旅立ち 下
よろしく
私は慌ててオロオロしている母親を無視し、長老に挨拶をしなきゃ……と思い出し、長老の家はどこだっか思い出そうと立ち止まっていると
「──────やっぱり怖くなったのね!?そうでしょ、じゃなきゃ誰かに脅されてるの?!……ねぇ、待って……なんで私を1人にするの!」
なんか母親が面倒くさくなってる気がするが、私は無視する。
「ねぇ、ねぇってば!……あなたは戦闘能力がゼロなのよ!……それをわかってちょうだい!ね!……」
私は無言で背負っていた剣を取り出す。
「剣……?それだけで何をする…………」
──────そしてそれを軽く振り下ろす。
たったそれだけの行為、しかしその剣圧は母親を黙らせるには十分だった。
「お母さん、ごめんね。実は私剣の訓練を内緒でやっていたんだ。だから、心配しないでよね……また帰ってくるから」
私はそう言うとまた歩き始める。
取り残された、いや、圧倒された母親は何も言うことが出来なかった。
△▽△▽△▽△▽
「長老!私今から旅に出ます!って事で長い間お世話になりました!……では、また!」
呆気に取られる長老他のエルフを無視し、私は里の外に繋がる道へと歩いていく。
と、後ろから
「ふん、お前みたいな雑魚が旅だと?……はっ、笑わせるなよ!……第一お前は『魔法』も『弓』も使えねぇ半端ものじゃねえか、なあおめえら!」
里1番の戦士と、その仲間が集まっていた。
どうやら先程母親に知らせた時、誰かが聞いていたのだろう。
それとも長老の方か?
まあそれはどうでもいいが
ただそんな大声で叫ばれると
──────「なんだなんだ?おおベルメリア、どこに行くつもりだい?」
「あんたまた馬鹿なことやろうとしてんじゃ無いわよね?」
「おねーちゃんどこ行くの?」
私は顔を手で覆う。ほら、こうなる。
「──────なんだなんだ、せっかく穏便に出ていこうとしたのにぃ……全くあんたらは面倒だなぁ……」
その言葉にカチンときたのか、ざわざわとしだすほかのエルフに
「あたしはね。この世界のありとあらゆる物事を断ち切ってみたいんだ。だから旅に出るのさ…………じゃあね!」
そう言い残して出ようとするが
「『呪縛の印』!ええい、頭を冷やせ!……」
体に巻きつく魔法の鎖で動きを止められる。
エルフの魔法は呪文を唱える必要が無い、いわば無詠唱だ。
そしてその力も、並大抵の魔物では振りほどくことさえ出来ない。
そんな代物に止められた私を見て、流石に……と安堵し始めた皆を
「うーん、この程度なら引きちぎれますね」
そう言いながらパキパキと砕いていく。
「?!んな馬鹿な!……『泥の印』!『氷雨縛陣』!『焔火ノ社』!」
「やだぁ、私って人気者!……でもねその程度の魔法……」
そう言って私を止めようとするための魔法を
「叩き斬れるのさ!」
背負っていた剣の一振にて断ち切る。
まるで霧が晴れるように、魔法はするすると解けて消えていく。
唖然とする長老達を続けざまのなぎ払いにて吹き飛ばすと
「んじゃ!お世話になりました!……じゃあね〜」
なんてカッコつけながら立ち去る。
▽△▽△▽△▽
──────そしてしばらく歩いたところで
「はぁ、はぁ……あんた待ちなさい……」
まさかのお母さんに出くわした。
「何、なんか用?」
私はあえてつっけんどんに対応する。すると母親は私を見て何かを取り出そうとする
攻撃するのか?と身構えようとする私に母は
「──────あなたの意思は伝わりました。……そうね、もう変えられないのでしょう?……だから貴女に……いつか貴女が旅立つ時に渡そうとお父さんと話し合っていたものを……貴女にあげるわ」
そう言って母はマフラーと時計、そして指輪をひとつ。手渡した
「全く、あんたは時間にルーズだから……時計、そして寒くても防寒着つけないでしょ?だからマフラー。……あと最後の指輪は…………旅に出たお父さんと私がお揃いでつけている指輪なの…………」
「………………」
「ふふ……貴女は本当にお父さんによく似たわね…………うん、貴女の覚悟が本物だと分かったからにはもうお母さんは止めないわ。……ただ、これだけは約束してね」
「……『絶対に生きて帰ってきてね』……そしたら、また貴女の冒険話を聞かせてちょうだい……あ、あとついでにお父さん探してきて欲しいな…………あと、お土産!」
「──────っ……ありがとう……お母さん。……私、行ってくる!」
「ええ、行ってらっしゃい!」
その表情はあえて語るまい。けれどそこには間違いなく親の優しい、子供を送り出す仕草と涙があった
▽△▽△▽△
──────こうして、1人のエルフは旅に出る
剣を極める為、そして自分の限界を知るため、希望に満ちた旅路へと……
「んじゃ!行きますか!……まずは冒険者にならないとな……」
涙をゆっくりと拭った少女、『ベルメリア=アイギス』の物語が……今、本当に幕を開ける!
次の話はたぶん夜