①バレンタインデーを考えたやつ、出て来い!
バレンタインデーなんてくそ喰らえだった。
なんであんなものがこの世にあるのかとかねがね思っていた。
テレビドラマのうそ臭いラブコメは大嫌いだった。
だいたいなんで男3人と女3人が一対一の相手を都合よく好きになったりするというのだろう。
現実では大体十人の女は十人の男のうち一人か二人を集中して好きになり、残りの男は十人の内どの女を好きになっても、つきあってもいないのに「好きな男子がいる」という訳の分からない理由で振られて、必ず負け組に陥る、というパターンだろう。
「蝉丸ーぅ。今度の十一月のしし座流星群はどうするんだ? 予定通り夜中の2時半に校庭集合でいいのか」
声をかけてきたのは、高校の同級生で天文部の悪友、川上浩二。愛称は『ビール』
「よう、ビール。それがな、やっぱり女子の父兄からダメ出しが来てな、普通に夜9時までの観測と花火大会になっちまったんだよ」
蝉丸こと、河野航は、希望台南高校天文部の部長を務めていた。
「なんだつまんねえな。だいたい記録とか写真資料とかは夜半過ぎじゃないと意味ないだろ」
「そりゃそうだけどな、夏休みの観測の時に、夜アルコールが入って盛り上がったのが父兄にバレちまって、それがまずかったみたいなんだよ」
「あーあん時はOBもいたしな、たしかに相当量ビールとか持ち込んだけどな」
「ビールん家は酒屋だからな、アルコールくらいなんでもないだろうけど。酔っ払って倒れた女子もいたしな」
「そんじゃ2時半のはキャンセルか」
「まあ責任上、おれは観測には来るけどな」
「じゃおれも手伝うよ」
「男二人でも色気ないだろ。大丈夫だよ」
「そうか、じゃ変更の件は連絡網で流すよ」
川上とは小学校からの長い付き合いだ。お互いのあだ名「蝉丸」「ビール」もそれぞれ付け合ったものだった。川上は小中学生のころから女子にはそこそこモテた。ただ河野が好きになる女子が、川上と付き合う女子とバッティングすることはなかった。川上は根っから女子には優しい性格で、どちらかというと女子の方から迫られて付き合い始めることが多かったからかもしれない。そのせいかよく付き合う期間も複数の相手とオーバーラップしていた。
河野は川上に言わせれば『超面食い』で、川上からは「蝉丸よう、もっと現実をよく見つめろよ」とはよく言われた。