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春の悩み


 俺には悩みがあった。

 登校するため毎日駅へ行くが、自動改札機を通るたびにトラブルが起こるのだ。

 季節は新学期。

 購入したばかりの定期券なのに『これは期限切れだ』とブザーを鳴らし、ゲートをバタンと閉じられてしまう。

 まるでキセル乗車でもしたかのようで、まわりの視線が恥ずかしい。

 では駅員はなんと言うか。

 それが駅員も首をかしげるのだ。

 定期券に異常はない。

 だが俺が自動改札機に入れると、またブザーがブー。


「自動改札機の故障だろうか?」


 と駅員はつぶやくが、その間も他の乗客たちはすいすい通り抜けて行く。


「これは改札機の異常ではないな」


 定期券を新しく作り直しても結果は同じで、俺はどうしても通り抜けることができなかった。

 だがこの時、俺は感じたのだ。


「おかしい。この自動改札機は獣のような匂いがする」


 良いにつけ悪いにつけ、俺には行動力がある。

 申し訳なさそうな駅員をしりめに駅を出て、やってきたばかりの道を後戻りしたのだ。

 目指すはスーパーマーケット。


「油揚げはどこにあるんだい?」


 制服姿の学生にきかれ、店員は目を白黒させたが、売り場に案内してくれた。

 俺は、さっそく薄い油揚げを一枚手に取る。


「チューブ入りのワサビはどこ?」


 というのが俺の第2声だ。

 代金を支払うと、すぐさま店内で商品の封を切る俺の行動に、店員はまたまた目を丸くした。

 薄い油揚げを2枚に裂き、俺はその間にワサビをサンドイッチしたのだ。

 店員に気味悪がられながらニンマリと笑い、俺は駅に戻った。

 目が合ったので先ほどの駅員に会釈をし、俺は改札機へと前進した。

 だが改札機は何も知らず、俺が差し出したものをスッと飲み込んだ。

 しかし反応は劇的だった。

 ゲートを閉じて俺を閉じ込め、今回も派手にブザーをブーブー鳴らしたか?

 とんでもない。

 目を白黒させるかのようにランプを点滅させ、改札機がゲートをバタバタと激しく開閉するさまは、まるでのどをかきむしるかのようだ。

 しかし次の瞬間、自動改札機が突然立ち上がるのを目にしては、俺も笑ってはいられず、恐ろしさを感じた。

 自動改札機とは意外に大きな装置だ。

 それがフラフラと歩き、鉄のボディーをヨロイのように脱ぎ捨てるのを、俺は呆然と眺めたのだ。

 では中に潜んでいたのは何者か。

 キツネだったのだ。

 口の中にワサビを入れられては、キツネもかなわない。

 ついにコーンコーンと悲しげに鳴き、9本ある尾を見せて逃げるのを見送ったのは駅員と俺だ。

 感じ入り、ついに駅員は口を開いた。


「学生さん、もしやあなたは安倍というお名前ではありませんか?」


「あれ、どうして知ってるんだい? 安倍晴夫というんだよ」


「ああ、それで…」


「俺の一族は代々、名に『晴』という字を入れるならわしでね。安倍晴明の末裔だから」


「なるほど…」


「あのキツネはきっと『玉藻の前』のカタキうちに来た子孫だろうけど、おかげさまで撃退できたよ。いつものことだから、俺も気にはしていないけど…」

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