②蝉の抜け殻事件
小学校の頃、河野はクラスの女子でどうしても好きな子がいて、川上も同じクラスにいた。
河野は当時、夏に蝉を取るのが大好きで、よく川上と二人で虫取りをし、蝉の抜け殻も百匹分やそこらをビニール袋にためていた。河野の教室のロッカーは蝉の抜け殻で常時いっぱいになっていた。
ある日の放課後、掃除当番でたまたま河野と川上とその彼女と三人になったことがあった。
その頃から感がよかった川上は、気を利かせて黙って焼却炉へゴミを捨てに行っていた。
小学生の頃の愛情表現として、好きな子にはちょっかいを出したくなるもので、河野はホウキでその女子の背中をくすぐった。
その子も気が強かったのか、いつの間にか二人でホウキでチャンバラごっこになっていた。
「なに、くそっつ」
「えーい、どうだ」
河野があまり大きくホウキを振り回したため、ホウキがたまたま河野のロッカーに当たり、扉が壊れて中から数百の蝉の抜け殻の入った袋が飛び出し、破れてその子の頭に降り注がれた
「いやだ、なにこれー きもーい!」
さすがに気の強いその子もその場で泣き出してしまい、河野は担任の先生にこっぴどく叱られ、親と一緒にその子の家へ謝りにもいった。
これが今も河野の心に深く影を落としている「抜け殻事件」の顛末である。
ついでに言えば、たまたま教室の廊下に戻って来ていた川上は、事の一部始終を見届けた後、廊下で腹を抱えて笑い転げていたという