄に抵抗しちゃってぇ……かわいいもんだ」


 とさか髪の男はソラの様子を見て上機嫌に笑う。大柄の男はソラの手を持ったまま離そうとせず、さらに力を入れる。


「痛い!! やめて!!」


 ソラは悲鳴のような声を上げた。それでもソラは抵抗する。

 大勢の通行人が悲鳴に気づき足を止めた。しかし関わろうとする者はいない。

 男達も通行人の存在など全く気にしていない。おそらくはもう慣れっこなのだろう。


 男達は必死に抵抗するソラをなかなか連れ出すことができない。

 ついに大柄の男が声を荒げる。


「うぜーんだよ! このクソ女が!! 責任取るまで逃げられると思ってんのか!」


 周りの通行人は一定の距離を取り、その様子を不安げに見ている。

 そんななか、別の二つの影がその騒動の現場へと近づいてくる。


「……邪魔だ」


 近づいてきた影の一方、黒い髪の少年が二人の男にそう言い放った。その少年は年齢十五、六ぐらい、少し長めの黒髪と真紅の瞳をしている。どこか威圧的な雰囲気を漂わせているその少年は、鋭い目つきでソラに絡む二人の男をにらみつける。


「なんだぁ!」


 大柄の男が黒髪の少年の言葉に反応した。

 少年はふてぶてしい態度で口を開く。


「道で突っ立てんじゃねぇよ。そのくせバカでかい声出しやがって、邪魔に加えてうるせーんだよ」


 黒髪の少年の発言に周りを囲む通行人がザワザワする。


「てめぇ!!」


 大柄の男はソラから手を放し黒髪の少年に近づいていく。その隙にソラは離れようとするが、


「おおっと!」


 とさか髪の男にすぐに捕まってしまった。


 大柄の男がいまにも殴りかかりそうな雰囲気で黒髪の少年に近づいていく。その時、男はあることに気づく。

 少年の腰に剣が付いている。


「こいつ、ガキのくせに剣なんか飾りやがって……」


「おい、抜いてきたら代わってやるぞ」


 とさか髪の男が言った。


「必要ねぇよ。こんなガキ相手に」


「いらねー心配だ。こんな街中で剣抜くほどイカれてねーよ。まぁてめーらの場合はどうだか知らねーが」


「このガキッ!!」


 すると突然、黒髪の少年の連れのもう一人が二人の間に割って入る。


「すみません、こいつ言葉づかい知らなくて、ここは少し落ち着いて……」


 その連れは年齢十八、九ぐらいの青年で、茶色い髪、高い鼻が特徴だ。目つきはきついが穏やかそうな雰囲気がある。黒髪の少年同様に腰に剣を着けている。


「おい、ブレッド! なんで止めんだ」


 黒髪の少年は不満そうだ。すると茶色い髪の青年ブレッドは黒髪の青年に小声でボソボソと言う。


「バカヤロウ、大事な日に変なもめごと起こすなよ、クロ」


 黒髪の少年を止めるブレッド、大柄の男はその様子をみて、少し考えたあと、二人に背を向けた。


「ちっ、オレ達は忙しいんだ。今回は見逃してやるからさっさと消えろ」


 大柄の男はそう言ったあと再びソラの腕をつかんだ。

 黒髪の少年はその様子を少し見ていると、ソラに話しかける。


「おい、おまえ! なんでこんなやつらに絡まれてんだよ」


「こ、この二人はこの街で有名なゴロツキで……わ、私に言いがかりをつけてきて……」


「はっ! なに訳わかんねぇこと言ってんだよ、てめーが突っ立てたせいでぶつかったから責任取れって言ってんだよ。いいから来いよ!!」


 大柄の男は大声で怒鳴る。


「あなたたち、さっき、最初からこうするために来たみたいに言ってた……!」


 その言葉にとさか髪の男が笑う。


「はっはっはっ、そんなこと言ったけ、聞き間違いじゃないかなぁ?」


「そんなこと……」


「いい加減なこと言いやがって……いいからこっちに来い!!」


 大柄の男はソラを無理やり連れて行こうとする。

 その様子を見てブレッドがボソッとしゃべる。


「ここらへんは解放軍が治めるようになってから治安が安定したって聞いてたが……」


「けど、どこにでもいるモンなんだよ、こういうクソはな」


 黒髪の少年ははっきりとした口調でそう言い放った。ブレッドはそれを聞いてギョッとする。


「なんだと!! てめぇ!」


 黒髪の少年の言葉を聞き、大柄の男がすぐに反応し大声を上げた。少女をとさか髪の男に渡し、再び黒髪の少年に近づく。

 それを見てブレッドはため息をついた。


(やれやれ、こりゃあダメそうだな……)



 大柄の男は黒髪の少年の目の前までズイっと近づいた。男の体は大きかった、黒髪の少年はけっして小さくはないが、それよりふたまわりは大きい。

 大柄の男の影が黒髪の少年の体を覆った。


「よりによってこのオレにここまでの口をきいたんだ。もう後戻りはできねぇってことはわかるよなぁ」


 大柄の男の後ろでとさか髪の男が楽しそうにニタニタ笑う。

 黒髪の少年は黙って棒立ちし、目の前の男をにらんでいる。

 大柄の男は拳を握った。

 そして丸太のような腕を勢いよく動かした、その瞬間だった。


 ゴッ!


 鈍い音とともに大柄の男の巨体が宙を舞った。

 そして大きい音を立てて地面に落ちる。


 ザワッ!!と周りの通行人が騒ぐ。


 大柄の男はそのまま仰向けにピクピクとけいれんしたまま動かない。

 その様子を黒髪の少年は黙って見下している。右手にはいつの間にか剣が、鞘に納まった状態で握られていた。


「えっ……、お、おまえ何しやがった!!」


 とさか髪の男が訳もわからず叫ぶ


「なにしたって、この剣で普通にアゴ突いただけだ……当然、鞘は抜いてないぞ」


 黒髪の少年は右手の剣を見せる。


「……っのヤロウ!!」


 とさか髪の男は背中の大剣を抜いた。

 ブレッドが思わず口を開く。


「おいおい……、街中で抜いちまったぞ」


 とさか髪の男は両手で剣を構えた。


「おらぁっ!!」


 とさか髪の男が黒髪の少年に斬りかかろうとしたその時、


 ビュンッ!


 黒髪の少年は目にも止まらぬ速さで剣を振り、鞘を男の顔面に直撃させた。鈍い音とともに男の体は宙で反回転した。そして頭から落ちる。


 倒れたとさか頭の男は、大柄の男同様にピクピクと痙攣し動かない。


 周りで見ていた人は、今度はザワつかずにシーンと黙って目を丸くしている。どうやらなにが起きたのか理解できない様子だ。

 ソラもその様子をぼうぜんと見ている。


「す……すごい……こんなこと」


 ブレッドはその様子を見て口を開く。


「やれやれ、また派手に……」


 黒髪の少年は何事もなかったかのような顔をしている。


「さて、行くか」


 黒髪の少年はゆっくりと歩き始めた。

 ソラはハッと我にかえり黒髪の少年を見た。


「あ、あの、ありがとう……」


「別に助けたわけじゃねぇ、目障りなやつを片づけただけだ」


「な、なにかお礼を……」


「いらねぇよ」


 黒髪の少年はソラの言葉を流すように答えて、その場を立ち去ろうとする。

 少年とソラの距離が開く。


「わ、私はソラ、ソラ・フェアリーフ。あなたは……!!」


 ソラは遠くに離れていく少年に向かって叫んだ。すると黒髪の少年はスッと後ろを向いた。


「オレはクロコ、クロコ・ブレイリバーだ」


 少年の真紅の瞳が一瞬光った。

 黒髪の少年クロコとブレッドは、街の景色の中へと消えていった。







 先ほどの商店街とはまた別の通り、建物ではなく様々な屋台店が立ち並ぶ屋台商店街。昼時だからだろうか、店はほとんど閉まり、人影も見えない。

 そんな屋台の中にひときわ怪しい屋台店が立っていた。木で組み立てられた屋台は、上から黒色に塗りつぶされており、その周りは黒い布のみで飾り付けられている。さらにその布の周りにはトカゲの顔の骨が横一列に付けられている。明らかに悪趣味で不気味で、そして場違いな雰囲気をかもしだしていた。

 そんな店の前で黒髪の少年クロコと茶色い髪の青年ブレッドは立っていた。

 クロコがおもむろに口を開く。


「なぜオレ達はこんな所に立っているんだ……」


「それはオレが聞きてーよ! オレ達は解放軍基地に向かっていたはずだろ!」


「いや、それが地図通りに行ったらなぜかこの店の前に……、ほら」


「……クロ、それ上下逆だぞ」


「あっ! バ、バカ、勘違いするなよ。さっきはこの向きで見てたんだ!」


「それは横だ!! ……あー、おまえがどうしても地図を見るって聞かないから、こんななるならやっぱりオレが見とけばよかった……」


「過ぎたこと言ってもしょうがないだろ」


「おまえなぁ、ちょっとは反省しろよ。仕方ない、近くの人に道を聞くか」


「よし、じゃあ聞くか」


 そう言ってクロコはドクロ屋台の店員に近づいていく。

 ブレッドはクロコを素早く止め、小声で叫ぶ。


「ちょっと待て! なんでよりにもよってこんな怪しい店で聞くんだよ! もっと他にいるだろ!」


「うるせえな、道聞くのにわざわざ人選ぶ必要なんてねーだろ」


 クロコはブレッドの制止も聞かず店の店員に近づいていく。



(やれやれ、このトラブルメーカーは……まーた厄介ごと引き起こしそうだよ)


 ブレッドは肩を落とす。


 ドクロ屋台の店員は店そのものに似つかわしくない身だしなみの整った小ぎれいな女性だった。年齢は二十代前半ぐらい、黄色の髪はきれいに整えられ、紫色の上品な服を着こなしている。ただしその上にコウモリ羽のような厚い黒ローブを羽織っており、どこかしら不気味な雰囲気を漂わせていた。

 クロコはその店員の前に立つ。


「おい、解放軍基地に行きたいんだが、道を教えてくれないか?」


「うん、いいよ。ただ店の商品どれか一つ買ってってよ!」


 店員は明るく答えた。


「しょうがねえな、こんな変な店に関わることもそうないし、なんか記念に買ってやるか」


 クロコは店の商品を見回す。

 店の商品のラインナップははっきりいって不気味だった。何かの骨の付いたベルトに、何かのしっぽのくんせい、紫色の草が入った水晶玉……

 さすがのクロコも少し眉をひそめる。


「お客さん、この街の人じゃないでしょ」


 店員が気さくに話しかける。


「ん、ああ」


「二人とも剣を持ってるね。もしかしてセウスノール解放軍の人?」


「正確に言うとこれから解放軍に入ろうとする人だ」


「オレたち入軍試験を受けに来たんだよ」


 ブレッドがクロコの斜め後ろから口を開く。


「へぇ~、これから軍人になろうって人なんだ~。それでこの街に……、まぁ、実は私もこの街に商売に来て三日目なんだけどね」


「おい、それよりここは何の店なんだ」


 クロコはもう一度、店の商品のラインナップに目を通しながら言った。


「呪い屋よ!」


「呪い屋?」


「そう! ここに置いてあるものはすべて、人を呪うための道具なの!」


 店員はなぜか誇らしげだ。


「呪いなんてこの世にあるわけねーだろ」


 クロコが下らないという顔で言う。

 ブレッドはクロコの耳元でささやく。


「おい、クロ! いよいよ怪しいぞ、やめとけって」


 しかしクロコはまったく聞く耳持たない。


「まあ、何でもいいや。じゃあこの中で一番安いのくれ」


 クロコはいい加減な口調で言った。


「はい、この指輪になりま~す」


 店員は上機嫌に答えると黒い指輪を差し出した。全体が黒いその指輪は特に何の装飾も付いていないただのリングだった。しかしそれは日の光を返しながら不気味なほどきれいに光っている。


「ふーん、この店の商品の中では良い方だな。いくらだ」


「800バルになりまーす」


 クロコは店員に大きい銅貨を払うとその指輪を受け取った。


「じゃあ約束通り解放軍基地までの道を教えてくれ」


「えーと、この道をひたすらまっすぐ行けば、そのうち見えてくるよ」


「なんだよ、すぐそこかよ」


 クロコはそう言って受け取った指輪をじっくりと見る。


「ん? この指輪、ちょうどオレの指に入りそうなサイズだな」


 クロコはそう言うとおもむろに右手の人差し指に指輪をはめようとする。


「おい、クロ、やめとけって! そんな怪しいもの……」


 素早くブレッドが止める。


「おいおい、ブレッド、本気で言ってんのか? 呪いなんてものこの世に存在するはずないだろ」


 そしてクロコは指輪を人差し指にスポッとはめた。

 店員とブレッドは指輪をはめたクロコの方を見る。しかしクロコの身には何の変化も見られない。


 しばらくの沈黙。


 クロコが口を開く。


「なっ? 言ったろ。呪いなんて存在しないって」


「いや、それは確かにそうなんだろうけど……まったく! おまえにはいつも冷や冷やさせられるよ」


 ブレッドは軽くため息をついた。


「じゃあ、予定通り解放軍基地へ……」


 その時だった、クロコの指輪から強烈な光が放たれ、その光がクロコのいた辺りを激しく照らす。


「うわ! なんだ!」


 クロコは突然の事態に混乱の声をあげた。


「くっ! なんだってんだ」


 ブレッドもこの状況に驚く。強烈な光で辺りが全く見えない。


 やがて光は徐々に収まっていく……



 強烈な光で目を閉じていたクロコはゆっくりと目をあける。

 辺りを見ると光はおさまり、再び元の景色に戻っていた。


「なんだったんだ、あの光は…………って、ん……?」


 声を出したクロコは、自分の出した声に不自然さを感じた。それは普段自分の出している声よりも明らかに高かった。


「おまえ、……クロなのか?」


 ブレッドは明らかに戸惑った様子だ。


「なに訳のわからないこと言ってんだ、オレに決まってんだろ! それよりもさっきから耳が変なんだ。自分の声が妙に高く聞こえるんだよ」


 ブレッドは何も答えず、じっくりとクロコを観察するようにして見ている。

 クロコはそれを不思議に思ったが、ブレッドのただならぬ様子から何も言わずに黙って見ていた。どうもブレッドの身長が急に伸びたように感じた。


 クロコを見ていたブレッドは、やがてすべてを悟ったような表情をした。


「クロ……、変なのはおまえの耳じゃない。自分で自分の体をよく確認してみろ……」


 ブレッドは静かな口調で言った。


「自分の体?」



 クロコはブレッドに言われて、はじめて自分の体全体に違和感を感じた。

 クロコは自分の体中を手で触り確認し始めた。

 まずは髪の毛だった。首の途中までしか伸びていなかった後ろ髪が肩まで伸びていた。

 次に顔だった。触るとどうも普段よりも丸っこくて柔らかい気がする。

 さらに手足。普段より小さく細い感じがした。

 そして服。サイズの合っていたはずのものが、なぜかダボダボになっている。

 最後に胸のあたりを触る。なにやら柔らかい感触がした。

 ブレッドの方にもう一度顔を向ける。自分よりちょっと高いぐらいの身長のブレッドが、自分より頭一つ分高い。周りの景色もさっきより高くなっていたことに気づいた。

 クロコは自分の顔から血の気が引くのを感じた。


「ブレッド……」


 クロコは弱々しい声を出す。その声も妙に高く頭に響く。


「いまオレどういう姿をしてるんだ……」


 クロコは弱々しい声でまるで助けを求めるようにブレッドに質問する。


「それは…………」


 ブレッドは言葉に詰まる。


「はい!」


 店の店員が黒い装飾の丸い鏡をクロコの方に向けた。

 クロコは鏡を見る。そこには黒髪を肩まで伸ばした少女の姿が映っていた。鋭い目で、真紅の瞳、少し威圧的な雰囲気を持つ少女の顔。

 クロコが一歩退くとその鏡の少女も一歩退く。

 顔から汗がダラダラと流れる。


 明らかに戸惑いの表情をするクロコを見てブレッドは頭を抱えて大きくため息をついた。

 クロコは鏡を見て目を丸くする。


「な、なんなんだ………………これ………………」



 クロコは小さく声を出したかと思うと、さっきまで青かった顔が今度はみるみるうちに赤くなっていく。


「なんなんだよ、これは!! こいつがオレで! オレがこいつで! っていうかこいつは誰だ――――!!!」


 クロコの高い声があたりに響く。


「おい、落ち着けよ」


 ブレッドがクロコをなだめようとするが、クロコは目をグルグルさせながらワーワー言っている。


「呪いに決まってんじゃん」


 混乱する二人の声を切り裂き店員の声が響く。その声を聞いてクロコの動きがピタッと止まる。


「お、おい、この姿、やっぱり呪いで……」


 クロコは不安げな声で店員に話す。


「そうみたいね。正直どういう呪いかは知らなかったんだけど、まさか女になっちゃう呪いだとはね。びっくりした」


 店員はクロコとは正反対で落ち着いた様子だ。


「女になるって、じゃあ、これで……オレは……女に」


 完全に困惑した表情のクロコ、しかし突然ハッとすると、人差し指にはめた指輪を抜こうとする。


「こんな指輪!」


 しかし指輪は引っ張っても抜けない。


「クソ!! 抜けない」


 必死に指輪を引っ張るクロコ、しかし指輪は肉に挟まっているわけでもないのにまったく抜ける気配がない。


「クソッ!! このっ! このっ!」



 指輪を必死で抜こうとするクロコを観察しながら、店員が落ち着いた様子で口を開く。


「うーん、でもずいぶんかわいくなっちゃったね。それに声なんてほら、ものすごくすきとおっててきれい」


「言ってる言葉はきれいじゃないけどな」


「異国に行けばモテモテなんじゃない?」


「ブレッドてめぇー!! なに落ち着いて話してんだよ! このヤロー」


「まあ待てって、クロ」


 混乱するクロコをよそにブレッドは店員の前に立つ。


「この指輪の呪いでクロコは女になった、それはわかる。……だとすればこの呪いを解くことだって可能なんだろ」


 ブレッドが冷静な態度で店員に話す。その言葉を聞きクロコも少し落ち着きを取り戻す。


「さあ~ね~、少なくともわたしにはこの呪いの解き方わかんないね」


 店の店員の軽い口調にクロコがイラッとする。

 ブレッドが店員に詰め寄る。


「解き方が分からないって、あんた呪い屋なんだろう」


「そうだよ、私は呪いのスペシャリスト。店で扱ってる大抵の器具の呪いは解けるけど……」


「じゃあなんでこの指輪の呪いは……」


「いい? 呪いってものは相手をおとしめるもの。これはわかるよね。だけどそれと同時に相手との交渉手段としても重宝するの。ようするに相手をまず呪って、その呪いを解く代わりに相手に何かを要求する」


 店員は二人に言い聞かせるような口調で説明する。


「そういうこともあって、呪いの器具は本来とても高価……。例えばこのギャロック草の入った水晶は40万バル。だけどこの指輪に関して言えば、呪いの解き方はわからない。つまり交渉手段としての価値がないの。だから安値」


「なるほど……な」


 ブレッドは半ばあきらめた様子だ。


「まー、だから仕方ない! 勝手に付けたのはそっちのミスなんだしー、潔くあきらめて……」


「あきらめるわけないだろ」


 クロコが明らかに殺気のこもった声を出した。


「てめぇ、それで済むと思ってんのか……!!」


 そう言って鋭い眼で店員をにらみつける。

 そして一歩ずつ店員に近づいていく。その異常な迫力にヒョウヒョウとしていた店員にはじめて焦りの色が見える。


「ま、まあ、私は呪いの解き方知らないし、自分で探すしかないんじゃない? まあ、そゆことで……」


 店員はそういうと白いボールを服から取り出して地面に投げつけた。地面に当たったボールがパンッ! という音をたてた瞬間、辺りが白い煙に包まれる。


「バイバーイ」


「うわっ! なんだ」


 白い煙で何も見えない。



 煙が収まった頃には店員の姿は屋台と共に消えていた。

 ブレッドは店員と屋台が立ち去った跡をぼうぜんとした様子で見ている。


「逃げ慣れてる……」


「クソ! ブレッド!! 今すぐあの女を探すぞ!」


 クロコは興奮した様子で怒鳴る。


「おいおい……、落ち着けよ。店員は呪いの解き方を知らないんだぞ。探すだけ無意味だろ。それにクロ、この事態はおまえ自身の責任でもあるんだぞ」


「……!!」


 クロコはくやしそうな表情をしながらも言葉を失う。ブレッドはため息をつく。


「仕方ない……、入軍は先延ばしにして、まず呪いの方をなんとかしよう」


「なに言ってんだ……」


「いや、だからこの体のままじゃあ……」


「関係ねぇよ」


「いやいや、関係あるだろ」


「ブレッド! オレ達はなんのためにここに来た! なんのために町を出たんだ!!」


「わかる! おまえの言いたいことはわかる。だけどな……」


「オレ達は決心してここまで来たんだ。セウスノール解放軍に入軍するために!!」


「わかってるって、オレだって同じ気持ちで来たんだ。だけどな、クロ! 非常に残念なことに、セウスノール解放軍は男しか入軍を認めてないんだ!!」


 ブレッドが強い口調でクロコに言い聞かせるように言った。


「関係ねぇ! オレは男だ! なんと言おうとオレは解放軍に入る!!」


(えぇぇ――…………)


 ブレッドは青い顔をした。





 クロコ達のいるこの国グラウドは、今ひどく荒れている。

 約十二年前、この国の皇帝ブルテンはある出来事をきっかけに悪政を振るい始める。

 それにより人々の暮らしは荒廃を極めた。異常な地位の隔たり、乱れる治安、そして国軍の暴走。

 この混沌としたこの国の状況を、ある哲学者はこう呼んだ。国を丸ごと飲み込む暗黒円

 『ダークサークル』と……

 国中で農民の反乱が多発する中、十年前、グラウド西部の都市セウスノールで過去最大の反乱が勃発した。当初グラウド国軍はその存在を軽視していたが、ファントムと呼ばれる謎の人物がその反乱軍をまとめあげ組織化、セウスノール解放軍を作り上げた。

 セウスノール解放軍は各地の反乱軍を次々と吸収、結果セウスノール解放軍は、グラウドが所有する世界最強の国軍に匹敵する規模にまで成長した。

 国を変えようとするセウスノール解放軍、国を守ろうとするグラウド国軍。

 二つの勢力の争いは、現在に至るまでの十年、国を東西に分けた長い長いみぞうの内乱へと突入していった。


 そして今クロコ達のいる街フルスロック、ここには解放軍基地の一つであるフルスロック基地が存在する。クロコ達はそこに入軍するためにこの街を訪れたのだ。





 四角い灰色の建物が建ち並ぶ街の景色、その中にひときわ巨大な建物が建っていた。横長なその巨大な建物は、幅300m以上にもなるだろう。その巨大な灰色の建物にはいくつもの大型大砲が取り付けられている。

 建物の壁には解放軍の大きな旗が取り付けられている。ヘルムのシルエットが旗印の赤色の旗だ。

 そして建物の四方を高い石壁がグルッと囲んでいる。

 ここはフルスロックにある解放軍基地。

 建物を囲む石壁には大きな門が一つだけ取り付けられていた。

 その門を見る二つの影。

 一人は茶色の髪の青年、そしてもう一人は黒髪をした真紅の瞳の少女。


「ついに来たな……しかしでけーな。こんなでかい建物、生まれて初めて見た」


 クロコは建物を見て素直に驚いている。


「ホントにでかいな……」


 ブレッドも驚いた表情で建物を見上げている。

 クロコが口を開く。


「これなら少し高い所から見ればすぐ見つけられたな。わざわざあんな店で道聞かなくても……!」


「過ぎたこと言っても仕方ねーよ」


「……まあいい、とにかく行くぞブレッド」


「いやちょっと待て、だがらな……クロ」


「なんだよ」


「さっきも言ったが女じゃ解放軍の兵士にはなれないんだよ!!」


「そんなの関係ねーだろ、オレ男だし」


「世間的にはどう考えたって女なんだよ!」


「じゃあっ! ここまで来てあきらめろっていうのか!!」


「そうは言ってないだろ! 兵士じゃなくても支援員としてなら女でも入れる。だから、まずそこから入って徐々に上の連中に実力を見せて……」


「そんなメンドくさい事できるか!!」


 クロコは高い声でそう叫ぶと、ズンズンと門の方へと向かう。

 ブレットはあきらめてクロコの後についていった。


(やれやれ、また何かトラブルの予感がする)




「おい、そこ、止まれ」


 クロコが門に近づくと、門の左右に立つ門番兵が呼び止めた。若い二人の門番兵は、黒の軍服に身を包み、腰に剣を付けている。


「ここは部外者立入禁止だ」


「部外者じゃねーよ、兵士になるためにここに来たんだ」


 クロコはふてぶてしく態度で言った。その言葉を聞き兵士達は一瞬キョトンとする。

 その様子をブレッドはあきれた表情で見ている。


(また挑戦的な発言して……)


「きみ、知らないんだろうけど、残念ながら女の子は兵士にはなれないんだよ」


 兵士一人が子供に言い聞かせるような口調で言った。隣の兵士が口を手で隠して笑う。

 クロコはその様子を見て少しイラつく。


「オレは女じゃねえ、男だ」


「いや、男の格好はしてるけど、どっから見ても女でしょ。服のサイズも合ってないし……。それに残念だけど軍の規則で決まってるからね」


「そうそう、ダメなモンはダメ! あきらめな、かわいいお嬢さん」


 この兵士の発言でクロコの怒りは頂点に達した。


「男だって言ってんだろ!!」


「おい、クロ! 落ちつけって」


 ブレッドがすかさず制止に入る。


「おい、どうしたんだ。騒がしいな」


 軍の敷地内から一人の男が歩いて来た。


「あっ! ベイトム隊長」


 二人の門番兵は男を見るなり、素早く敬礼した。

 近づいてきた男は年齢四十前後、黄色のあごヒゲをたくわえ、細く鋭い目をしている。がっしりとした体で、どこか威厳のある雰囲気を持っていた。

 門番兵がすぐにその男に説明する。


「いえ……、それがこの少女が兵士になりたいっていってきて……ダメとは言ったんですが、全く聞かず、そのうえ怒り出してしまい……」


「違う! それはおまえがオレのことを女って言ったからだろ!」


 クロコが反論する。兵士はその態度に半ばあきれた様子だ。


「この通り、この少女は自分のことを男だと言い張っていまして……」


 兵士は困り顔を作って見せる。

 黄色ヒゲの男ベイトム隊長は落ち着いた様子だ。


「ふむ、なるほどな。兵士になる以上は女を捨ててきたと、そういうことか」


 ベイトム隊長は自分なりに解釈する。その言葉に対しブレッドが少し前に出る。


「いえ、そうではなくて、これには呪いが……」


(って信じるわけないか)


 ブレッドは言いかけた言葉を止める。

 ベイトム隊長はクロコに話しかける。


「しかしね、お嬢さん、この小さく非力な体では少し覚悟を決めたり、少し剣をかじった程度ではとても戦場では生きていけないんだ……。君が思っているよりずっと戦場は過酷な場所なんだ」


 ベイトム隊長はさとすように話しかけるが、クロコはまったく聞く耳もたない。


「剣は少しかじった程度じゃねーよ」


「しかし、この小さい体では限界が……」


「限界なんかねー、少なくとも見た目でしか相手の力量を計れないようなオッサンよりは、強いつもりだぜ」


 クロコはそう言って鋭い目でにらみつけた。

 それに兵士が反応する。


「おい、きみ! ベイトム隊長に……いくらなんでも失礼だぞ!」


 しかしベイトム隊長は突然声を上げて笑い出した。


 門番兵の二人はその様子にぼうぜんとした。


 ベイトム隊長は口を開く。


「いいだろう、ではこういうのはどうだ? 今から私と君で勝負をしよう。私に一度でも攻撃をかすらせることができれば、入軍試験を受けられるように司令官に掛け合おう。しかし、君が私に一度も攻撃をかすらせることもできずに、一方的に私に負ければ、その時は素直にあきらめて帰ってもらう」


 ベイトム隊長はほほえむ。


「どうかな?」


「おもしろいなソレ。いいぜ、受けて立ってやる」


「た、隊長! よろしいんですか!?」


「構わないさ、こういう輩はこれくらいしなければ引き下がらんだろう」


 門番兵はクロコの方を見る。


「おい、きみ! 止めるなら今のうちだぞ! この方はフルスロック基地三番隊4000人をまとめる隊長だぞ」


「おい、4000人だってよブレッド。アークガルドの人口とどっちが多いかな?」


「さあな……」


「おい、きみ……!」


「うるせぇな、関係ねー。倒すだけだ」


 クロコは一歩前に出る。


「大丈夫なのかクロ、この体で……」


 ブレッドが心配そうにクロコに話しかける。


「問題ねーよブレッド。この体にも少し慣れてきた」


 クロコは相変わらず自信満々に答えると肩をブンブン回す。ブレッドはその様子を黙って見る。


(慣れてきたって……街歩く以外なんかやったか?)



「では、今から訓練用の木剣を持ってきます」


 兵士がそう言って走り出そうとすると、ベイトム隊長はそれを手で制す。


「いや、必要ない。剣を鞘に収めたまま使えばいい。……君もそれでいいだろう」


「かまわねーよ」


「しかし、それではお互い危険では」


「問題ない、私が鞘を落とすことはありえないし、彼女の方の鞘が抜けても彼女の攻撃は、絶対に私には当たらない」


 ベイトム隊長は笑みを見せた。



 クロコ達は基地の敷地内に入れられた。巨大な基地が立つ広い敷地内は、灰白色の石畳で覆われていた。

 門を入ってすぐの場所で、クロコとベイトム隊長は距離をおいて向かい合う。

 ブレッドは少し離れてその様子を見ている。

 兵士が向かい合う二人の間に立つ。それと同時に二人は鞘に収まったままの剣を構える。


 クロコはベイトム隊長の構えを観察した。


(このオッサン、兵士のやつがああいうだけあって、確かに隙のない構えをする。さっき街で会ったチンピラとは当たり前だが格が違うな……)



 静かな時が流れる……




「互い、準備は良いですか?」


 二人の間に立つ兵士が尋ねる。


「問題ねーよ」


「私もだ」


 兵士は二人の返事を聞くと、腕を天に向けた。


「それでは………………始めっ!!」


 先に動いたのはベイトムだった。中年とは思えない素早い動きで突進する。

 兵士二人がその動きに声を上げる。

 ベイトムはクロコとの間合いを一瞬で詰める。


「はあっ!!」


 ベイトムが強烈な斬撃を振り下ろすその瞬間、


 ビュンッ!!


 ベイトムの体が反転しながら吹き飛んだ。

 クロコが顔面に一撃を叩きこんだのだ、ベイトムよりもはるかに速く。

 吹き飛んだベイトムはそのまま大きな音をたてて地面に引きずられた。


「ベ、ベイトム隊長!!」


 二人の兵士がほぼ同時にベイトム隊長へと駆け寄る。

 しかしベイトム隊長は地面に仰向けに倒れ、白目をむけたままピクピクしている。


 ブレッドはその様子を冷静に眺めていた。


(はい、ご愁傷様……)



 クロコはゆうぜんと立っている。


「ダメだな。この体じゃ、いまいち動かねぇ」


 クロコは自分の肩に剣をポンッと置くと、満足そうにほほえんだ。


「だが、これで何の問題もないな」








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