⑧百人一首バトル
中学校の国語の中で「百人一首」は、今も昔も必ず一度は通る道らしい(本当かな?)。
中学2年で川上と同級になった河野は、夏休みの宿題に百人一首の暗記が出され、休み明けに激しいバトルを繰り広げていた。
とはいっても他愛のないことで、河野のお気に入りの札「蝉丸」の札をどちらが取るかとか、川上が集める「姫」の札を河野が何枚阻止するかとか、その程度のレベルだった。
男女混合戦になると、まじめに暗記してきている女子にはぜんぜんかなわないので、河野はただただ「蝉丸」の札を取ることだけに執念を燃やした。
河野の「蝉丸」の札をなかなか阻止できない川上は、悔し紛れに一つの提案をした。
「おい、航〈当時はまだこの呼び名〉、こういうのはどうよ。この札をトランプの神経衰弱みたいにパーっと一面に並べて、坊主めくりをするわけよ。「蝉丸」の札はいつ出るか分からないが、最後に蝉丸の札をもっていた方が勝ち。どうだ受けるか?」
「承って候。拙者早漏にて候」
わけのわからない事を口走りながら、そのバトルは始まった。
札の数は一進一退だったが、肝心の「蝉丸」の札はなかなか姿を現さなかった。
「くそう、違う! このハゲじゃねえ!」
「くくく、越後屋。そのほうもなかなかの悪よのう」
途中の奇声で十分もりあがっていたせいか、いつの間にか二人の周りにはギャラリーの輪ができあがっていた。
「こうなっては、一歩も引けんぞ」
「なにをこちとらだってハマっこでい」
とうとう残り2枚になって、河野の順番が来た。河野の目に、残り2枚のうちの「蝉丸」の札がキラリと光って見えた。
「これこれだっつつつつ!」
自分で自分のセリフにエコーをかけながら、河野は確信を持ってその札を返した。
ワーーーーーッ!
ギャラリーから歓声が上がった。
見事にそれは「蝉丸」の札だった。
「やったー! アイ、アム、ナンバーワーーーン!」
「ふっふっふ、かかったな明智くん」
川上が不敵な笑いを浮かべて言った。
「蝉丸! 破れたり!」
川上が返した最後のカードは姫の札。小野小町だった。
「へえっ?」
まだ事情がよく飲み込めない河野をしり目に、川上は歓喜の輪の中でだれ彼となくハイタッチを繰り返していた。