5
「まってください。なんで私が呆れられるんですか?」
「だって君が事を大きくしようとしてテレーザに話した。そのせいで理由は分からないが、俺はテレーザから責められているんじゃないか。君の行動には呆れてしまうよ」
――あ、呆れるのは私の方よ!
「テレーザ様」
思わずテレーザを見る。テレーザは私の手を取った。
「貴方は何も悪くないわ。すべてはアルマーの常識のなさが招いたことです」
「ひどいな。どうしてダリアの肩を持つんだい?」
――こいつ……。
「いい加減にしてください。あなたは貴族の恥を見せています。私のほうからあなたへ婚約破棄を言いたいくらいです。いいえ、言わせていただきます」
テレーザの言葉にようやくアルマーが困惑した様子を見せた。
眉を顰めて私とテレーザ様を見ている。
「どうして急に婚約破棄なんて……」
「説明しても貴方には無駄だと思いますが。人は、婚約者がいながら他の方と恋人関係になることは浮気であり、非難されるべき行動であり、恥ずべき行動です。そしてそれは侯爵家を侮辱した行動とも取れるのです」
「そんなつもりは」
「そんなつもりがないことが、一番の問題です」
アルマーが叫ぶ。
「それで婚約破棄? 一方的すぎるよ!」
「アルマー様」
私は彼に呼びかけた。
「あなたは何か勘違いしています」
「勘違い?」
「あなたは浮気でもないし、悪いこともしてないと思っている。テレーザ様は貴方が悪いことをしたと思っています」
「だから?」
――どうしてわからないのだろう。あなたが言ったのよ。
「貴族というのは上の言うことがすべてだ。つまりテレーザ様の言うことが全て。あなたのそれはただの妄想です」
私は彼に言われた言葉を返した。
だってその通りだから。
「貴方とは金輪際会いません。さようなら」
私は言い放つ。
すると今度は続くようにテレーザ様が言った。
「貴方とは金輪際会いません。婚約は白紙にいたします。さようなら」
こちらはにこやかに言うものだから、むしろ怖いくらいだった。
そして私たちは彼を置いて裏庭を後にした。
やはり何か彼が言っているが、完全に無視する。
彼にはもう何を言っても意味はないし、彼が何を言ってもまともに聞く人はいないだろうから。