買い取り(改)
無事に冒険者として登録出来た所で、次に素材の買い取りが出来ないか尋ねてみると、受付カウンターの隣へ持って行くように指示される。
そこではスキンヘッドが良く似合う大柄の男性が出刃包丁のような大きなナイフを研いでいた。
「すみません、魔物の買い取りをお願いしたんですが…」
「おう。今なら空いているから、すぐに終わるぞ。手ぶらみたいだが…何を持って来たんだ?」
「これなんですが、買い取れますか?」
そう言って異空間収納から昨日倒したワイルドボアを半分ほど引っ張り出すと、男性は目を丸くしながら呼び止めて来た。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何だお前さん、異能持ちか。そんなデカい奴、ここで出されても困るぜ。悪いが裏にある作業場まで来てくんな」
男性がカウンターの奥にある扉を開けると、そこは広い作業小屋となっていた。
中央には大きな台が置かれ、壁にはナイフやノコギリ、他にも見た事のない道具が立て掛けられている。
残念ながら解体途中の魔物は見当たらないが、窓が解放され十分に換気された空間に血の匂いが立ち込めていた。
一体この場所で、どんな魔物が解体されてきたのか想像していると、男性から台の上に獲物を出すよう指示があった。
言われた通りワイルドボアを取り出すと男性はその大きさに、かなり驚いているようだった。
「こりゃまた・・・、随分とデカい個体だな。こんな奴、何処で狩ってきたんだ?」
「ここに来る途中、街の東にある森の中で襲われたんですよ」
「お前さん、黒タグだろ?此奴はCランクの魔物で、この辺りでは上位の強さなんだけどな。こりゃ期待出来る新人が現れたもんだぜ」
男性の名はロランさんといい、ギルドで解体を一手に引き受けている元冒険者だそうだ。
ワイルドボアの素材は捨てる部分が無いとされ牙は槍の穂先に、残りの歯は錬金術の材料に、骨は防具の素材に、毛皮は状態にもよるが防寒具や敷物になるのだという。
また、肉は旨味が強く人気があり、魔石も拳程度の大きさの物が採取出来た。
「内臓は捨てちゃうんですか?」
「あん?そんなもん、何か使い道があるのか?」
「食べたりしないんですか?ホルモン焼きとか…」
「・・・へ?内臓を、食べる?…兄ちゃん達、どんな食生活をしてきたんだよ?そんな物食べたら腹壊して死んじまうぞ」
詳しい話を聞いてみると、魔物の肉は新鮮さが第一。
仮に一日でも放置すれば瘴気と呼ばれる黒い煙を発するようになるという。
瘴気には強い毒性も含まれているそうで、絶対に口にしないよう注意される。
また、内臓に至っては厄介な寄生虫が巣くっているそうで、畑の肥料にすらならないのだとか。
知らず知らずに口にしようものなら一巻の終わりだったよ。
それにしても残念だな、ホルモン焼きといえば俺の大好物なのに、この世界では食べられないって事なのか。
「おい、兄ちゃん。悲しんでる所悪いんだが、全部こっちで買い取りしていいのかい?」
「あ、魔石だけ残してもらえますか?」
「魔石だけ持ち帰りだな。兄ちゃん、付与魔法でも使えるのか?」
「ええっと、初めて倒した魔物なので記念に取っておこうかと・・・」
「はは、魔石は冒険者にとって、強い魔物を倒した証だからな。綺麗に磨いてやるから、ちょっと待ってな」
今の会話から察するに、付与魔法には魔石が必要になるという事。
更に強い魔物から出た魔石は、ハンティングトロフィーのような記念品になるようだ。
その後もロランさんはテキパキと作業を進めていき、あれだけ大きな猪を瞬く間に解体してしまった。
「待たせたな。料金は魔石抜きで金貨1枚と銀貨5枚だ。」
「魔石も売っていたらどうなったの?」
「そうだな…。この大きさの魔石なら、銀貨5枚。合わせて金貨2枚だな。」
たまたま襲って来た猪が、金貨2枚にもなるなんて予想外の収入じゃないか。
日本円に換算すると約20万円。
元の世界の猪と比べると遥かに大きくて凶暴だけど、稼ぎとしては悪くない。
他にも良い稼ぎ場所や魔物がいないか尋ねてみると、東の森について詳しい話を聞く事が出来た。
街道から近い場所では比較的弱い魔物しか生息しておらず、冒険者になったばかりの初心者にはうってつけの場所との事だ。
その代わり森の奥に進む程、強い魔物が現れるようになるようで、ワイルドボアを倒したからと言って己の実力を過信するなと注意を受けた。
また、森の中は薬草や山菜の宝庫だそうで、知識がある者が一緒だと良い稼ぎになるという。
その後、金貨2枚と魔石を受け取り、ロランさんにお礼を告げてギルドを後にする。
早速、依頼を受けようかとも考えたが、旅はまだ始まったばかり。
今日はこの街を観光しながら日用品や服、靴、そして武器や防具を見て回る事にしよう。
楽しむのが一番の目的ではあるが、物価を把握するのは大事な事だ。
何が容易に手に入り、何が不足しているのかが判らなければ無駄な買い物をせずに済む。
道中、昼食として屋台を巡ってみると肉類を扱う店が多い事に気が付いた。
味付けは悪くないが殆どの店が味付けは塩のみ。
スパイス類も売っている所を見かけるも、種類は少なく高価だった。
一方、セティは甘い物が少ないと言ってガッカリしている様子。
クッキーやビスケットを見かけたので購入してみたが、小麦の香りは香ばしい代わりに甘みが圧倒的に不足している。
これは恐らく、砂糖が手に入り難いのか高価なのだと推察される。
中世の時代、黒コショウが金と同じ値段で取引されていたというが、こちらの世界でも似たようなものなのかもしれないな。
一日かけて物価を調べてみた結果、この世界の相場を自分達が住んでいた国の通貨に照らし合わせてみた。
異世界通貨
鉄貨:100円
銅貨:1000円
銀貨:1万円
金貨:10万円
大金貨:100万円
白金貨:1000万円
大白金貨:価値不明
殆どの買い物は鉄貨、銅貨、銀貨を使った方が良い事も判って来た。
金貨も使えなくはないが、取り出すと店主も周りにいた人達が驚いていた事から使用は控えた方が良いだろう。
変に金持ちだと思われて襲われでもしたら面倒だからね。
宿屋に戻ると夕食の時間が近いのか、食堂ではマーサさんとエトちゃんが忙しそうに歩き回っていた。
自分達もテーブルに着いて待っていると、エトちゃんが夕食を運んで来てくれる。
今夜のメニューはパンとシチュー、それからレタスに似た葉物を千切ったサラダ。
味付けは塩とオリーブオイルが掛けられていた。
食後は部屋に戻り交代で風呂に入った後、明日からの予定を2人で話し合っていく。
まず箱庭を発展させるだけでなく、生きていくうえで必要なのは「お金」。
明日は冒険者ギルドで依頼を受ける事にして、自分達の実力を調べてみるとしよう。
これが一般的なゲームの世界であれば、レベルやステータスといった数値による強さで己の強さを把握出来る。
しかし、「ステータスオープン」と叫んでみたものの結局は何も起きず、セティから失笑される始末。
恥ずかしい思いはしたが、この世界は現実って事だな、うん!