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1 サキュバス少女の企み

(お母さん、元気ですか? わたしはいま、この『愛の女神の島』メロー島で、夢を叶えるためのビッグチャンスを掴んでいます!)


 少女は静かな夜の海岸を歩いていた。なにか大きな、人間の死体のようなものを引きずりながら。


 彼女の名はポミエ。丸い瞳や頬にあどけなさを残す、小柄で愛らしい少女だ。年の頃は人間で言えば十五か十六といったところか。


 しかし、ポミエはいわゆる『人間』ではなかった。

 彼女は〈サキュバス〉だった。


「むっふっふ。発情期のサキュバス族の前で無防備に気絶してるのが悪いんですよ、イケメンさん♡」


 興奮した様子でささやく。それは半ば独り言だったが、半分は彼女が引きずっているものに対して向けられた言葉だった。


 そう、ポミエが運んでいたのは人間の青年だったのだ。そして彼は、気を失ってはいるがまだ生きていた。


 〈オルン〉と呼ばれる大陸の南西に位置する小さな国、ノイムーン王国。

 国土の南側沿岸は外洋に面しており、それ以外の三方はいくつかの隣国と国境を接している。


 その王国南端の港から船で二日ほど南西に進んだ外洋に、メロー島は位置している。小さな島だが、神代より一定の数の人々が住みつづけていた。


 風光明媚という以外に取り立てて魅力のない、知る人ぞ知る辺境の小島。


 そんな島にポミエがやってきたのは、この島が現在ではあまり顧みられなくなった『愛の女神』の出生地とされているからだった。


「神殿におまいりして女神様の祝福を受けるつもりだったんですけど、その必要もなくなっちゃいましたね」


 むふふ、とほくそ笑みながらつぶやく。もっとも、気絶している青年には聞こえていないだろうが。


 海岸に倒れていた青年を発見したのはつい先ほど。全身ずぶ濡れで気を失っていたが、応急処置を施すと水を吐いて息を吹きかえした。周囲に船の残骸が散らばっていたことから、嵐にあって難破した船から投げ出されたものと思われる。


 ほどよく引き締まった体つきで、背丈は小柄なポミエよりふた周り大きい程度。いまは周囲が暗いためよく見えないが、顔も彼女の好みだった。ゴツすぎず、けれども適度に男らしく、そしてなにより……。


(この人、すっごくチョロそう! そしてそして、すっごく性欲が強そう!)


「『オイラはスケベでござい!』って顔に書いてありますもんね~♪」


 失礼な感想を漏らしながら、ポミエはますます興奮し、鼻息を荒くする。


 サキュバス族でありながら奥手な性格の彼女にとって、性欲が強いことは異性に求める条件のひとつだった。


 一族の宿命として、生殖が可能な年頃になると本能的に男の精を欲してしまう。とはいえ初めてはなるべく好みの相手と経験したい。けれど、自分からがっついて一線を超えるのは恥ずかしい……。


 その点、目の前の彼なら最後の一線を簡単に踏み越えてくれる気がする。


(それに、わたしは彼の命を救った恩人! 仮に彼がわたしの誘いを断ろうとしても、強くお願いすればきっとすぐに折れてエッチしてくれるはずです。なにしろ、こっちは命の恩人なんですから!)


「こうしてはいられません! 早く宿屋に向かわなくちゃ!」


 興奮の極みに達したポミエは「えいやっ!」と男の身柄を両手で抱きあげた。


(わわっ、身体が冷たい⁉ っていうか、思ったより重いかも……)


 サキュバス族は特に力が強いわけではない。小柄なポミエにとって、ふた周りほども大きな青年の体はよほど重そうに見えた。海水を吸った服の重みもあるだろう。


「でも大丈夫、今日のわたしは勝負パンツを履いてますから!」


 本人にしかわからないことを言うと、「ふんぬーっ!」と気合を入れて青年の体を担ぎ上げた。

 そのまま意外なほど軽快に、遠くに見える港町の明かりに向かって走りはじめる。


「待っててくださいね。すぐに温めてあげますから」


 ほどなくして宿を見つけると、ポミエは中に飛び込むなり主人に言った。


「すみません。お湯とタオルと、あとヌルヌルするオイル的なやつをください!」


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