新時代の風が吹く朝
魔法と機械が交差する時代。
神々の名を継ぐ者たちが再び目覚める時代。
彼は、その真ん中を、まっすぐに駆け抜けてゆく。
赤子の産声が上がった直後、助産師の一人マーガレットがバタバタと部屋から出ていった。どうやら、隣の部屋で別の妊婦が急変したらしい。
「アンナ様、ご無事で……!申し訳ありません、少しの間、席を外しておりました。」
しばらくして戻ってきた助産師がそう言いながら、赤子を覗き込んだ。
「……それで、この子はなんて名前を?」
助産師マーガレットの問いに、アンナは汗に濡れた額を夫の胸に預けながら、小さく微笑んだ。
「ヴィクトルよ。勝利の意味も、平和の意味もある。強く、優しく生きてほしいの。」
アーサーは黙って頷いた。腕の中の赤子が、小さく泣き声を上げる。それが、まるでこの世界に自らの存在を示す狼煙のように響いた。
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数年後。
エリオス帝国・辺境リヴァンディア竜人自治区、陽の昇りきる前の朝。
静かな田舎の喫茶店、その二階の寝室には、朝日よりも早く目を覚ました者がいた。
「…ん、うう……おはよう…」
布団の中でもぞもぞと動いたのは、小さな男の子。
くしゃくしゃの金髪に、まだ夢の名残を瞳に残している。彼の名は――ヴィクトル・スミス。
「ヴィク、朝ごはんだよ!」
下の階から母の声。ヴィクトルは焦った。
降りてくるのが遅かったが最後...おしりぺんぺんの刑に処されるからだ。
「あ、うん、今行くー!」
眠気を振り払って立ち上がる。
手早く顔を洗い、シャツのボタンを留めながら階段を降りると、そこには温かな匂いが漂っていた。
「おはよう、ヴィク。パンを焼いたわ。今日はイチジクのジャムよ」
母――アンナが振り返り、微笑んだ。
「うん、ありがとう!」
一方、父アーサーは木の机に広げた新聞を読みながらコーヒーをすすっていた。見出しには最近開発された新型魔導列車のことが書かれている。
「機械の国〈VDS〉と共同開発、か…。ずいぶんと本格的に連携し始めたもんだな。魔法の国の機械化か。」
アーサーは朝食を食べるため、新聞を畳んだ。
「それにしても、これからの時代、魔法と機械の融合がますます進んでいくのかもしれませんね」
微笑みながら、アンナが言った。
ヴィクトルは少し興味を持った様子で、父を見上げる。
「魔法と機械、どういうこと?」と、ヴィクトルが尋ねた。
「最近、魔法と機械を組み合わせた新しい技術が注目されているんだ。たとえば、魔導列車なんてその一例だ。機械の力を使いながら、魔法の力を使うことで、効率が何倍にも向上する。」
ヴィクトルは首をかしげていた。まだ幼いが、父の言葉から何か大きな変化が起こる予感を感じているようだった。
「でも、どうしてそんなことが必要なの?」ヴィクトルはもっと素直に疑問を口にした。
「それはね、ヴィクトル。これからの時代、より速く、効率的にものを運び、より多くの人々を助けるためには、魔法と機械をうまく融合させることが必要になるんだ。」
「それなら、僕も魔法を使って機械を作りたい!」ヴィクトルは突然決心したように言った。母親もその決意を感じ取ったのか、微笑んでヴィクトルを見つめた。
「それなら、まずはしっかりと基礎を学んでね。」
アンナは穏やかに言った。
アーサーも少し驚いたように見守りながら、少しだけ考えてから言った。「魔法と機械、両方を学ぶのは大変だが、ヴィクトルならできるかもしれないな。いつか、君もきっと機械の国との連携に貢献することができるかもしれない。」
ヴィクトルは目を輝かせた。少し遅れて朝食をとると、ヴィクトルは父母の言葉を胸に、次の大きな一歩を踏み出すことを決心したのだった。
その日の午後、ヴィクトルは小さな部屋で、紙と鉛筆を持ち、試行錯誤を繰り返していた。まだ小さな手で描いた図面の上に、どこか無理のある魔道具の構造が並んでいた。それでも、どこか満足そうな顔をしているヴィクトルを、母と父は微笑みながら見守っていた。
難しい、難しいです( ; ; )