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オルカーネイション-血塗ラレシ啓示  作者: ミカエラ・マンサニージャ
4/10

剣よりも先に ※訓練パート

ヴィクトルの訓練パートです。

飛ばしてくださって結構です。

「はい、ヴィク。スープが冷めるわよ」


キッチンから差し出されたのは、温かいスープと焼きたてのパン。それに添えられたジャムは、朝露に濡れたイチジクのように透き通っている。木の窓枠から差し込む朝の光が、それを淡く照らしていた。


「ありがとう、母さん」


言いながら、ヴィクトルはまだ小さな手でパンをちぎる。食卓に向かう彼の背中を、アンナはふっと優しく見つめた。


「今日は、初めての訓練なんでしょう?」


「うん。父さんと、剣の使い方を教わるって」


「あの人、厳しいけど…本当は、とても優しいのよ」


「わかってるよ。母さんがいつも言ってるもん」


ヴィクトルの声に、アンナは安心したように笑った。

彼の中に芽吹き始めた小さな自信――それが、今日のスープよりも温かかった。




ヴィクトルが木剣を構える。だが、その足取りはどこか不安定だった。

砂地に足を取られ、剣先も揺れている。アーサーは無言で構えを止め、一歩前にでた。


「剣を振る前に、まずはヴィクトルがまっすぐ立て。」


その言葉にヴィクトルは一瞬戸惑うが、すぐに体を正す。足元を確認し、微かに震えていた剣をしっかりと握り直した。


「正しい姿勢があってこその一撃だ。力任せに振っても意味がない。」

アーサーの声は静かだが、どこか力強さがあった。その声にはただの言葉以上の何かが込められているように感じる。ヴィクトルはその「力」を感じ取り、自然と背筋が伸びるのを感じた。


ヴィクトルは再び木剣を構え、足元をしっかりと踏みしめる。アーサーが示したように、全身を使って立ち、地面にしっかりと根を下ろすように感じた。その瞬間、身体の重心が安定し、視界がクリアになった。


「良い。だが、足元だけじゃない。目の前の敵を感じろ。」

アーサーの言葉は、まるでヴィクトルの内面に直接響くような強さを持っていた。


「敵を感じる…?」

ヴィクトルは困惑しつつも、素直に聞き返す。


「そうだ。剣を振るうとき、ただ力任せに振り下ろすだけじゃ意味がない。相手を見、感じ、そしてその反応を読み取るんだ。」

アーサーは 再び構えを取る。今度は、ヴィクトルに向かって木剣を振りかぶり、すぐさま一閃。素早い動きに、ヴィクトルは目を見開いた。


その瞬間、ヴィクトルは自分の身体が無意識に反応し、木剣を受け止めるために左腕を前に出していた。だが、アーサーの剣は見事にそれをかわし、空中でひときわ鋭く音を立ててその先端がヴィクトルの鼻先をかすめた。


「反応が遅い。」

アーサーの言葉は冷静で、ヴィクトルの心に鋭く突き刺さる。彼はその一瞬の間に、アーサーの剣を感じ、相手の意図を読み取ろうとしたが、それすらも追いつかない。


「もう一度。」

アーサーの声が静かに響く。ヴィクトルは気を取り直し、再び木剣を構え直す。


アーサーはほんの少しの間、ヴィクトルを見つめた後、再び動き出す。


「ただ振るんじゃない。さっきも言ったが、相手の意図を感じ取れ。それが剣の使い手として必要な力だ。」

アーサーの目は真剣そのもので、言葉以上にその表情がヴィクトルの胸に迫る。


ヴィクトルは自分の心臓が速く鼓動するのを感じながら、汗を落とした。木剣が重く感じるが、その重さを克服するために深呼吸をして、集中を高めた。


アーサーは再び一歩前に出る。今度は早すぎず、遅すぎず、ちょうど良い速度で木剣を振りかぶり、真っ直ぐにヴィクトルの胸元を目がけて振り下ろす。


その瞬間、ヴィクトルは目を閉じ、足元、体の動き、そして空気の流れを感じ取ろうとした。剣を振るアーサーの動きの中に、何か微かな「気配」を感じ取る。


アーサーの体がほんの少し傾いた。その微妙な変化から、振り下ろされる剣の軌道をヴィクトルは予測した。


その瞬間、彼の体が自然と動く。木剣を前に持っていき、アーサーの剣を弾くように受け止めた。


「――!」

ヴィクトルはその感覚に驚き、気が付けばアーサーの攻撃を無意識のうちに防いでいた。


アーサーはすぐに立ち止まり、少しだけ微笑みながら言う。

「今のが、感じ取るということだ。」


ヴィクトルは息を呑む。自分でも驚くほど、体がその「意図」を察知して動いていた。


「すごい…」

思わず声に出すと、アーサーはその反応を見て頷く。


「全ては意識の問題だ。集中すれば、相手の動きは見える。ヴィクトルはその感覚を持っている。今のがその証拠だ。」

アーサーは少し距離を取り、再び構える。


「だが、まだ足りない。次は――」

アーサーの目が鋭く光った。

「お前から攻めろ。」


ヴィクトルはその言葉に戸惑いながらも、胸の中で何かが弾けるような感覚を覚えた。攻める、という言葉に反応した彼は、木剣を構え直し、心の中で決意を固めた。


次こそは、アーサーに一歩でも近づけるように。



僕は努力しても、報われない世界(現実)が嫌いなので

この世界では報われるようにしたいです。

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