それぞれの道
※四天魔王・アザゼル視点
これは・・・、どういう状況なのだ?
あの女のお陰で危機を脱したようだが、どうにも様子がおかしい。
急に目を覚ましたかと思えば発せられる気配が、まるで別人のように穏やかになっている。
その代わりように戸惑っていると、女は我々の事を不思議そうに見ていた。
「・・・誰だ?」
「ええっと、四天魔王の一人で、確かアザゼルさん・・・だったかな」
「四天魔王・・・?ああ、前にエヴァさんを寄こして来た魔族の王様だったか。俺に用か?」
「ちょ、ちょっと、そんな言い方失礼だよ。この人達が協力してくれたから、無事に煉獄まで来る事が出来たんだから」
「そうだったのか。それなら礼を言わなきゃいけないな。俺を含めこの子達が世話になった、感謝するよ」
「良く分からんが・・・貴殿はカル殿で間違いないのだな?」
「中身はな。身体の持ち主がどうなったか、返事が無いから俺にも良く分からん」
どのような方法を用いたかは分からぬが、あの女の身体を奪った・・・という所か。
直接会ったのは初めてだが、オーレン王とは比べ物にならない力強い気配を放っている。
あの疫病神と同格?
いや・・・下手をすれば、それ以上に厄介な存在になるやもしれん。
四天魔王は冷や汗をかきながら、カルの前に跪いた。
「我が名はアザゼル、後ろにいるのは同じく四天魔王フォカロル、ファフニール、ラクシャサと申します。この度は無事に復活された事をお祝い申し上げ・・・」
「あー、そういうの間に合ってるから良いよ。それより、そろそろ元の世界に帰ろう。いい加減着替えたいし、風呂も入りたいし、腹も減ってるし、酒も浴びる程飲みたい気分なんだ…」
「で、では、我らの城で宴を・・・!」
「必要無いよ。俺の帰りたい場所は1つしかないんでね」
そう答えるとカル殿は仲間を連れ、煉獄の門を潜っていった。
我々はその姿を、ただただ見送る事しか出来なかった。
「・・・行ってしまったな。フフ、我々など眼中に無いという事か」
「ハァハァ・・・。な、何なんだよ、あの人間は!?聞いてた話と違い過ぎるだろ!!」
「あれが噂に名高いカル殿なのね…。フフ、まだ身体の疼きが止まらないわ」
「あんな奴の機嫌を損ねたら魔界は終わりだな」
「あ、案ずるな。我らは盟約を結んだ仲。それに義兄弟であるオーレン王が健在である限り、あの者が我らに弓を引く事は無い・・・はずだ」
「だと良いがな…」
「・・・戻るぞ。これ以上、ここにいる理由は無い」
先程、カル殿が放った攻撃によって、煉獄の怪物共は壊滅状態。
生き残った者達は我先へと逃げ出したようだ。
これなら危険は無いと判断し魔界へ戻ると、不可解な出来事が起こった。
魔術が得意なラクシャサの見積もりによると儀式には最低でも2日掛かるはずの結界が、我々が戻った瞬間に修復されてしまったのだ。
理由は分からずじまいだが、これで煉獄の怪物が魔界に侵入して来る心配は無いだろう。
何はともあれ誰一人として欠ける事無く無事に戻れた事に安堵していると、オーレン王が地上へ戻る旨を伝えて来た。
どうやらカル殿が地上に戻ると言って聞かないらしい。
機嫌を損ねる訳にもいかず黙って見送る事しか出来なかったが、落ち着いた頃にもう一度、正式な使者を送る事にしよう。
※セティ視点
煉獄から魔界へ、そして地上世界に戻って来た私達は魔王オベニスクに詳細を伝えた後、転移魔法を使ってエッジバラム王国へと帰って来た。
オーレン王の帰還に臣下達が喜ぶ一方、何故かカルはローブを羽織って素性を隠したまま客間へと逃げ込み、箱庭の扉を設置すると中に引き籠ってしまった。
どうやら女性の身体になってしまった事が相当ショックだった様子で、いくら呼び掛けても部屋から出てこようとはしなかった。
仕方なく薬神様に相談してみると、これは一時的なものだそうで一ヶ月もすれば元のカルの姿に戻るとの事だった。
尚、ウルの身体にカルの魂が定着した事で奇妙な特性を持つ事になったという。
通常はこれまでと同じカルのままだが魔法を多用するとウルの姿、つまり女性へと変化していくのだという。
完全に女性化してしまった場合は元に戻るのに一ヶ月はかかるそうなので、それが嫌なら注意するようにとの事だ。
また、念願だった能力を手にした事にカルは大喜びしていたよ。
「それじゃ、俺は魔法を使えるようになったんだな!?」
「そうみたいだね」
「使い過ぎると女性の身体になっちゃうなんて、面白い身体になっちゃったね」
「つ、使い過ぎなければいいだけさ。でも魔力ってのが良く分からないんだよな…」
「前にセティお姉ちゃんと教えた時も、全然判らなかったみたいだからね」
「それなら魔神様に相談してみるのはどう?魔法の神様だから、きっと教えるのも上手いはずだよ」
「それなら善は急げだ。でもその前に薬神様に質問なんですが、ウルの魂はどうなってるんでしょうか?ずっと近くにいるという感覚はあるんですが、いくら呼び掛けても返事が無いんですよ」
「それなら心配無用です、あの者の魂は狐徹の中に宿っていますよ。今は肉体を放棄した事で力を失っていますが、時が経てば目を覚ますでしょう」
「良かった・・・。具体的には、いつ頃目を覚ますでしょうか?」
「一月もすれば会話くらいは出来るようになるはずですよ」
「そうですか…。ウルにはきちんとお礼を言いたかったので安心しました」
「私も驚きました。まさかあの者が、あのような事を計画していたとは我々でさえ気が付きませんでしたからね。余程、貴方の事を気に入っているのでしょう」
「ええ、自慢の友です」
また、カルが一日でも早く新しい身体を使い熟せるようになれば、それだけウルの回復も早まるそうだ。
それを知ったカルは俄然やる気を出していたのだが、事はそう簡単にはいかな無かった。
「あーもう!!何でそんな事も判らないのよ!それが魔力よ、まーりょーくっ!!」
「ええっと・・・、こう・・・ですか!?」
「だから、それは命気だって何度も言ってるでしょ!どうしてそれだけの魔力を持っていながら感じる事さえ出来ないのよ!?」
「そんな事言われましても・・・」
「こんなに覚えの悪い弟子は初めてだわ。…スライム以下ね(ボソッ)」
「ぐふっ・・・!」
魔法を使いたいと魔神様の住む神殿の扉を叩いたのは良いけれど、結局カルは魔法を習得する事は出来なかった。
いくら魔法の無い世界から渡って来たとはいえ、私以上の魔力を有する強靭な肉体を持ちながら、操作どころか感じる事さえ出来ないとなれば流石の魔神様でもお手上げ状態。
結局、ウルが意識を取り戻すのを待って補助してもらうしか無いだろうと匙を投げられてしまった。
挙句には「魔法の神様なのに…」などと迂闊にもカルが口を滑らせたものだから、神の怒りに触れて悲惨な目にあっていた。
それから数ヶ月、カルが元の身体に戻るのを待って各地を行脚していた。
その理由は私が元の世界に戻る日が近づいているからだ。
これまで訪れた街やダンジョン、そして各地で知り合った友人達に別れを告げていく。
その中でも初めて出来た友達のクリスは、中々泣き止んでくれず長い時間一緒に過ごす事となった。
私自身も、これで一生のお別れになるのかと思うと辛い。
するとカルが創造神様に掛け合ってくれ、いつでも連絡が取れるようにと通信用の魔道具を用意してくれた。
使用するには大量の魔力が必要になるけど、今後もクリスと話せると分かった時は本当に嬉しかった。
その一方で、ちょっとしたハプニングが起きた時は驚いたよ。
それはカルが初めて創造神様と顔を合わせた時の事。
私達はこれまで、何らかのタイミングで様々な称号がステータス画面に追加される事があった。
例えば私の場合だと使徒や九尾、冒険者・薬神の愛弟子・水の女神の愛弟子・竜使いといったもの付けられている。
これらの称号は神の加護を授かった時や、強敵を倒した際に自動的にステータス画面へと追加されるそうなんだけど、カルの場合にだけ創造神様が手を加えていた事が発覚する。
中でも「もう人じゃないよね?(笑)」という称号が、いつの間にか「祝・異世界からやって来た人外(笑)」に変更されていた時のカルの怒り具合は異常だった。
創造神様が手を加えていた事を知るや否や、いきなり胸ぐらを掴んだものだから、周りで見ていた神々の顔が蒼白になっていたからね…。
しかし、そんな無礼なカルに創造神様は誰もが予想していなかった提案を持ち掛ける。
「君、神になる気はない?」
人が神になる。
この世界では13神様を頂点とし、その下には沢山の下級神、更にその下には使徒や眷属、亜神といった者達が存在する。
いくらカルが強く特別な肉体を手に入れたといっても中身は普通の人間、しかも異世界の出身者。
それがいきなり下級神に迎えられるなんて異例中の異例。
しかし、そんな創造神様の申し出を、カルはあっさりと断ってしまった。
「断るよ」
「どうしてだい?末席とはいえ神になれば永遠の命だけでなく、それこそ君が望めば何だって叶えられるんだよ?」
「悪いけど興味無いな。俺はただ、このファンタジーな世界を楽しめればそれで満足なんだよ」
「本当にそれで良いのかい?こんな機会は二度と訪れないと思うよ?」
「欲しいモノなら十分に持ってるよ。これ以上望んだら罰が当たるってもんさ」
カルは笑いながら私やルナ、ハクロウ、アウランを見ていた。
「そうか…。流石ナギが見込んだだけの事はあるね。そんな君になら、今後も安心して箱庭を任せる事が出来るよ。これからも良き隣人として我々と付き合って欲しい」
「勿論さ。知らない間にカジノなんて建ってたから驚いたけど、他にも建てたいと思っていた施設があるんだ。まずは何から建てようか、いや、その前にまずは資金調達か?」
神という地位を断っただけでなく、更に箱庭の中を充実させようとする所は相変わらずだね。
これなら私が去った後でも和気藹々と皆と旅を続けるのだろうと思っていたが、私以外にも旅立つ者達がいた。
まず告げられたのは、ルナの独り立ち。
本来、竜人族は1000年間、一人で外の世界を旅をしなければならないという掟がある。
ルナがこれまで一緒に旅をしてこれたのは、異世界からやって来た私とカルと触れ合う事で貴重な経験を得る為だった。
しかし、私が元の世界に帰る事になった為、これを機に独り立ちさせたいのだという。
また戦神様より、ハクロウとアウランにも同様に指示が出た。
これによりハクロウは地上世界で、アウランは魔界で生きる事になり、私達のパーティは事実上の解散となった。
尚、一人残されたカルはどうするのか尋ねてみると、この世界に残るという。
主な理由は3つあるそうで、1つ目は人外となった自分が戻れば大騒ぎになると冗談交じりに言っていた。
でも実際の所、カルが本気になれば鉄筋でさえ簡単に折り曲げそうで怖いんだよね…。
2つ目の理由は、このまま旅を続けたいとの事だった。
当初からカルはファンタジー世界に憧れていたから、これには納得。
3つ目は更に高みを目指してみたいのだという。
既に煉獄の怪物を片手で握り潰せるだけの実力があるのに、これ以上強くなってどうするつもりなんだろう。
もしかすると、戦神様やウルの戦闘狂が伝染したのかもしれないね。
その後も旅は続き漁師のエミリオや人魚族のアイピ、孤児院にいたジョン、水の巫女ミューリアお姉ちゃん、エルフの王ディアーホさん、レティムトスの領主キレットさん、妖精族のライザ、ハイエルフのロゼ、天翼族のヨアキムとアルヴィ、獣人族のアレクシオス一家、火の巫覡ロードリックの元を訪れる。
あ、砂漠の国ラアスの王子サルマンにも会って来たけど、またもや無謀な投資をしたとかで現在は王宮の牢屋で情けない姿を見た時は頭が痛くなったよ。
時々、カルが様子を見ておくとは言ってるけど、もうあの馬鹿王子は放っておいても良いんじゃないかな…。
改めて各地に散らばる友人を訪ねてみて感じたのは、たった1年かそこらの旅で随分と色々な場所を巡っていた事。
暫くカルとは離ればなれになっていたから、最後にこれまで訪れた場所を皆と一緒に巡れたのは嬉しかった。
そして遂に、別れの日が訪れる。
箱庭には私達の他、ロキを除く神々までもが見送りに来てくれた。
「皆、元気でね。何かあったらすぐ連絡してよ」
私は創造神様に無理を言って、ルナにも通信用魔道具を授かる事に成功した。
1つは既に私の部屋に設置してあるから、これでいつでも連絡が取れるだろう。
ハクロウとアウランには流石に無理だったけど、カルが戦神様を介して近況を教えてくれるそうだ。
また、出発の数日前にウルが意識を取り戻した事もあり、直接お礼とお別れを告げる事が出来た。
「セティよ、其方との旅は悪くなかった。向こうでもしっかりやるのだぞ」
「沢山、面白いお話を用意しておくからね!セティお姉ちゃんも、そっちの様子を聞かせてね!」
「ガウッ」×2
「ハクロウとアウランも、元気でって言ってるよ」
「短い間だったけど、本当に楽しかったよ!私、皆と出会えて嬉しかった!」
「ああ、俺もだよ」
「私もセティお姉ちゃんと一緒に旅が出来て楽しかったよ!」
「ガウガウッ!」×2
「さよならを言う必要無いね。皆、またねー!」
こうして私は元の世界へと帰って来た。
久し振りに帰って来た我が家は変わっておらず、玄関の入り口にはお母様が立っていた。
「セティ・・・、よく無事で戻ったのう。おぉ、こんなに大きくなって・・・」
「お母様、ただいま戻りました。時間は掛かりましたが、皆のお陰で九尾になる事が出来ました。これからは・・・わっ!」
「親子で堅苦しい挨拶など不要じゃ。今はただ、こうやって其方を抱きしめさせておくれ」
「・・・うん!」
私の旅は幕を閉じた。
これから私は学校へ通い、いつの日かお母様の跡を継げるような立派な天狐になる為に頑張っていこう。
本当の修行は始まったばかりかもしれないけれど、必ず乗り越えてみせる。
だって私には、応援してくれる仲間がいるからね。
※カル視点
セティを見送った後、同様にルナとハクロウ、アウランを見送った。
これまで当然のようにいた仲間達がいなくなり、何だか心に穴が開いたような気さえする。
「行ってしまったな…」
「騒がしい者達ばかりだったが、いなくなれば案外寂しいものだのう」
「お前がそんな言葉を口にする日が来るなんて意外だったな。出会った頃と比べると、随分と丸くなったじゃないか」
「ほざくな、我とて人並みの感情くらい持ち合わせておるわ。それで、いつ出発する気なのだ?」
「・・・何の話だ?」
「我に隠し立ては通じぬぞ」
「全てお見通しって訳か」
「奴には煮え湯を飲まされたからのう。直接やり返してやらねば気が済まぬわ」
「同感だな。彼奴はセティを苦しめた。例え地の果てだろうが必ず追い詰めて、この世から消し去ってやる!」
「クククッ・・・。やはり我の見立ては正しかったようだのう。これからも共に闘争を楽しもうではないか」
「ああ。頼りにしてるよ、相棒」
「うむ。宜しく頼むぞ、相棒」
セティを苦しめた元凶、それは俺達とは異なる世界からやって来たという偽神アルゴーン。
凶悪な魔人族と人造兵を操り、各地で暗躍を続ける忌まわしき存在。
長きに渡る両者の戦いは、まだ始まったばかりであった。
Thanks for reading of this
FoxBox異世界放浪記
第一章 完
To Be Continued
FoxBox異世界放浪記、セティとカルの旅はこれにて終了となります。
ここまで3年と3ヶ月。
書き始めた頃は何度も手直する連続で苦労しましたが、最後まで書き切る事が出来たのは皆様のお陰でございます。
本当にありがとうございました。
さて、続編に関してですが、暫く休養してから書いていきたいと考えております。
この作品も最初から手直しする予定ですので、お時間を頂きたいと思います。
また読んで頂けるよう、頑張って書くどー!(*´ω`*)ノシノシ




