19 足取り
立川のスマホからピンポンと音がした。
「おっ。今日高木邸に行っている同期からです。一夫としずかに佐藤の写真を見せたら、三千代を尋ねて来たことを認めたそうです。しかも三回も来ていたらしいです!」
立川が興奮している横で、今度は堤のスマホの呼び出し音が鳴った。石田からだ。
「なんだ?」
「はいっ。佐藤が通っていたと思われるパチンコ屋を当たっていたんですが、佐藤と何度か飲んでいた男を見つけました。金本剛四十九歳。パチンコ屋の開店前の行列で、ちょくちょく佐藤と顔を合わせているうちに仲良くなったらしいです」
スピーカーにしているようで、山田に変わった。
「昨年の秋くらいから、二人は月に二、三回飲みに行くようになったらしいんですが、今年に入ってから急に佐藤の金回りがよくなったそうです。何でも、『土下座さえすれば金を貸してくれる馬鹿なババアを見つけた』とかで。多分、三千代のことですね。それが事件前日の十日の夜に会ったときは、驚くほど荒れていたそうです」
また石田に変わる。息継ぎのタイミングで変わってるのか?
「金本が、『金がないなら、また借りに行けばいいじゃねえか』と言ったらしいんですが、佐藤は、『あのクソババア、許さねえ』って、そればかり言っていたそうです。あんまり相手にしない方がよさそうだと思い、金本は早々に別れて帰ったらしいです」
とうとう、ガイシャを恨んでいたという証言が出た。
「そうか。それ以降は見ていないんだな」
「はい。他からも、十一日以降の目撃証言は今のところ得られていません。どこかに隠れているんでしょうか」
「どうだろうな。まだ全部は回っていないよな?」
「はい、まだあといくつかあります。夕方からは飲み屋も回りますんで」
「分かった。引き続き頼む」
「はいっ」
「はい」
二人が一緒に返事をしたのを聞き、堤は通話終了ボタンをタップした。
「早いところ身柄を確保したいですね」
「ああ。それより、お前は島田明子にアポを取れ」
「はい」
そう言うと立川は早速電話をかけたが、車内に沈黙が流れただけで相手が出る様子がない。
「まあいい。とりあえず向かえ」
「はい」
堤がシートベルトを閉め終わるのを待たず、立川が車を発進させた。
「お前――」
一言注意しようとした矢先、車内にスマホの着信音が鳴り響いた。ナビの画面に「ハマさん」と表示されている。
「あ、私です。車につないでおいたんで」
立川はそう言うと、ハンドルの通話ボタンを押した。
「お疲れ様です。何かありました?」
「おお。一応教えといてやるよ。つくば市のパチンコ屋のカメラがヒットした。都内を出てやがった」
「マジっすか」
「ああ、今、近藤班が向かっているはずだ。つっても一時間半はかかるけどな。まあ後は時間の問題だな」
「ああ、ちきしょう」
「じゃあな」
「あざーっす!」
立川は運転中にも関わらず助手席の堤の方を向いた。
「主任!」
「おう! つくばか。行って来いで三時間はかかるな。まあ、直接取調べできないとなれば捜査会議まで待つしかないな」
「はい」
近藤班なら、いくら抵抗しようと任意同行を強行するだろう。参考人なら、黙秘権やら何やらの説明をしてやる必要はない。まあ、相手がそんなことは百も承知という場合もあるが。
左腕のスマートウォッチは、大きな文字で11:46と表示している。
取調べは――まあいいところ四時半か五時からだろう。夜の捜査会議であらましは聞けるはずだ。石田たちにも伝えておくか。
堤は着信履歴から石田にかけ直した。
「はい、石田です」
「おう。佐藤の足取りが掴めたらしい。つくば市だとよ」
「はあ? つくば? そんなとこの土地勘があるとは聞いてないですけど」
「まあ、当てもなく電車を乗り継いだのかもしれんしな」
「身柄は?」
「まだだ。近藤たちが向かっているところらしい。お前らは飲み屋を当たってから戻れ」
「はいっ。了解です」
悔しそうな声だったが、こればかりは仕方がない。