⑱だってあまりに唐突なんだもん
「何もそんなに笑わなくても」
「だってー あまりに唐突なんだもん」
「あ、聞いて悪いことだったら、いいよ」
「あー うん、いいんだけどね。ちょっと説明が難しくてね。まあずーっと遠くにいて、今はかなわぬ恋とでも申しましょうか」
「んー 本当によくわからないけど」
「航ちゃんこそ、どうなのよ」
「あ、おれ? 目の前にいるじゃん」
「だから冗談じゃなくてさ」
全然冗談のつもりではないのだが。
「いやあ、だめだめ。俺みたいなお笑い系キャラは全くだめだね。だいたいスポーツ万能タイプか、ちょっと不良系キャラじゃん、バレンタインとかで山の様にチョコもらうのは」
「あはは、まあそんな事ないって、結構いけてるよ、航ちゃんは」
じゃあ俺と付き合おうか、と言う準備をして、一瞬唾を飲み込んだとき、先に浅井にしゃべられてしまった。
「だって私の知ってるなかで、3人か4人はいるよ。航ちゃんに夢中な子」
「なになになにそれ、誰それ」
あせって言葉が裏返ってしまった。
「いやいやいや、航ちゃんを天狗にしてはいけないし、せっかくの謙虚なキャラが崩れちゃいけないから、秘密にしておくわ、ひ・み・つ」
「なんだよ、それ」
しばらくは沈黙が続いた。
「こう見えても2年まではバリバリの硬派で・・・ まあ今でも同じようなもんだけどね。フォークダンスの時なんか女子と踊れなくて、校門の先の橋の下に隠れてたりしたんだぞ」
「ああ、そういえばフォークダンスで航ちゃんと踊った覚えないわ」
「だから女子とも本来はうまくしゃべれないんすよ」
「??? ちゃんとしゃべってるじゃん」
「だから、とっても不思議なんだよ、今日は」
「あー つまり私を女としては認識してないって、そういうこと」
「と、とんでもないっすよ、十分魅力的っすよ、浅井さんは」
「なんだか変だなー それでなんだっけ。そうそう、航ちゃんさっきの質問はぐらかしたでしょ、つまり、じゃあ航ちゃんはどんなタイプの女の子が好きなの」
「バレたか、なかなか鋭いですな浅井さん、
えーっと何だっけ、好きなタイプ? そんな好きなタイプなんかないっすよ、好きになったら、その子がタイプです」
「うそだあー、癒し系美人がいいんでしょ」
「あのね、さっきのは、例えば芸能界で言えばどうこうって事でしょ、じっさいの女性の話とはまた違うでしょ・・・ ってあれ? どうしたの」
気がつくと、浅井は涙ぐんでいた。
「えっ、俺また不用意な発言、しましたか」
「ちがうの、・・・ごめんね、ただちょっとね」
「はあ、いや、無理していわなくても、いいですよ」
「いや、ばかね私・・・ 何でもうちょっと早く、航ちゃんみたいなやさしい人と、出会えなかったのかな、なんて・・・」
・・・これはまことに微妙な展開になってきた。
「良かったら、聞くよ。話せるとこだけでもいいけど」
「うん、ちょっと待ってね、心の整理するから」
美人って泣くと芸術的だな、などと感心しながら、しばらくは相変わらずすばらしい盛り上がりを見せる流星のショーと、浅井の表情に見入っていた。
カメラのオートドライブの音だけが、淡々と時を刻んでいるようだった。
「それじゃあ、さ。」
浅井が切り出した。
「つまらない話だと思うけど、聞いてね。恥ずかしいから、すこし童話風に脚色してはなすからね」