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《連載版》名探偵の友人は「迷」探偵?  作者: 吉川 由羅
第一章
9/15

真犯人

今回はちょっと長めです。

真犯人はいったい誰なんだ…?


「やはり、あなただったのですね。」

「…はい。やはり、ばれてしまいましたか。」


剛力は力なく言うと、はあと溜息をつく。


「どうして、誉さんを……」

「え、ちょっと待ってください!私はオートロックを解除したとは言いましたが、殺してなんかいませんよ?」

「はい?」


蓮は予想外の答えに素っ頓狂な声を上げた。

「な、何を今更…」

「ちょっと待ってください、蓮さん。」


すると隣で考え込んでいた理乃が、蓮の言葉を止めた。


「確かに、もし仮に剛力さんが犯人だとするとおかしいです。時系列で考えてみてください。まず、剛力さんが4時半頃に10階の部屋で誉さんを殺害。その直後に、琴乃さんが剛力さんに会っているんです。さっき麗華さんに会いに行ったとき、エレベーターを使いましたよね?安全を重視するこのマンションは、エレベーターの速度が異常に遅い。ここまで戻ってくるのに、遺書の設置とか、死体の工作も含め、少なくとも10分はかかるんです。」

「あ……」


理乃の推理は正しかった。

剛力がもし犯人だとすると、琴乃がフロントで剛力に出会えたはずがない。


「そうか。」

「剛力さんは、犯人じゃないようですね。」

「じゃあ、こう考えたらどうかな。剛力さんは真犯人をサポートする共犯者だった。」

「な、何を…」


蓮の中では、うっすらと犯人のシルエットが見えてきていた。

事件発生時刻に現場にいた可能性があり、かつ剛力の証言でアリバイができていた人物。

それは、一人しか考えられない。


「すみません、剛力さん。よかったら、一緒に来ていただけませんか。」

「……」


剛力は険しい表情を浮かべて二人を見つめていたが、やがてゆっくりと歩き出した。






蓮と理乃は、うなだれた剛力を連れて、現場に戻ってきた。

犯人は現場に戻る。それに習って、現場で犯人を暴こうと思ったのだ。


そしてその犯人は、もう来ているはずだ。


扉を開けると……

奥に、ソファーに座る人影が見えた。


「こんにちは。」

「……」

人影は、黙って軽く会釈をする。


「どうして呼ばれたか。自分でもわかっているんじゃないですか?」

「…全く、心当たりはありません。」

「まだ白を切るつもりですか。あなたの協力者は、もう認めているのに。」

「!!」


ばっと、人影は勢いよく立ち上がった。

その瞬間、窓から漏れる光が彼女の顔をはっきりと映し出す。


それは…………被害者の妹、桐ケ谷琴乃だった。


「ど、どういう事、ですか?」

「わかりました、琴乃さん。俺の推理を少し聞いてください。」

「…。」


黙り込んでしまった琴乃をよそに、蓮は話し始める。


「まず、遺書の事です。おっと、その前にお聞きしたいことがございます。被害者は高卒ですか?」

「は、はあ。恐らく助手さんに伝えたと思うのですが。」

「ええ。しかし、それはあなたの言葉によって明らかになったものです。」

「どういう事…?」

「あの後現場を調査したら、うちの助手がこれを拾ってきたんですよ。」


蓮はカバンから一つの分厚い封筒を取り出し、琴乃に手渡した。

琴乃は書類を見た途端、顔がみるみる青くなっていった。


「それ、何かわかりますか?」

「だ、大学の入学届?」

「ええ。その裏には、学生証明書も貼り付けてあります。これがどういうことか。わかりますね?」

「…。」

「そう。被害者は大学に進学していたんですよ。しかも超名門、T大学に。」

「そんな!私、聞いてません!」


琴乃は顔を真っ赤にして、慌てて反論する。


「そう。あなたが知っているはずがない。」

「え…?」

「お母さまから聞きました。あなたは中学生の頃、おばあさんの家に籠っていたようですね。そして、今に至るまで帰省もしていない。」

「!」

「だから、あなたは家族の中での情報を共有されていなかったのです。もちろん、兄の進学の事も。」

「で、でも、それだと私が遺書を書けないじゃないですか!」

「ええ。もしあなたが本当に知らなかったら、ね。」

「え…?」


琴乃は戸惑いを隠せない様子だ。

蓮は一息つくと、その封筒の開け口を琴乃に見せた。


「ここ、よく見てください。最近強引に開封された跡がありますね。ここは事件が起こってから厳重に警備されているから、可能性としては…犯人が開けたというのが一番有力。しかし、なぜ犯人はこれを開けたのでしょうか?それならこう考えればいい。自分を犯人候補から除外してもらうため。」

「あっ……」

「あなたが犯人なら、事件当日の不可解な行動に説明がつくんですよ。まず、あなたは警備員さんの力を借りて扉を解錠。そして被害者を絞殺後、遺書の用意をしたんです。恐らく自殺に見せかけるというのは、その場の思い付きだったのでしょう。そこであなたはなにかネタになるようなものを探すべく、部屋をしばらく漁ったのです。そして、これを発見した、と。あなたにとってはこれ以上好都合な理由はありません。自分が知らないはずの情報を書くことによって、疑いの目を向けられないために!」


蓮はまっすぐ琴乃を見て言った。

理乃は隣で、嬉しいのか悲しいのか複雑な面持ちで見つめている。


「う……」


琴乃は美しい顔を歪ませて、唸る。どうやら図星のようだ。

すると、


「わ、私には動機がないわ!大好きなお兄ちゃんを殺す、動機が!それに、私が真犯人であることを直接示す証拠もない!どうなの、それに関しては!」


荒い口調で反論し始めた。

どうやら先ほどまでの美しくおしとやかな仮面は剥がれ落ちてしまったようだ。


今は、自分の無実の証明で一生懸命。


しかし……

「ありますよ。」

「…え?」

「ありますよ。」


蓮は余裕の笑みで、そう言った。


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