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FoxBoxで異世界放浪記  作者: 風詩
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学園祭

翌日、ノックの音で目を覚まし身支度を済ませ、デニス達と一緒に朝食を食べ学園祭が始まるまで部屋でのんびりと過ごしていく。

時間になった所で屋敷の外に出ると、てっきり貴族らしく馬車で移動するものと思っていたら他の来客の邪魔になるからと徒歩で向かう事になった。

学園まではさほど遠くは無いようで、屋敷から15分程歩いた場所に歴史を感じる古めかしい建物が見えてくる。

門の上には「学園祭にようこそ」と手作り感満載の看板が大きく立て掛けられており、中を見ると校舎まで続く道に沢山の屋台が並んでいる。

何だか大学時代にサークルの友人と、タコ焼き屋を開いた思い出が蘇る。

屋台を見ながら校舎の中に入り中庭に出ると、フランさんが周囲を見渡していた。


「確かこの辺りで、アンナのクラスが店を開いているはずなのですが…。」


「母上、あれではないでしょうか?」


ハンスが指を差した先には看板に「串焼き」と書かれた屋台があり、その後ろではエプロン姿のアンナや他の生徒達が忙しそうに働いていた。

セティとクリスが屋台に近づいていくと、向こうもこちらに気が付いたようだ。


「いらっしゃい。来てくれたのね。」


「その恰好、よく似合ってるよ。」


「お姉様、とっても可愛い!」


「ふふ、二人共ありがとう。」


私立系の学生服にエプロン、頭には三角頭巾を被っていて可愛いらしい姿だ。

全員で串肉を一本ずつ注文して店を後にする。

クリスはもっと姉の傍にいたかったようだが、店の前に居続けては邪魔になってしまう。

するとここで、デニスとフランさんは別行動を取ると言って来た。

きっと二人で昔を懐かしんで学園を歩いてみたいのだろう。

俺達はハンスの勧めで講堂のような建物に入っていく。

中はオーディトリアムのような造りになっていて学生達による歌や演奏が披露されていた。


暫く音楽を楽しんだ後、今度は隣にある運動場へ移動する。

そこでは生徒達による剣舞が披露されており、8人の男子学生の一糸乱れぬ舞を沢山の観客が見ていた。

すると、ハンスも学生時代に全く同じ事をしたそうで、練習中に何度も怪我をしたと笑っていた。

また、隣ではより実践的な演武を披露しているようで、刃引きをした剣を使って仕合さながらの本格的な打ち合いをしている。

その学生達を随分と真剣な眼差しで見つめている厳つい観客が多くて気になっていると、あれはこの国の貴族や王国騎士の指揮官が見に来ているそうだ。

将来、貴族の私兵や王国騎士団に勧誘する為に、優秀な学生を今の内に見定めに来ているそうだ。

だから学生達は少しでも良い所を見せようと躍起になっているらしい。


「って事は、ハンスも?」


「ええ。ここでの評価は学園の成績より重要視されるらしいです。」


個人的にはもう少し見ていたかったが、セティとクリスはあまり興味がないようで別の場所へ移動する事になった。

校舎に戻ろうとしていると、運動場の端の一画で何やら人だかりが出来ている場所があった。


「お兄様、あそこには何があるのでしょう?」


「ああ、この学園の名物ともいえる場所だよ。」


近くに寄ってみると人だかりの先には青くて太い金属の柱が地面に突き刺さっていた。

その前では生徒だけでなく屈強な騎士や冒険者らしき者達が剣や斧を持って列を作っている。


「あの人達、何で武器を持って並んでいるの?」


「あそこにある青い柱は純度の高いミスリルで出来ていてね、みんなあれを斬り倒す為に集まっているんだよ。」


「あれがミスリルですか?あんなに大きいですよ!?」


クリスが驚いていた理由は、目の前の柱に使われているミスリルの量だ。

ミスリルは非常に高価な金属であり、これだけの量ともなると金額は計り知れないからだ。

石柱の前には石碑があり、何やら碑文が彫られていた。

要約すると…。

大昔、この国では酷い干ばつに見舞われ農作物に大変な被害が出たという。

そんな時、旅の道中に立ち寄った一人の魔導士が恵みの雨を降らせこの国を救ったという。

国王は魔導士に感謝し望みの褒美を授けると伝えると、子供達の為に学園を作って欲しいと頼んだそうだ。

国王はその願いを叶え、王都にこの学園を作り、初代学長に魔導士を就任させる。

その後、学園からは優秀な人材を何人も輩出する事になると、魔導士は後任を残して学園を去ったという。

その際、魔導士はこのミスリルの柱を残し、いつかこれを斬れる者が国を豊かにするだろうと言い残したそうだ。

国王はその言葉を信じ「この柱を斬る事が出来た者には、望むだけの地位と名誉を授ける」と宣言したのだがそれ以来、約100年近くの間、斬る事はおろか傷を付けた者すら現れていないという。


俺の記憶が正しければミスリルは鉄や鋼をも上回る硬度を誇り、魔力の伝達を良くする魔法金属だったはず。

ゲームなどでは中盤に良く出て来る物だが、普通の武器では傷すら付けられないはず。

しかし、学園祭の際は生徒以外にも自由に挑戦出来るとあって、卒業生や腕自慢の王国騎士や冒険者がこぞって挑戦しにやってくるのだそうだ。


「当然、ハンスも挑戦した事があるんだろう?」


「この学園で多少なりとも武を志す者であれば誰でも参加しますよ。ただ私はその時にお気に入りの剣が折れてしまいましてね、父に言ったら笑われてしまいました。」


ハンスにミスリル以外にどんな鉱石があるのかと尋ねていると、校舎の方からデニスとフランさんがやって来た。


「アナタ。あれ、まだあったんですね。」


「懐かしいな。この様子では、いつ柱に傷を付けられる者が現れるのやら。」


「デニスも挑戦した事があるな?」


「当然だ。在学中に何度も挑んでは剣を駄目にして、父に家中の武器を折るつもりなのかと笑われてしまったよ。」


二人が合流した所で、まだ見て回っていない場所を巡る事になった。

途中、手作りの服や小物を販売している店を発見すると女性陣が釘付けとなってしまい、学園祭が終わるまで付き合わされることになった。

その日の夜、デニスから明日はフランさんと共に城へ赴く必要があり、ハンスも仕事で同行出来ない為、俺とセティ、クリスの3人だけで学園祭に行って欲しいと頼まれる。

翌日、支度を済ませて学園へ向かうと、昨日よりも人通りが増えているようで学園祭はより一層盛り上がりを見せていた。

今日はセティとクリスの保護者として同行するので、二人が見たいと思う場所へ後ろから付いて行く事に。

途中、綿菓子を購入したり、輪投げなどのゲームをする店に寄りながら学園祭を楽しんでいると、二人の足は手作りのアクセサリーを販売している店の前で止まった。

どうやら互いの髪に似合うものを探しているようだが、値段が気になっているのようで買い悩んでいるようだ。


「どれか気に入った物はあったか?」


「この髪飾り、セティに似合うと思いませんか?」


「クリスには、こっちのネックレスが似合うと思わない?」


「はは、それなら両方買おうか。すみません、この2つを下さい。」


「はい、ありがとうございます!お包み致しましょうか?」


「このままで大丈夫です。ほら、早速付けてみたらどうだ?」


「カルさん、ありがとうございます!」


「カル、ありがとう。」


二人はそれぞれ選んだものを交互に付けていく。

セティは普段から、アクセサリーの類を付ける事は無かったので凄く新鮮に感じるな。

次に向かったのは手芸部と書かれた教室を服屋に仕立てた店だった。

入り口に飾られているドレスを見ると細部までしっかりと作り込まれているようで、クリスからプロが作った物と遜色ない出来栄えだと褒めちぎっていた。

二人がドレスに見惚れていると、教室の中から2人の女生徒が出て来たので声をかけていく。


「子供用の服はあるかな?この子達に似合うものを探しているんだ。」


「もちろんありますよ。どんな服にしましょう?」


「そうだな…。うん、君達に任せるからいくつか選んでもらえるかな?」


「そういう事でしたら、お任せ下さい!」


2人の女生徒はノリノリでセティとクリスを試着室へと連れていったのだが、これがちょっとした騒ぎになってしまう。

どちらも容姿が可愛いという理由から、これも似合う、あれも似合うと話し合っていると、この店にいた他の女生徒や客が何事かと集まってしまった。

そして店頭に並んでいた服だけではなく、倉庫から子供服を引っ張り出してきては片っ端から試着させ始めてしまったのだ。

その結果、セティとクリスは完全にモデルさん状態となってしまい、遂にはファッションショーのようなものまで開催される事となってしまった。

教室の端で二人の姿を眺めていると、騒ぎを聞きつけたアンナまでもがやって来た。


「カルさん、どうしてあの子達がモデルをしているんですか?」


「服を買いにきただけなんだが、ノリでこうなっちゃったんだ。」


二人のファッションショーは大いに盛り上がり、この場にデニスとフランさんがいない事が悔やまれる。

ショーは暫く続き、アンナも俺も二人の可愛い姿に大興奮してしまった。

ようやくショーが終わりを迎えると、二人の姿はまるで負け戦から帰って来た兵士のような悲壮感が漂ってきていた。


「お、お疲れ・・・様?」


「もう、帰りたいよ…。」


「こ、これ以上は足が動きません…。」


満身創痍の二人を椅子に座らせジュースを飲ませていると、最初に話しかけた女生徒達がやってきた。


「二人を連れて来て下さって、本当にありがとうございました。私達にとっては、これが最後の学園祭だったんです。こんなに楽しい思い出が作れるなんて思ってもいませんでしたよ。」


「そうか、お互い楽しめたのなら良かったよ。」


「是非、何かお礼をしたいので、お好きな服を二人に差し上げます。」


そんな訳で、セティとクリスが特に気に入った服を選ぶと丁寧に包んでくれたのだが、いくらお礼と言われても手間と材料費を考えると、やはり代金は支払うべきだろう。

服を手渡された時に、こっそり金貨6枚が入った袋を手渡すと涙を浮かべながら嬉しそうに受け取ってくれた。


学園祭

学生たちの、手作り感満載のお祭りがいいですよね。

異世界ではどんな食べ物屋があるのか

想像すると面白いです(∩´∀`)∩

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