③女子、多めです
河野の住んでいる「希望台団地」のあるいわゆる希望台ニュータウンには、「希望台北高」と「希望台南高」の二校の高校があり、ともに5年前に出来た新設校である。
希望台北高はいち早く公立校のトップ高に肩を並べるようになったにもかかわらず、河野のいる希望台南高は学力はまったく振るわず「絶望だい」と陰では言われていた。
中学時代に悶々とした学校生活を送った河野は、高校に入って川上に「天文部」に誘われた。
「どちらかといえば生物系だし、畑違いだよ。ビールだってどっちかと言えば体育系じゃねえの」
「まあ文句言うなって、俺だって兼部だし。騙されたと思って入ってみろよ」
そのあと、川上は小声でささやいた。
「女子、多いぞ」
この一言が決め手になり、河野の3年間の方向性は決まった。
確かに女子は多かったが、河野の「つくられた硬派イメージ」のオーラに踏み込んでこれる女子は少なく、河野が男子女子分け隔てなく接したことからかえって変な信頼を勝ち取り、部長を任されることになった。
この年の「しし座流星群」は何年に一度の当たり年と言われ、天文部を挙げて相当に気合が入っていたが、前段の夏休みの観測でミソをつけていたため、活動自粛ムードになってしまっていた。
「だいたい3年でもう何月だと思っているんだ、さっさと受験モードに切り替えろ」
両親からも担任からも同じことを言われ続けていた、ただ夏休みまで、文化祭までとずるずる引きずってしまい、いよいよ今回の「しし座流星群」を、遅すぎる引退の花道にしようと自分では考えたのだった。