⑬「百年の願い星」
*希望台南校天文部伝承
「百年の願い星」
注…この話を聞くときは、まわりを暗くして、語り手に十分接近して聞きましょう。
「なにこれ、本当にこんな注意があったの?」
「先輩からの言い伝えだから、仕方がないでしょ」
「しょうがないなー」
浅井の素顔が間近に来た。超ラッキー
「そ、それでは始めましょうか」
「緊張しないで、ね」
なんだか浅井のペースのままだなあー
昔、中国四千年の味、じゃなかった、四千年の昔
中国の遊牧民の間で伝えられた伝説があった。
「どんな願いでも、百年願い続ければ、必ずかなう」
天空の天狼星シリウスか?に百年間願い続ければ必ずその願いはかなうという。
当時の人の寿命はせいぜい三十~四十歳。
逆に決してかなうことのない願いを続ける人々のやりきれない思いを象徴するものだったのかも知れない。
遊牧民の中に互いの将来を誓い合った二人、十七歳の若者ボーキと、十五歳の美しい娘、イーダがいた。
二人の結婚ももうすぐか、と思われたその矢先、隣国で戦争が起こり、ボーキも兵隊としてかり出されることになってしまった。
いよいよ明日出発というその夜、ボーキはイーダに言った。
「いよいよ明日出陣だ。必ず生きて戻ってくるから、そうしたら一緒に暮らそう」
「必ず戻って来て。もしも何年も戻れないことがあっても、わたしあの天狼星に誓って、百年でも待ち続けるわ」
「僕もだ、たとえ離れ離れになっても、あの天狼星に誓って、百年かけても君のところに戻って来る」
戦場に赴いたボーキは勇敢に戦ったが、敵は多勢に無勢。ついに捕虜にされたボーキは命だけは助けられたが、両面の自由を奪われ、奴隷としてその国で働かされることになった。
イーダの村も敵に襲われ、イーダも捕虜として他の村に連れて行かれた。そこで屈辱的な行為をさせられたイーダは、村を逃げ出したが追っ手に追い詰められ、崖から川に落ち、頭を強く打って記憶を失ってしまう。
川に流され偶然にも生まれた村の隣の村に流れついたイーダは、そこでナミナミと名前を変え、生涯独身でつつましく暮らしていた。
ボーキは60歳まで生き、恩赦でやっと釈放された。まっすぐに自分の村へ向かったボーキは、途中となり村の家で道を尋ねた。その家こそナミナミの、そうイーダの家だった。
ボーキはそうとは知らず、その家の老女、その、イーダにたずねた。
「となりの村に、イーダという、もう六十近くになろうという女性を知ってはおりませんでしょうか」
「さあ、このあたりの村で六十近いといえばわたしぐらいだねえ」
「そうですか・・・」
ボーキはとても落胆した声で言った
「あの、よかったら今日はもう遅いですし、こちらに泊っていきませんか」
「いやいや、一刻も早くとなり村に行きたいので。それに女性一人の家に泊めていただく訳には参りません。実は四十三年も前に、将来を誓い合った女性がいて、この年になってやっと戻って来ることができたのです」
「あら、とてもいい話ですね」
ボーキはそそくさととなり村への道へ向かっていった。
ナミナミ(イーダ)は、先ほどの老人に、なぜか今までの一生の足かせを解かれたような気がして、次の日の朝、自分の家で眠るように息をひきとっていた。
かっての自分の村についたボーキは、まったくイーダの消息を見つけることができず、力を失って地面に倒れこんだ。
「ああ、この土だ。ここには、かすかにイーダの匂いが残っている」
ボーキはそのまま、笑顔で眠るようにして息をひきとった。
その時、天狼星の横から流星が流れた。
それはまるで、天狼星の流した一筋の涙のようだった。
でも話はこれでは終わらない。ボーキとイーダの思いは、そのまま残って、何十世紀を経て世界各国に蘇るのだそうだ。
そう、たとえば、今ここにいるあなたと、僕のようにね。
うそだと思うんなら、いまここで目をつぶって、一番好きな人のことを、思い浮かべてごらんよ。