現場へ
その後、立ち話もどうかということで、5人は近くのカフェに場所を移した。
四つのコーヒー、一つのココアを注文したところで、蓮は切り出した。
「ではまず、あなたが知っている事件の事について話してください。」
「分かりました。」
琴乃は少し俯きながら、話し始めた。
「私、被害者…、誉の妹なんです。近くに住んでいることもあって、よく遊びに行ったりしていました。事件のあった日も、私はお兄ちゃんの家に遊びに行きました。4時ぐらいにマンションに行って、いつものように警備員さんにも挨拶しました。でも、その日はなんだかいつもと違って。何度チャイムを鳴らしても、返事が返ってこないんです。おかしいなと思ってドアに手をかけると、静かに開きました。そして部屋の奥を見ると…。」
そこで一瞬、琴乃は息を呑んだ。
「…見ると、天井からぶら下がった、お兄ちゃんが…。」
「!!」
蓮と理乃ははっと顔を見合わせる。賢人と流川はもう知っていたのか、真顔で聞いている。
すると理乃が、ぎこちなく賢人に話しかけた。
「け、賢人…さん。」
「ん。どうした、佐伯。」
「とすると、被害者は窒息死だったということですか?」
「ああ。死体解剖の結果、そうだと分かった。」
「ふむふむ、死因は窒息…と。」
理乃は素早くメモを取った。
「最初見たときは、自殺かと思いました。でも、お兄ちゃんが自殺する理由が思い浮かばなくて。それなのに、駆け付けた警察の方は自殺として調査を進めているんです。どうしても納得がいかなくて、今回依頼させて頂いた、というわけです。」
「なるほど、よくわかりました。辛いのに、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
琴乃は柔らかな笑みを浮かべて、私たちにお辞儀をした。
「では調査に戻るとしよう、蓮。」
「そうだな。琴乃さん、ご協力感謝します。」
蓮は軽く礼をすると、カフェを後にした。
「皆さん、お疲れ様です。」
現場に戻ると、一人の刑事が蓮たちに向かって敬礼してきた。
「大村。ご苦労。」
「賢人、知り合いなのか?」
「ああ。こちら捜査第一課の大村刑事だ。」
「大村だ。君たちの話は綾小路殿からよく聞いている。仲良くしよう。」
大村刑事はそう言って手を差し出した。そして、蓮と握手をした。
(見た目は怖そうだったけど、良い人みたいだ。)
蓮は少し安心する。
「大村。ここの調査をしたいのだが。」
「それならもう許可を取ってあります。好きなだけ調べてもらって結構です。」
「それはありがたい。」
そう言うと賢人は蓮の方を振り返った。
「私たちができるのはここまでだ。後は自分たちで調べろ。これはお前の推理の力を試しているんだからな。」
「分かった。」
そして賢人は、流川を連れて去っていった。
「さて、どうしようか。」
「どうするって、現場を調べるんじゃないですか。ほら、行きますよ。」
「ちょ、理乃、引っ張らないで…」
そして2人は現場に足を踏み入れた。
「さあ、調査しますよー!」
理乃はやる気満々だ。賢人がいなくなったことで、いつもの調子に戻ったようだ。
まっすぐに部屋の奥に駆けて行った。
一方の蓮はというと、慎重に辺りを見回して、手がかりを確実に見つける作戦に出た。
玄関ドアの前で、ひとつひとつ調べていく。
すると、
「ん?」
蓮はドアを見つめて、小さく声を上げた。
「あの、大村刑事?」
「どうした?」
「このドアって、カードキーで開くんですか?」
「ああ。」
「それについて少し教えていただけないでしょうか。」
「もちろんだ。ここはセキュリティが万全で、不審な人物を確実に入れないように作られているんだ。特にこのドアは凄い。オートロックの機能がついているんだ。しかもこのドアを壊そうものならサイレンが鳴って、警官が飛んでくる。」
「しかし、この事件が起きてしまった。」
「事件、か。」
「え?」
蓮はそこで琴乃さんの言葉を思い出した。
『警察の方は自殺として調査をすすめているんです。』
(もしや、マズイこと言ってしまったのでは?)
蓮はハラハラしながら大村刑事の様子を伺う。
すると大村刑事は、なんと歯を出して笑った。
てっきり何か反論されると思っていた蓮は、ポカンとして大村刑事を見る。
「いいんじゃないか?そういう考え方も。」
「え。で、でも警察は自殺として考えているんじゃ…」
「だからと言ってその考えを押し付けはしないよ。まあ、頑張れ。」
大村刑事は大きな手を振って去っていった。
(大村刑事、やっぱいい人!)
そしてそれに感動する蓮であった。