旅立ち 上
よろ
遺跡に入った時は朝だったが、出た時には夜になっていた。
「あれ?もう夜かあ……うーん時間感覚が完全におかしくなってるよ……」
そう言いながら里の位置を思い出すためにベルメリアがジャンプしようと力を込めた瞬間……吹っ飛ぶ
余談ではあるが、彼女の身体能力は実に1万年程の修行による負荷と、それに伴う身体能力の向上をもろに受けており、さらにこの世界のシステム自体を超えてしまっていたこともあり……
まあ本人は修行の中で少しずつ成長していたから気が付かなかったのだが……
あっという間に空高くへと飛翔する。
「ん〜夜風が気持ちいい!」
んな事を言っているが、内心飛びすぎたか?とか思ったりしなくもない
「お!見えたァ!……灯りだねぇ!」
私はものすごい轟音をたてて着地する。当然夜にそんな轟音を鳴らせば
「あれ?魔物が寄ってこない……?普段なら夜に音を出すと魔物がよってくるんだけどなあ……ちぇ……お土産にでも持って帰ろうと思ったのになぁ……」
ベルメリアは気づいていない。
彼女からはえげつないほどの殺意が漏れ出ていたことを
流石に知能の高い魔物ほど、そういった気配には近づかないものだ
「しゃーないし……歩いて帰るかぁ……っと、犬っころどきな〜」
犬っころは不運であった。まあ犬じゃなくて魔物だけど
先程言ったように知能の高い魔物は近づかないのだが、当然知能の低い魔物は音につられて行ってしまう。
そして近づいた結果
化け物の視線に入ってしまった。
もはや魔物は動くことすら出来ない。それほどまでに凝縮された殺意がゆっくりと歩いてくるのだ、それはもう……不幸な事としか言いようがないだろう
そして極限まで追い詰められた生物は何をするか、その答えは……
「自暴自棄の特攻か?………なんで突っ込んできたんだ?こいつは」
飛びかかった魔物は一瞬で手刀により『断ち切られる』。
──────血すら出ぬほどに一瞬で一撃で。
とは言え、その手刀はあまりにも強すぎた為……
斬った場所を起点に周囲の魔力が消し飛び……その結果木っ端微塵に吹き飛ぶ結果となった。
「うーんやり過ぎたか?……いやいや、脆すぎるのが悪いな。うん」
そんなこんなで飛び散った魔物の肉片を払いながらベルメリアは里へと歩みを進める。
その様子を影から観察していた高位の魔物たちは、その日を境にエルフの里から離れた場所へと逃げ去った。
▽△▽△▽△▽△
「あんた何処まで行ってたの?!……さっき森の方で轟音がしたから……下手したらあんた魔物に食い殺されてたかもしれないのよ!?」
里に戻るなり母親にそう言われたが、たぶんその音は自分だと言うべきでは無いな……と思った私は愛想笑いだけしておいた。
そんな私の笑顔を見て、気持ち悪いと呟きながら母親は歩いていった。
ちなみに初手で誰だか思い出すのに3分ぐらいかかったのはまあごめん……としか。
「エルフ族って記憶力はアホみたいにいいはずなんだけどな〜」
そんなこんなで私は疲れた身体を癒すために温泉に足を踏み入れる
△▽△▽△▽△▽
温かいお湯に浸かりながら私はあの遺跡で起きたことを懐かしむ。
──────ダメだな、斬り足りない。物足りない。私ですら断ち切れないものは無いのか?そんな心のぐるぐるとした感情にベルメリアは悩んでいた。
「ダメだ!……あ〜モヤモヤがはれない!」
私は家から持ってきていた木刀をぶん、と振るう。それに合わせて温泉の湯気が渦を巻きながら斬撃となり空高くへと登っていく。……普通温泉では木刀なんざ振るうべきではないのだが
彼女はあまりにも長いこと剣を振りすぎた。それ故に、剣を奮っていない時間があることが気持ち悪すぎたし、何より
──────彼女の心の中には『全てのものを斬ってみたい』と言う気持ちが芽生えていた。
彼女は世界を超えてしまっていた。その結果、ベルメリアの限界を知りたくなってしまったと言うべきか
まあなんにせよだな〜っと私は気楽に考えつつ
「そうだ!冒険者だっけ?あれになればこのエルフの里を出て私の好敵手になり得るものを見つけられるかもしれない!……よし」
彼女はこの1万年間で即断即決のエルフへと変わっていた。
1万年、それは文明が幾度となく生まれては滅ぶほどの長きに渡る年月。
いくらエルフとは言え性格や考え方の変化は免れられない。
それに、あれだけの枷を突き破って来たんだから少しくらい自由に好きなことを探してもいいんじゃないか?
とベルメリアは思うことにした。
「そうと決まれば、だね!」
彼女は急げ〜と全速力で家へと駆けて行った
──────なお、服は割と雑に体に巻きつけただけだったので、道中すれ違うエルフからはなにやってんの?と言う目で見られたのだが……
ま、そんな事を気にしてるようなエルフでは無いわけで
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「おかーさん?私冒険者になる!そして世界を旅してくるわ!って事で明日旅立つから!〜」
「?!何言ってるの?!」
次の話はまた明日。〜寝る。