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《連載版》名探偵の友人は「迷」探偵?  作者: 吉川 由羅
第一章
7/15

被害者の母

「はあ、はあ…。なんなんですの、貴方達は。」


とりあえず女を落ち着かせることはできた。蓮は早速詳細を聞こうと意気込む。


「それよりまず、どうしてあなたは現場に侵入しようとしたのですか。それも大胆に。」

「だって…私はこの事件の関係者なのよ!」

「ええ。あなたの事は知っています。被害者のお母さまだそうですね。」

「ど、どうしてそれを…」


女の表情が僅かに怯えの色を示す。


「警備員から聞いたのです。あなたがついさっきここへ来たって。」

「…ちっ、あの出来損ない!」


今度は怒って舌打ち。

(情緒不安定だな)

蓮はなるべく女の神経を逆なでしないよう、慎重に会話を続けていく。


「お名前を、聞かせていただけないでしょうか。」

「まず貴方達から名乗りなさいよ。それが礼儀というものじゃなくって?」

「し、失礼いたしました。俺は、探偵の峰崎蓮と申します。こっちは、助手の佐伯理乃。」

「私は桐ケ谷麗華。まさか、貴方達はここを許可なく嗅ぎまわってますの?名誉目的で」

(失礼な)「い、いえ。警察の許可は取ってます。」

「でも、私は貴方達に依頼した覚えはないわ。」

「ええ。依頼の方は娘さんが…」

「はあ?」


娘、と聞いた途端、麗華の目つきが変わった。


「あのガキが!どうしてこんなアホ面探偵なんかに依頼したのよ!やはり私の予想通り、あいつの目は腐っていたんだわ!そもそも…」


豹変した麗華をただ茫然と蓮は見つめる。

理乃は隣で、あからさまに不機嫌そうな目で麗華を睨みつける。


「…!あ、あら、これは失礼。少々取り乱してしまいましたわ。」


その視線に気が付いたのか、麗華は慌てて蓮たちに笑みを浮かべる。


「琴乃が依頼していたのね。わかりましたわ。喜んで情報提供させていただきます。」

「さっきアホ面って言ったくせに。…んっ」


ボソッと呟く理乃の口を、蓮は静かに押さえる。


「では最初の質問に戻りましょう。どうしてあなたは強引に現場に入ろうとしたのですか?」

「さっきは、少し感情的になってたのよ。誉が死んだ…そう聞いて。もう夢中だった。」

「それにしては、来るのが少し遅く感じますね。事件が起きたのは2日前ですよ?」

「分かっています。私は2日前、ウルグアイに出張に行っていまして。そこで知らせを聞いて、慌ててプライベートジェットで戻ってきましたの。」

「う、うるぐあい…」


理乃は自分には届かない世界を痛感しているようだ。


「なるほど。つまり、あなたには殺害のチャンスはなかったということですね。」

「当たり前じゃない。まさか、この私を疑ってなんかいないでしょうね。」

「ええ、もちろん。」


この様子だと、嘘はついてはなさそうだ。アリバイも完璧。

蓮は麗華を犯人候補から除外した。


「あ、あの…」

すると理乃が声を上げた。

麗華は目を細めて、理乃を見る。


「まあ、誰かと思えばさっきの暴力的な子じゃない。何の用?」

「一つ質問したいのですが、良いですか。」

「ええ。構わないわ。」

「さっき蓮さんが娘と言ったとき、麗華さんあからさまに嫌な気分になっていましたが。琴乃さんとは仲がうまくいっていないのですか?」


これは流石に、と蓮は少し慌てる。

しかし麗華は意外にもすぐ答えてくれた。


「あの子はね、うちのサービス会社を継ぐ予定だったのよ。でもあの子が頑なに嫌がって。『将来が決まってるなんて嫌だ!』って言って、中学三年生の時に家を出て行ったんですの。」

「え、ということは、中三から一人暮らし?」

「そんなはずないでしょう?祖母の家に引きこもって生活していたの。」

「はあ。」


そういう事だったのか、と蓮は納得する。

しかし、そうなると一つ疑問が生まれる。


「では、誉さんの方は…」

「あの子は良いんですわ。昔から才能があるし、皆をまとめるリーダーシップもあるし。ああ、私の可愛い誉。どうしてこんなことに…」

「……」


どうやらこの母親、兄の方を極端にひいきしていたらしい。

蓮と理乃は、揃って苦笑する。


すると、

「あなた方ですか、探偵というのは。」


後ろからの声に振り向くと、そこには奇麗な身なりの女性が立っていた。薄いピンク色のカーディガンに黒いローファーを身に着け、無表情でこちらを見つめている。


「そうですけど。あなたは一体?」

「私は桜川美久利。ここ、桜川グランドタワーマンションの管理人です。以後、お見知り置きを。」


美久利は無表情のまま、深くお辞儀をした。

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