㉖河野さんって、ときどき上の空ですよね
河野は大学入試に一旦は失敗し、一浪の末MARCHの一角になんとか滑り込み、大学時代もまったく女っ気なしで過ごした、というわけでもなかったのだが、だいたい2~3回デートをした後で自然消滅、というパターンを繰り返していた。
河野は広告代理店の子会社に就職し、結構忙しい。飲み会などで不規則になっては、急に長い休みが取れたりとか、そんな毎日の生活だった。
会社にはいっても、やはり一人の女の子とあまり長く付き合うことができず、自然消滅の繰り返しだった。一度、その中でも比較的長く半年くらいつきあった彼女から、こう言われたことがあった。
「河野さんって、ときどき上の空ですよね」
そう、そういう時にかぎって、本当に浅井のことをボーっと思い出していたりしたので、河野自身もこれはまずいと思ったこともある。
「こりゃ、浅井への残留思念かな。それが邪魔してんのかな」
河野は一度だけ、ビールに頼み込んで情報網を屈指してもらい、浅井のメールアドレスを何とか聞き出してもらったことがあった。
「浅井さん、お元気ですか。ぜひ一度会いたいですね。例の約束覚えてますか。河野」
こんな味も素っ気もないメールを送った。
返事はかなりたってから、一カ月以上あとに届いた。
「ハロー、航ちゃん元気してた? メールありがとね。どうしたの? やっとプロポーズしてくれる気になった? 私はね、すごく元気。なんかね、あの秘密の密会笑の夜に、ずいぶん航ちゃんに、元気と勇気もらったような気がするよ。
実はね私、いま海外協力みたいなプロジェクトのセクションにいて、ちょっとちょっと前まで「欧米か」に行ってたのね。それでメールの返事おくれてごめんね。
そういうわけで公私ともにとーーっても忙しくはあるけど、気が向いたらいつでも愛の言葉、待ってるよーん、よろしくう」
なんかすごい勢いのあるメールで、河野は大いに気後れした。それに「公私ともに」忙しいというくだりもとても気になった。
ただメールの様子からは、完璧に立ち直っている風が見てとれたので、河野はその点については安心した。
浅井の元カレ、じゃない幼なじみのタイガー君のモデルは、おそらくあの選手で間違いないと思うのだが、前までは森保ジャパンに召集されていたが、ワールドカップには出れるのだろうか。




