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死刑判決を受けて、彼女は何を語ったか


 裁判長様、かつて私の一家は農業をしておりました。

 わらぶき屋根の家は川のそばにあり、田や畑も広く、雇い人もいて、人もうらやむ暮らしぶりだったのです。

 でも平和な日々も長くは続きませんでした。すぐ川上に、佐藤さんが新しく工場を建設したからです。

 はじめは小さな工場でしたが、だんだんと大きくなり、黒い煙を吐き出す背の高い煙突が何キロも離れたところからでも見えるほどに成長しました。

 でも佐藤さんの工場が吐き出したのは煙だけではありません。

 毒々しい赤い水も川に流して捨てるようになったのです。

 美しかった川はすぐその色に染まり、あれだけたくさんいた魚も、あっという間に姿を消しました。

 その魚をねらってカワセミなども飛んでいたのが、一切姿を見せなくなりました。

 私の家の田や畑は、その川から水を引いていたのです。

 川の毒を受けて、私たちが体を悪くしないはずがありません。

 家の者は次々に病気になり、雇い人たちもやめていきました。

 家族はみな倒れてしまったのです。健康なままで残ったのは、東京の学校へ行っていた私だけでした。

 家族の最後の生き残りだった弟の葬式を出したのは20年前のことです。その日、私は誓ったのです。

 川の水が汚れ始めた頃から、もちろん佐藤さんには苦情を入れました。

 汚れた水を流さないようにお願いしたのです。でも佐藤さんは聞いてくれませんでした。

 市や県にもお願いしました。東京の本省へ足を運びもしました。

 だけどもう佐藤さんがワイロを渡していたのでしょう。お役人は誰一人、会ってもくれませんでした。

 そうやって私の家は死に絶え、とうとう私一人が残るだけになりました。

 私は計画を立てました。専門の学校へ通って料理を学び、本職のコックになったのです。

 腕を磨き、それなりに知られる存在になりました。この町でも1、2を争う名前になったと思います。

 そうなると、虚栄好きな佐藤さんのことです。ほっておくわけがありません。

 すぐに私は「わしの家で働いてくれないか」と誘いを受けたのです。

 もちろん断るはずがありません。佐藤さんの家に雇われ、私は働くようになりました。

 佐藤さんは、私があの死に絶えた家の縁者だとは夢にも思わなかったでしょう。

 私は腕をふるい、半年もたたないうちに、家族全員の食事を日に3度、すべて任されるまでの信頼を得たのです。

 その結果は、皆さんもすでにご存知のはずです。

 一家6人の毒殺現場は、そういう光景を見慣れたはずの捜査官たちでさえ、目を背けたくなるほど凄惨なものだったそうですね。

 ええ、この判決には満足しています。

 自分からしたことですから、意味はよくわかっています。

 でも一つだけ不満があるとしたら、私が犯行に用いたとされる毒のことですね。

 検察官さんのお言葉でしたね。

「詳しい成分は不明であるが、まれに見る毒性を持つ恐怖の物質」 ですって?

 私は毒なんか使ってはいませんよ。

 私はただ、川の水を料理に使っただけです。佐藤さんの工場の前を流れる川から取ってきた水です。

 それが罪になるとおっしゃるなら、私を死刑にでも何でもなさるがいい。

 それが罪だとおっしゃるのなら…


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