ビフレストの街(改)
街の入り口に到着すると、沢山の人々が列を作っていた。
旅人風の者から商人、農民、そして武具を装備した冒険者など様々だ。
すぐ街の中に入れない理由はすぐに分かった。
どうやら街の中に入る為には門を守る兵士に何かを提示する必要があるようだ。
当然、俺達は身分を証明する物を持ってはいない。
だが、ここに突っ立っていた所で始まらない。
無いなら無いで、発行してくれる場所を聞けばいい。
列に並び自分達の番を待っていると、兵士から身分証の提示を求められた。
「ええっと、身分証の持ち合わせがないんですが、手に入れるにはどうしたらいいですか?」
「身分証が無い?もしかして開拓民か?」
「え、ええ」
「出来たばかりの居留地では、そんなもの発行されてないからな。それじゃこの石に一人ずつ手をかざしてくれ。一応、犯罪歴が無いか確認しないと街には入れない決まりなんだよ」
指示に従い交代で石の前で手をかざしてみると、白かった石が急に青く輝いた。
「青色だな、犯罪歴は無いようだ」
「悪い事をしたら違う色になるの?」
「ああ、そうだよ。これは光の神を崇拝する教会が作った魔道具の一種でね、罪の無い人を殺していた場合は赤色に、窃盗や強盗は黄色、複数の犯罪を犯すような凶悪犯であれば紫色に光るんだ」
「凄い魔道具があるんですね」
「何でも神聖魔法・看破の魔法が付与されているって話だ。これがあるお陰で相手が犯罪者かどうか瞬時に見破ってくれるんだからな。本当にありがたいよ」
犯罪歴が無い事が証明された事で問題無く街に入れる事になったのはいいが、すぐさま兵士に呼び止められる。
「おっと、すまないが通行料は払ってもらうよ。二人で銅貨4枚だ。」
「街に入るだけなのに、お金がいるの?」
「ははは、当然だよ。もし街に長く滞在するつもりなら身分証はあった方がいいぞ。手っ取り早いのは何処かのギルドに所属する事だね」
「助言に感謝するよ」
銅貨4枚を支払い街の中へ入ると、想像していた以上に綺麗な街並みが見えて来る。
この街の名はビフレスト。
整備された石畳の街路が何処までも続き、ゴミも落ちておらず清潔感に溢れている。
街の建物は石やレンガ、木で作られており、白い漆喰で塗り固められた壁は旅行雑誌で見かけた異国の古い街並みのようだった。
だがそれより目を引いたのは行き交う人々の姿だ。
あっちのベンチに座っている長い耳を持つ金髪美人はエルフか。
あの小さくて立派な髭を生やしたおっさんはドワーフじゃないか?
他にも獣人や異様に小さい老人までいる。
自分達だけが浮いていない事に安心していると、セティがジャケットの裾を引っ張って来た。
「カル、あまりジロジロ見てたら怪しまれるよ」
「わ、悪い。嬉しくてついな」
「そんなに異世界が好きなの?」
「ああ、子供の頃からずっとな。架空の世界だと分かっていても、いつか来てみたいと願ってたよ」
「夢が叶って良かったね」
「セティのお陰だな。それより今夜の寝床を探しておこうか」
まだ試してはいないが、箱庭で休む手もあるが、宿に泊まる事でこの世界の生活基準を知る事が出来る。
一応、箱庭の力で様々な物を取り寄せる事は出来るとは聞いているが、手持ちの金には限りがある。
こちらの世界にまともな物が揃っていれば、生活が安定するまで金を節約出来るはず。
まずは宿の場所を聞く為、近くで果物を売っていた露店に立ち寄った。
「お勧めの果物はありますか?」
「そうだね、今ならリーゴの実が甘くて美味しいよ」
「2個下さい。それから、この辺りでお勧めの宿屋があれば教えてくれませんか?」
「そうだな、この先の十字路の右側に「双子の緑竜」という宿屋があるから、そこにいってごらん。値段もお手頃で料理も美味しいって評判だよ」
「そうですか、ありがとう」
銅貨を1枚渡し、リーゴと呼ばれる青い林檎を受け取った。
「困った時は、住民に聞くのが一番ってな」
「カルは旅慣れてるの?」
「ああ、これまで沢山のRPGをクリアしてきたんだ。その知識があれば、異世界だろうが楽しく生きていけるさ」
「ふふ、それ期待してもいいの?」
「さぁな、少しは役に立ってくれる事を祈るよ」
そんな他愛も無い会話を楽しみながら教わった通りに進んで行くと、双子の竜が掘られた看板が立て掛けられた宿を発見する。
ドアを開けるとカラカラと鈴の音が鳴り、奥からふくよかなお姉さんが出て来た。
「いらっしゃい、旅人さんかい?」
「二人ですが、部屋は空いていますか?」
「一人部屋と二人部屋があるけど料金は同じだよ」
そうだ、部屋をどうするか考えていなかった。
セティはまだ幼いとはいえ今日出会ったばかりの女の子。
向こうだって出会ったばかりの相手と、一緒の部屋は嫌に決まっている。
出費は倍になるが、ここは別々の部屋にする方が無難だな。
「別々の部屋を…」
「待って。一人じゃ心細いから二人部屋が良い…」
「そうか…」
「はは、それじゃ鍵を取って来るわね」
そんな心細い声で頼まれたら断れないな。
宿代は一部屋・夕食・朝食付きで銀貨一枚。
彼女の名前はマーサさんといい、旦那さんと娘さんの三人でこの宿を営んでいるそうだ。
部屋にはベッドが2つ、小さなテーブルと椅子が1つ。
質素だが一息着けるには十分過ぎるだろう。