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洒落にならないと思います!

 抵抗する暇もなく持ち上げられ、投げ捨てるように放られる。柔らかいものに倒れ込んだと思ったら、そこはベッドの上だった。豪奢なレリーフのフレームにシルクのシーツ。このまま昼寝させてもらえたら最高だろうけど、もちろんそれどころではない。


「何!? 誰!」


 叫びながら、自分を運び込んだ者を振り返り、息を呑んだ。


「――第二王子!」


「ジュリアンだ。名前くらい覚えろ、平民」


 自分こそ、あたしのこと平民ではなくちゃんとジーナって呼んでくれませんかね。

 そう言い返してやろうかと思ったけど、さすがに自粛する。

 彼の名を忘れていたわけじゃない。ただ個人名よりも属性のほうが馴染み深くて口から出てきただけである。

 第二王子――つまりは国王、王太子に次いで、この国で三番目の要人だ。本来ならばあたしなんて、彼の前を横切ることも許されない身分……。

 あたしはベッドに半身を起こし、じりじりと後ずさった。


「なんですか、いきなりこんなところに連れ込んで。あたしになんの用……」


 言いながら、ふと気配を感じて振り向くと、部屋の隅には武官らしき男が四人もいた。さらにベッドのそばに女性が一人。これは一体……?


 困惑するあたしの前に、ジュリアンは腕を組んで胸を張っていた。


「おまえに質問がある。答えてもらうぞ」

「……どうぞ、なんなりと」

「兄上の名前は?」

「……は?」

「兄、エリオット王太子のフルネームだ。舞踏会の招待状にも書いてあっただろう」

「……。エリオット・ラーハルト・ベルク・マルク・グロリア・マリア・オルクス・シューバッハ」

「この国の王、つまり我が父のフルネームは?」

「……なんです? そんなことをあたしに聞いてどうしようと」

「いいから答えろ」


 強く促されて、わけがわからないまま答える。


「オルクス・ラーハルト・ベルク・マルク・エリオット・ガブリエル・シューバッハ」

「ではこの僕の母の出身は? 言っておくが兄上のとは別の腹だぞ」

「知ってますよそのくらい。シェリー・ラグクリフ、北西の雪国、シオゲンアイランドの第四王女。前妻が亡くなられた翌年に迎えられたと、現代国史の教科書に書いてあったわ。洗礼名まで必要でしょうか?」

「……。では、他の科目はどうかな」


 その後も、ジュリアンは次々とテストをあたしに投げかけてきた。算術や地理、美術の知識も問われた。どれも学校で教わった基本問題だ。普通の村の人間は知らないだろうけど、仮にも学園に三年間通ったあたしならどれも超基本問題。何を問われてもスラスラと回答する。


 しばらくそんな問答が続いた後、ジュリアンはふむと頷いた。


「なるほど。確かに兄上の言う通り、勉強だけは真面目にやってきたようだ。それで言うと、どこかの公爵令嬢よりはいくらかマシだな」

「何ですかこれ。もしかしてあなたも、王太子様の嫁の審査をしているとでも?」

「なんだ、察しは悪いんだな。やっと気づいたか。その通りだ」


 ジュリアンは当たり前のように頷いた。

 ……こいつ。


「兄上エリオットはただの成金御曹司や貴族の跡取り息子とはわけが違う。この国を背負って立つ男だ。その后は王とともに国の代表として、来賓を迎え、民の前に立ち、時には党首と共に政治の談義にも加わる。最低限、この国の恥をさらさないだけの賢い女でないと困る」

「……あーそうですか。で、あたしはとりあえず合格ってこと?」

「いいや、まだだ」


 ジュリアンはパチンと指を鳴らした。すると、突然四隅にいた男たちがわたしの体をガシッと捕まえた。


「――何!?」


 反射的に抵抗しようとしたが、びくともしない。男二人があたしの手を左右から握りしめ、ベッドに張り付けていた。そこへ下半身のほうから、「失礼いたします」と女性がにじり寄ってくる。

 また別の男が一人ずつ、あたしの膝を鷲掴みにして開かせようとする。あたしは悲鳴を上げた。

 相当な大声をあげたと思うけど、あたしを押さえつける武官も、足元からにじり寄ってくる女官も眉一つ動かさなかった。


 唯一、うるさそうに眉をひそめたのはジュリアン王子。不快そうに顔を歪めてわたしの方を見下ろした。


「大騒ぎをするな。王族の妻となるならこれは当然のことなんだ」

「何なのよぉっ! 当然って何! あたしに一体何をしようっていうの!!」

「検分だ」


 ジュリアンは言った。


「我が王国は血縁によって王位を譲渡し続ける。妃が純潔であることは絶対条件だ。万が一にも王族以外の子を孕んでいたら事実上国が滅びるということ。王太子の妻になるならば、必ずこの検査を受けてもらう」

「あ、あたし妊娠なんかしてないよ!?」

「どうだかな。生まれる三ヶ月ほど前まで大して腹も膨らまない。歴史上、同じ事例は数えきれないほどある。妊娠の自覚がありながら黙って婚姻し、夫に全く似てない子供を産んで追放された例などいくらでもあるぞ」

「あたしはそんなこと――っ、だ、だったら結婚まで、王宮内に監視付きで監禁してればいいじゃん、それなら妊娠を隠し通せるわけがないんだし。半年くらい……」

「ここで検分すれば五分で済む」

「そんな馬鹿なっ!」


 あらためて全力で暴れたけれど、武官たちはびくともせず。いよいよ女官の手がスカートの中に入り込んでくる。あたしはもう凍りつくしかできなかった。

 

 ――しかし。そこで、女官の手が止まった。


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