合技
29階層に降り立つと、そこはまるで某国のグランドキャニオンに良く似た巨大な渓谷の上だった。
強い日差しに加え、強い風が吹きつけて来る。
この階層は俺の大好きなあの魔物が現れる場所。
ソワソワしながら周囲を探していると、何処からともなく「ヒョロロロロ・・・」という鳥の鳴き声にも似た音が聞こえて来た。
咄嗟に上空を見上げると、雄大な翼を広げた巨鳥が姿を現した。
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
歓喜の声に、後ろにいたアマラが驚いていた。
おっと、いけない。
あの勇壮なる姿を見て、ついつい興奮を抑える事が出来なかったよ。
それにしても・・・。
「やっぱ格好良いな…」
「そ、そういえば、お兄さんはグリフォンが好きって言ってたね。何か思い入れでもあるの?」
「良くぞ聞いてくれた!実は俺が初めて手に取った読んだファンタジー小説に出て来たラスボスがグリフォンだったんだ。そいつは・・・」
「それくらいにしておけ」
アマラにグリフォンの素晴らしさを教えようとしていると、狐徹からウルが実体となって姿を現した。
「アマラよ、此奴の与太話に付き合えば時間がいくらあっても足りんとセティが頭を悩ませておったぞ。それに聞いた所で我らには到底理解出来ぬ事ばかりだからのう、無闇に聞かぬ方が身の為というものぞ」
「そ、そうなの?なら注意しとくよ・・・」
「それとセティからの頼みでな、もしもグリフォンと戦う事になったら、即座に消し飛ばしてくれと頼まれておるのだ」
「な、何だと!?いつの間にそんな事を!!」
「普通なら、そんな頼みなど一蹴する所だが今回ばかりは別よ。お主の事は気に入っておるが、これに関してはセティと同感だからのう!」
ウルはグリフォンに向け、右手で軽くフィンガースナップを鳴らした。
すると快晴だった大空が一瞬で暗くなり、雷鳴と共に黒い雷が落ちて来た。
眩しい閃光と轟音が鳴り響くと、上空から変わり果てた姿のグリフォンが目の前に落ちて来る。
しかも完全に炭化してしまったようで、粉々に砕け散ってしまった。
「あ、あああああ!!俺のグリフォンちゃんがぁぁぁ!!」
「わははは!では、さらばだ!」
「ちょ、待てや!」
咄嗟に首根っこを掴もうとしたが、ウルは黒い煙となって狐徹の中へ吸収されていった。
・・・逃げやがった。
いくら自由に実体化出来るようになったからといって、こんな暴挙は許されていい訳が無い。
この件が終わったら、彼奴とはじっくりと話合う必要がありそうだな。
腹立たしく刀身を睨んでいると、アマラがどうしたらいいか分からずオロオロしていた。
「はぁ…。先、進もうか…」
「そ、そうだね。次が最後の階層だから、気を緩めずに行こうよ」
ドロップ品を拾い集めた後、アウランに頼んで地面に描かれていた魔法陣に魔力を流してもらうと再び景色が一変する。
地面には使い込まれた剣や槍が突き刺さり、騎士や傭兵達の死体がそこら中に打ち捨てられていた。
夕暮れ時なのか空は赤黒く染まり、何かの肉の焦げた匂いが周囲から漂ってきている。
そして今も何処かで戦いが繰り広げられているのか、遠くの方から剣戟の音が聴こえてきていた。
30階層は戦場のど真ん中。
ここで初めてウルと遭遇し、初めての敗北を思い知らされた場所だ。
そんな苦い思い出が蘇っていると、後方から何かが飛んで来るのを感じ取った。
咄嗟に避けると地面にボウガンの矢が刺さった。
周囲を警戒すると、死体の山からゆっくりと姿を現したのは戦士や弓兵達だった。
彼らの目には生気が宿っておらず、武器を手に取るとフラフラとこちらに近づいて来た。
さっさと終わらせようと刀を抜くと、アマラとアウランも臨戦態勢に入った。
「ボクも手伝うよ」
「ガウガウッ!」
「よし。二人とも、油断するなよ」
手分けして近づいて来る者達を片っ端から倒していった。
雑魚を粗方倒し終わると地面に落ちていた武器や鎧が一ヵ所に集まり、その中から白と黒の鎧を着た二人の騎士が現れた。
「ボスのお出ましだ」
「ねぇ、お兄さん。折角だから連携技で倒してみない?」
「面白そうだな。やってみるか」
同じ属性の技を同時に放てば、その威力は格段に上昇する。
アマラの提案に乗り互いの武器を交差させると狐徹からは黒い雷、聖雷の剣からは光り輝く雷が迸る。
2つの雷は互いを食らいながら、これまで見た事の無い威力へと成長していった。
―合技・雷帝城―
剣を降ろすと黒と白の雷が二体の騎士に襲い掛かり、一帯を吹き飛ばしていく。
ようやく土煙が収まると2体の騎士は影も形も無くなっていた。
「はぁはぁ・・・。凄い威力になっちゃったね」
「少し、やり過ぎたな」
2体の騎士がいた場所には深い窪地が出来ており、合技の威力を物語っていた。
だが、これで終わりではない。
周囲の気配を探ってみると、戦場の奥から黒い馬に乗った一人の騎士がやって来た。
前回は騎士王ザッケンとかいう架空の物語に出て来る主人公が現れたが、少し様子がおかしい。
騎士王は大盾に大剣を装備していたが、今回はハルバードを携えた槍騎兵だった。
「階層ボスが変化するなんて良くある事のか?」
「う、うーん…。ノエルなら何か知ってるかもしれないけど…」
てっきり同じボスが出るものだと思い込んでいただけに二人で頭を悩ませていると突然、狐徹からウルが現れた。
「階層ボスが変わるというのは、決して無い訳ではないぞ」
「そうなのか?」
「ダンジョン核が意志を持っている事は知っていよう。大方、お主らがこの階層のボスを倒した事を覚えていたのであろう」
「そんな事で、わざわざ違う奴を寄こしたってのか。それなら、前の奴より強いって事か」
「いいや。必ずしも、そうとは限らん」
ウルによれば、強さは恐らく騎士王と大差無いとの事。
仮に強力なボスを生み出すつもりがあれば、先に階層そのものを広げる事に注力するだろうとの事だった。
そのような優先順位があったのかと感心していると、中には常識の通じないダンジョン核も存在するのだという。
いつの日か、セティが独り立ちした際は各地のダンジョンを巡ってみるのも面白いかもしれないな。




