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38 遺体発見時の動画

 犯人は逮捕され自供した。事件は解決し捜査本部も解散。めでたし。めでたし――となるところなのだが、実際はそうなっていない。

 佐藤逮捕後は捜査員の数も減り、捜査本部自体は縮小されたが、四月十三日も各班は裏付け捜査を継続している。

 堤は、捜査本部は解散し、あとは所轄に引き継ぐという話も出ていると小耳に挟んだが、その判断は難しそうだ。


 佐藤の供述と事件現場の食い違いを解明し、その証拠を提示できなければ、陪審員たちを納得させることはできない。

 このままだと時間だけ無駄に過ぎていく――誰もがそう懸念しながら動いていた。

 堤は立川を連れて、午前中、佐藤の自宅周辺の聞き込みを行ったが、目ぼしい成果は得られなかった。


(おかしな奴には遭遇したがな……)


 石山たちも、三千代と佐藤の関係を知る者を探したが、今泉の他には見つけられなかったらしい。

 近藤も辛抱強く佐藤を取り調べているらしいが、佐藤が小細工をしていたとは思えないらしい。

 昼過ぎに堤班は本部に集合した。


「もう一度、証拠を見直すぞ。あの現場を思い出せ。何か見落としていないか。違和感を感じたところはなかったか」


 堤のゲキに、三人は「はいっ」と同時に返事をし、山田が書き込んでいたホワイトボードを睨んだ。

 ホワイトボードは二つに増え、関係者とその主な証言、不明点などが書き連ねてある。

 堤と石田は佐藤の供述を、立川は鑑識から上がっている情報を整理していた。


「ん? あれ? ちょっ、これ、ここ見てくださいよ」


 山田が興奮気味に呼びかけた。

 彼はノートパソコンで、道長が提供した遺体発見時の現場を撮影した動画を見ていたらしい。

 呼ばれた三人が、山田の背後からノートパソコンにかぶりつく。


「ここなんすけど。この女、妙な動きをしていませんか?」

「ちょっと巻き戻してから見せてみろ」


 堤の指示に、山田が一拍遅れたのに気がついた。


(ちきしょう。「巻き戻す」って言わないんだったな)


「はい、じゃあ、この辺りから――」

「うん? 何でしゃがんでんだ? 何かしているのか?」


 石田がもっとよく見ようとパソコンをつかむが、女がしゃがんだように見えた映像は一瞬だけで、遺体との距離も分からない。


「何が『全員、立ち尽くしていた』だ。しゃがんでいる奴がいるじゃねえか。しかも、それを撮影しておいて何を言ってやがる」


 道長の証言を思い出し、堤が毒づいた。


(あのとき、俺はあの女の様子に違和感を感じていたじゃないか。何で見逃したんだ!)


「おい、この女――」

「畑野優里です」


 堤が名前を思い出す前に、石田がフォローを入れた。


「ガイシャとは面識は無かったはずだよな」

「そのはずですが――」

「もう一回、仲人に確認してみろ」

「はいっ!」


 石田が相変わらず、部活の主将のような返事をした。


「立川、お前は畑野優里にアポを取れ。急ぎだと言え」

「はい」


 立川は、すぐに畑野優里のスマホに電話をかけたが、出てもらえなかったようで、「ちっ」と言いながら切っている。

 会社員なので、業務中にスマホの使用が認められていないのかもしれない。


「自宅の方にかけ直してみます」

「ああ」


 今後は相手が出たらしく、立川はスマホを耳から話してスピーカーにした。


「はい、畑野でございます」

「警視庁の立川と申します」


 名乗っただけなのに、相手がげんなりして息を吐いたのが聞こえた。


「あの優里さんなんですが――」

「先ほども申しましたが、真っ直ぐ帰宅したとしても十九時くらいになるのですが」

「え? 先ほどとは?」

「佐川様から既にお話は伺いましたけど」


(やられた! 妹尾班が先だったか!)


「あ、何度もお手間を取らせて申し訳ありません。それで、佐川とはどういう――?」

「十九時にうちにお見えになるとのことでしたが、そちら様に変更になるということでしょうか?」

「ああ、いえ。私も佐川と同行する形になるかと思いますので、三、四名でお伺いさせていただきます」

「そんなに? お一人でよろしいじゃありませんか」


 刑事がぞろぞろ家に上がるのは、いい気がしないようだ。


「申し訳ありません。できるだけ手短に済ませますから」

「承知しました。それでは」


(相当お怒りのようだ)


「主任、妹尾班も畑野優里に目を付けたようで、今日の十九時に畑野の家に行くアポを取っていました。勝手にうちも同行すると母親に言いましたけど」

「ああ、構わん。お前、佐川と同期だったな」

「はい。連絡しておきます」


 堤は、妹尾が口をへの字に曲げている顔を思い浮かべた。

 妹尾の下についている佐川は、ちょくちょく立川とやりとりをしているようなので、うまくとりなしてくれるだろう。


 石山たちが仲人に会うために上着を抱えて飛び出していく後ろ姿を見ながら、これが突破口になるだろうかと、堤はため息をついてしまった。

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