出陣
城壁の前に近づくと、街を出入りする人々で溢れていた。
人混みを掻き分け、兵士にタグを見せると無言で通してくれる。
門を潜って外に出ると街の南を眺める一人の老人が立っていた。
近寄っていくと俺達の顔を見て、少々驚いた顔をしていた。
「何じゃお主ら、儂と一緒に死ぬ気なのか?」
「折角なので、ご一緒させて下さい。」
「私達も付いて行くよ。」
「ワハハ!人手は多い方がありがたい。しかし、お主らは初めて見る顔じゃな?」
「先日、この街に来たばかりですよ。」
「随分と間の悪い時に来たものじゃな。儂はギルマスのゴンザスという者じゃ。」
「俺はカル、こっちは相棒のセティです。驚きましたよ、ギルマスが自ら危険な場所に向かおうとするなんて。」
「ワハハ!こんなやりがいのある死に場所、他に無いと思ってのう!」
この状況で笑えるなんて、この人はきっと根っからの冒険者なのだろう。
何でもギルマスはこの街の出身で、今の領主様とは幼馴染の間柄なのだという。
若い頃は、共に冒険をした仲でもあるのだが、それだけに領主が下した決定には理解も出来る為、恨まないでやって欲しいと頼まれる。
そんな話を交わしていると、街の入り口から見知った顔がやって来た。
「お前ら、俺達に黙って行くなんて水臭いじゃないか!」
アルガスとマリウスが俺の肩を叩いてくる。
レイチェルとカミラも付いて来たようで、セティを撫で回していた。
黙って来てしまったが、この4人の姿が見えた時は正直嬉しかったよ。
そんな俺達のやり取りを、ギルマスは嬉しそうに見ていた。
「ワハハ!また仲間が増えたようじゃな!」
「カル達とは、一緒に狩りをする約束をしていましたからね。予定より随分と大掛かりな狩りになりそうですけど。」
「それに、来たのは俺達だけじゃないみたいですよ?」
「なんじゃと?」
改めて街の入り口の方を見ると、武装した者達がこちらへ向かって歩いて来た。
「おーい、ギルマス!俺達も行くからなー!!」
「お主ら…」
集まった者達の話によると街に残った者、逃げ出した冒険者は一人もいなかったそうだ。
理由は皆それぞれだが、その大半がギルマスを慕っての事らしい。
若干一名、全く違う理由だったのが気になったが…。
「この戦いで活躍出来たら、俺、ララちゃんにデートを申し込むんだ!」
「お前、こんな時に何考えているんだよ…。」
「あの堅物のララちゃんが、あんたなんかに振り向くわけ無いでしょう?」
ララさんに好意を寄せるのは勝手だが、フラグを立てた奴は大概不幸な最期を迎える。
もしこの戦いで生き残った暁にはララさんに告白して見事、撃沈してくれ。
その時は一杯奢るよ。
「全く、どいつもこいつも仕方のない奴らじゃのう。」
「ゴン爺、泣いているの?」
「な、泣いてなど無いわい!というか、ゴン爺ってなんじゃい!?」
「「「ゴン爺って…ぶははは!」」」×(冒険者一同)
ギルマスはセティに名前を略された挙句、爺と付けられたことに抗議しているが既に手遅れ。
皆からゴン爺、ゴン爺と連呼されていた。
領主視点
その頃、ホルスの街の領主の屋敷では、領主と兵士長、そして二人の兵士が暗い表情で会議を行っていた。
「アーカド様、冒険者達が出陣したとの連絡が入りました。」
「そうか…。」
「やはり我々も向かうべきでは…?」
「よせ、もう決まった事だ…。」
兵達は冒険者と共に村人達の救出に向かいたかったようだが、既に命は下してしまった。
私は早急に街の守りを固めるよう細かな指示を出すと、兵士長は無言で頷き部下に指示を伝えて部屋を後にした。
私の決定は間違っていたのだろうか?
友であるゴンザスは、私の反対を押し切り死地へと赴いた。
出来る事ならここに残って共に戦って欲しかったが、奴が黙って私の命を聞かない事は分かり切っていた。
それにしても、ギルドにいた冒険者全員が出陣したと報告を受けた時には驚いた。
大多数の冒険者がよそ者である事から、命を賭ける理由など無い。
てっきり早々に逃げだすものばかりだと思っていたのだが、ゴンザスは相変わらず好かれているのだな。
何故、このような事態になってしまったのだろうな。
もっと早く魔物が集まっていると報告があれば、周辺の街に援軍を求め鎮圧する事も出来ただろう。
斥候がもっと早く戻って来ていれば、村の住民達を全て避難させる事も出来たはず。
出来る事は他にもあったかもしれないが、今回はあまりにも時間が無さ過ぎたのだ。
魔物の数が2000に対し、こちらは200。
そもそも、街を守る兵士達は魔物と戦う事には慣れていない為、正面からぶつかれば到底勝ち目は無い。
村人を見捨てる理由にはならないが、ここは安全に堅牢な城壁を使って迎え撃つ方が最善なのだ。
街の外を複雑な気持ちで眺めていると、部屋の扉が叩かれる。
こんな時に誰だ?
今は他にも考える事が山ほどあるというのに…。




