冒険者になる(改)
異世界で迎える初めての朝。
部屋の外から聴こえる女将のマーサさんの声で目を覚ます。
「朝食の支度が出来たよ、下に降りておいで。」
昨夜はゆっくりと風呂に入る事が出来た事と、柔らかいベッドで眠れたお陰で目覚めは良好。
軽く背伸びをしながら起き上がると、隣ではセティが既に身支度を済ませて待っていた。
「おはよう。早起きなんだな。」
「いつも朝から境内の掃除をしていたからね。習慣で目が覚めちゃった。」
「仕事柄、俺も朝は早い方なんだが、これからは時間を気にしなくていいんだよなぁ…」
「そうだね。これからは、好きなだけ寝坊していいんだね」
桶に入った冷たい水で顔を洗い身支度を済ませ一階へと降りていくと、食堂では既に他の泊り客が朝食を食べている所だった。
自分達も席に座ると、両手に大きなトレイを持ったマーサさんが厨房から出て来る。
「さぁ、うちの旦那が作った自慢の料理だよ。お代わりもあるから一杯食べとくれ」
運ばれてきたのは塩味の野菜スープに堅く焼き上げられた黒パン、その隣にはチーズと腸詰を炙った物と洋梨に似た果実が2切れ。
腸詰をかじってみると肉の味と強い塩気があり、1本でパンが2個は食べられる程だ。
チーズはごく一般的なナチュラルチーズで癖が無く、添えてあった果実は林檎のような味だった。
食後、出された紅茶を飲み、一度部屋に戻ろうとしているとマーサさんに呼び止められる。
「今日はギルドに行くって言ってたね。でも街を出る訳じゃ無いんだろう?今夜の宿はどうするんだい?」
「そうですね、またお願い出来ますか?」
「あいよ!それじゃ今日は天気が良いから布団を干しておくからね」
部屋に戻り、昨夜購入した布団やベッドマットなどを異空間収納に放り込み、荷物が残っていない事を確認する。
チェックアウトしてマーサさんに教わった通りに十字路へ向かうと、一見すると酒場のような大きな建物を発見する。
入り口の上に立て掛けられてあった大きな看板には「冒険者ギルド」と書かれてあったが、見た事のない文字だった。
「あの文字、日本語でも英語でも無いみたいだが何で読めるんだ?」
「だって、私とカルには異世界言語の翻訳スキルがあるから読めるに決まってるじゃない。」
「そんなのいつ貰った?」
「絶対に必要になるものだから、お母様もわざわざ言わなかったんじゃないかな。」
確かに異世界に来て言語の勉強をする羽目になったら、覚えるのに一体何ヵ月かかる事やら。
無条件にそんな便利な技能を付与してくれるなんて、ありがたい話だ。
心の中でナギに感謝を伝え、早速ギルドの扉を開け中に入ってみる。
建物は木造2階建て。
1階の右奥には長いカウンターがあり、反対側には壁の棚に酒瓶が沢山並べられたバーカウンターがあった。
中央には丸いテーブルがいくつも並べられ、食事をしている者がいる事から、どうやら酒場と食堂を兼ねているらしい。
2階にはいくつか部屋の扉が見えるが誰も行き交っていない為、恐らく職員専用の事務所か何かになっているのだろう。
また、入ってすぐ右の壁に大きな掲示板が掛かっており、そこには沢山の羊皮紙が張り付けられていた。
掲示板の前には冒険者達が並び、羊皮紙を剥がしては受付カウンターの所へ移動している。
つまり、この羊皮紙は冒険者ギルドに持ち込まれた依頼書という訳だ。
早速、自分達も何か依頼を受けてみたい所ではあるが、まずは登録を済ませる事にしよう。
カウンター前の列に並んで待っていると、ようやく自分達の番がやって来る。
「冒険者ギルドへ、ようこそ。初めての方ですね。」
「登録と、ギルドの説明をお願い出来ますか?」
「畏まりました。私は受付のラピリスと申します。ですがその前に確認したいのですが…」
ラピリスさんはセティの方を見て、冒険者になるには12歳以上で無いと登録する事が出来ないと困惑した様子。
しかしセティは今年12歳になったから大丈夫だと答えると、それなら問題はないと言って来た。
小柄な事もあって、俺も10歳程度だと思っていたくらいだ。
「それではまず、冒険者のランクについて説明させて頂きますね。」
G・Fランク(黒色)・・・駆け出し、主に雑用など(一か月)
E・Dランク(青色)・・・薬草採取や低ランクの魔物討伐(一か月)
C ランク (銅色)・・・一人前の証、中ランクの魔物討伐(三か月)
B ランク (銀色)・・・熟練冒険者、護衛や高ランクの魔物討伐(半年)
A ランク (金色)・・・多大なる功績を残した、英雄と呼ばれる者達(1年)
S ランク (白金)・・・英雄を超えた存在(期限無し)
1)依頼の達成率と、内容を審査
2)魔物討伐の実績
以上の条件を一定数認められた場合、ギルドが昇格を決定する。
「ランクの説明は以上です。それではこちらの羊皮紙に、職業、武器、得意な魔法などを記入し、終わったらこちらのカードに針で血を一滴垂らして下さい。」
冒険者カードは身分証の代わりとなり、他国への入国及び街に入る際に提示すると手数料や入国費が無料となる。
また、新規の登録者は全てGランクから開始。
依頼は1つ上のランクまで受注する事が可能である。
依頼に失敗・放棄した場合は、ランクの見直し又は違約金等が発生する。
また、依頼中の怪我や死亡、犯罪行為について当ギルドは一切の責任を持たないものとする。
ランクごとに依頼を終えた日より一定の期間内に次の依頼を受けなければ、自動的にギルド登録が抹消されるものとする。
再登録する場合は罰則として、ランクダウンと別途料金が発生する。
注意事項。
殺人や強盗などをおかした者はギルドカードの抹消及び、各国への入国が出来なくなる。
また、様々な機関から犯罪者として指名手配され捕縛された場合は処刑、又は重労働に処す。
以上となる。
つまり、当たり前の事だけど全ての行動は自己責任という訳だ。
当然の事ながら冒険者の為の労災保険なんてあるはずも無く、会社が護ってくれる事も無い。
手続きと説明が終わると、黒色のギルドタグが下げられたネックレスを差し出して来た。
このギルドタグはランクの色を表しており、入国する際と相手がこちらの実力を確認する為に、必ず首に下げておく必要があるという。
尚、登録料として二人分で銀貨二枚を支払った。
名前:カル
ランク;G・黒色
職業:剣士
武器:刀
名前:セティ
ランク:G・黒色
職業:魔法使い
得意魔法:風・火
名前:風詩
ランク:万年G・黒色
職業:気まぐれ小説家
得意魔法:誤字・脱字
特殊技能:絶望的な語彙力の無さ
武器:パソコン・スマホ
趣味:酒!!
なんちゃって(/ω\)