表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/49

26 供述内容

後半に入りました。

あと20〜25話くらいです。

 あらかた想像できる話だった。口を挟んで話を止める者はいない。その先を早く聞きたいからだ。


「佐藤は、はなっから金を返す気などさらさらなく、貸してもらえなくなったらそれまで、と気安く考えていたそうです。『相手は金持ちのババア』、『いざとなったら脅して、なんなら一発くらい殴ってやれば大人しく従うだろう』と」


 そんなところだろうな、と皆、納得している。


「それで二回目までは目論み通りに進んだようなんですが、三回目に異変が生じたそうです。その日もいつものように三千代の部屋に入るなり、土下座して、『これで最後ですから、どうか五十万、なんとか五十万貸してください』と頼んだそうなんですが――。あ、二回目の時に、三千代が封筒から金を出すところを見たら、五十万くらいの札が入っていたらしいです。『せっかく相手が二回目は増額してくると踏んでいたのに、自分は馬鹿みたいに前回と同じ額を言っちまった』と、本当に悔しがっていました」

「借金の話はその辺でいいだろ!」


 またしてもヤジが飛んだ。中野は一切気にする様子はなく、自分のペースで続ける。


「三回目に会った三千代はいつもと違い、ものすごいヒステリーを起こしていて、まともに会話できる状態じゃなかったそうです。『タダじゃおかない』とか、『絶対に許さない』とか、うわごとのようにつぶやいていたそうです」


 ――おそらく正子だな。

 堤の脳裏にふんぞり返った正子の姿が浮かんだ。

 佐藤が訪ねてきた日に、たまたま正子も実家に顔を出していたのだろう。

 一夫から佐藤が訪ねてくることを聞き、三千代に注意したのかもしれない。自慢の実家に不審人物など招き入れるな、とかなんとか。


「佐藤が必死になって頭を床に擦り付けていると、突然、三千代に頭を踏まれたそうです。驚いて顔を上げると、三千代が棒のようなもので顔を突いてきたそうです。後からよく見ると杖だったそうですが」


 正子と喧嘩しても言い返せずストレスが溜まり、他人への暴力という形で発散したのだろうか。


「さすがに頭にきたので、顔を上げて脅し文句の一つでも言ってやろうとしたところ、三千代は嫌なら帰れと笑ったそうです」


 小太りの老婆に逆らえないとはな。まあプライドなどないだろうから、金のためなら我慢できるのか。


「佐藤も金を手にするまでは帰れませんからねえ。それからしばらくは、床につけた頭を小突き回されたり蹴られたりと、それこそ犬畜生のように扱われたそうです。もう我慢ができないと、頭を上げて睨みつけたとき、三千代がゲラゲラ笑って急に『五十万貸してやる』と言ったそうです。佐藤は三千代の急な変わり様にびっくりして、気を削がれたと言っています。もし小突くのを止めるのがもう少し遅かったら、三千代はこのとき死んでいたかもしれませんがね。ま、金が貰えるっていうことで、佐藤の怒りも収まったそうですが、頭の上の方が熱いなと思い、額に触ったら血が出ていたそうです」


 中野は外国人のように肩をすくめてみせた。悪い癖だ。調子に乗ってくると、講談師のように語り聞かせようとする。何人かは「ああ、また始まったよ」とこぼしている。


 供述内容は先程の妹尾の報告と一致する。この辺が殺害動機に繋がりそうだ。

 三千代の人物像はまだ掘り下げていなかったが、長年に亘る正子との確執に老いが加わり、攻撃的な性分が表に現れたのかもしれない。

 三千代に限らず、普通の会社員が定年後に暴れる老人と化すことは、ままある。


「なんたって五十万ですからね。おまけに治療費と称し、もう五万、追加で恵んでくれたらしく、ムカつきながらも金を引っ張ることには成功したんで、溜飲は下がったようです」


 どこまで現金な奴なんだ。


「三回借金したことは分かった。それで?」


 とうとう係長までがイライラし始めた。


「五十万と増えた分、ギャンブルに突っ込む額まで増えてしまって、結局、三週間もしないうちにすっからかんになったそうです」


 そう言って長い首を振り周囲を見回す中野に、「いいから早くしろ!」と怒号が飛び始める。


「佐藤は、事件前日の昼前に三千代に電話をかけ、『この前の傷が深くて五万じゃ足りなかった。あと十万用意しろ』と、吹っ掛けたそうです。散々脅したらしいですが、三千代は鼻で笑うだけだったそうです。『十万は見舞金としてやる。その代わり、借りた金を全額耳をそろえて今すぐ返済しろ』と、逆に怒鳴ったそうです。『急に言われても返せない』、『いや返せ』の応酬の末に、『お前みたいな能無しは、どうせまともに働いて稼ぐことなんかできないんだろう』とか、まあ、三千代から罵詈雑言を浴びたらしいですが、この「能無し」が佐藤にとってはNGワードだったみたいですね」


 教師が「はい、ここテストに出まーす」というように、今から言うことをよく聞いとけよと、中野は人差し指を立てた。


「佐藤は五年前までは、スーパーで正社員として働いていたそうなんですが、上司が上昇志向の高い若造に変わってから、いわゆるパワハラを受けて鬱になり、最終的に会社を辞めざるを得なくなったそうです。そのパワハラ上司から『この能無し』と、毎日毎日言われ続けていたらしく、同じセリフを言い放った三千代が上司に見えたんでしょうね。このとき、ムクムクっと殺意がわいたと言っています」


 ここまでの道のりが長すぎる。もっと簡潔でいいだろうに。

お読みいただきありがとうございます。

ブクマと評価もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結しました!
『追放された悪辣幼女の辺境懺悔生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜』

カドコミで『転生した私は幼い女伯爵』のコミカライズ連載中です‼︎
フォローよろしくお願いいたします‼︎

『転生した私は幼い女伯爵3 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
⭐️⭐️⭐️⭐️アース・スターノベルから3巻発売中!⭐️⭐️⭐️⭐️
あらすじや口絵イラストはこちらの特集ページをご覧ください。
ご購入はこちらから。amazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i988178

『転生した私は幼い女伯爵2 後見人の公爵に餌付けしながら、領地発展のために万能魔法で色々作るつもりです』
コミカライズ企画も進行中です!
各サイトで発売中amazon 楽天紀伊國屋書店ヨドバシカメラなど
i928141

①巻はこちら
あらすじ等はこちらの特集ページをご覧ください。
amazon 楽天 紀伊國屋書店ヨドバシカメラ
i901832

『私が帰りたい場所は ~居場所をなくした令嬢が『溶けない氷像』と噂される領主様のもとで幸せになるまで~』
DREノベルスから2巻発売中!
i929017
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ