④「まあ、そのうちきっといいことあるよ」
そして、いよいよしし座流星群の夜はやって来た。
「蝉丸先輩- この望遠鏡の極軸がどうしても合わないんです-う」
「どれどれ、あ- こんな足がガタガタじゃあすぐ狂っちまうよ」
「蝉丸- 女子が一人だけ来てねえよ」
「えっ! だれが来てないって?」
「え-っと、浅井だな、浅井陽子」
「浅井か-」
浅井陽子は、部活にも2,3回に1回くらいしか顔を見せない、あまり熱心な部員とは言えなかった。
河野とはクラスメートでもあったが、どういうわけかあまり接点がなかった。
というよりは、浅井が、十人の男子がいたら八人が憧れるくらいの、クラスの中でもやや近寄りがたい存在であったため、河野にも遠慮があったのかも知れない。
ただ、河野の事を「蝉丸」ではなく「こうちゃん」と呼ぶ数少ない女子の内の一人だった。
「だれか連絡取ってないの、女子の連絡網は?」
「え-っと、誰からもいってないかも。浅井さんあまり来ないしね~」
「まーいーじゃん蝉丸。また今度、わけ話せばいいって」
「なんだよビール、無責任だな。一杯はいってんのかよ」
「じゃあ花火やったら、解散-!」
河野の思い入れのあった引退セレモニーは比較的こじんまりと盛り上がり、比較的あっけなく終わりに近づいた。
締めの近くになって、ビールから差し入れをもらった。
「じゃあな、蝉丸。ご苦労さん。beerは「恵比寿」にしといたから。まあ、きっとそのうちいいことあるよ、うん」
「なんだよ、慰めみたいなこと言うなよ」
天文部のメンバーは潮の引くようにいなくなり、あとに河野は一人残された。