お祭り
デニス達と合流した所で、露店をいくつか巡りながら食べ歩きをしていると、縁日でよく見かけるものを発見する。
様々な景品が台に乗せられ吹き矢で落とせば獲得出来るという遊びだが、流石は異世界、吹き矢の先端は本物の鏃を使用していた。
セティとクリスが挑戦してみるが、二人の肺活量では中々景品を倒す事は出来ないようで、それを見たデニスも良い所を見せようと頑張り、小さい景品を2つ落としていた。
その一方、フランさんはというと店主から・・・。
「お、お姉さん、そろそろ勘弁して頂けませんかね…」
と、泣きつかれていた。
ああ、フランさんの横に積まれた山のような景品の数はそういう事か。
それじゃ、俺も良い所を見せようと吹き矢に手を伸ばそうとしていると、デニスから「お前は止めておけ。これ以上は店が可哀相だ」と止められてしまう。
次は先程と似たようなもので、玉入れ遊びの店だ。
店の奥にカエルの石像が設置してあり、口が少しだけ開いている。
その口の中に丸い石ころを入れる事が出来たら、数に応じて景品が貰えるというものだ。
一回につき使える石ころは10個まで、クリスは悪戦苦闘しながら1個入れる事が出来た。
次に挑戦したセティは、2個、デニスはかなり健闘して5個の石を入れていたよ。
フランさんは惜しくも9個という結果を出していたのに悔しそうにしている。
それじゃ次は俺の番、という事で石を貰おうとしたらクリスから一言。
「カルさんがやったら、石像が壊れちゃいます」と言われ止められてしまったのだが、この家族は俺の事を何だと思っているんだろう?
「ねぇ、あれがサーカスの会場じゃない?」
セティが指を差した先には巨大なテントが張られており、入り口では沢山の人々が列を成していた。
受付で入場料を払いテントの中に入ると、中心を丸く囲うように椅子が並べられ前から2列目の席に座る事が出来た。
クリスもサーカスを見るのは初めてだそうで、セティと一緒にいつ始まるのかとワクワクしている様子。
デニスとフランさんは、王都で見た事があるそうだが、所属の違うサーカス団だと言っていた。
暫くするとテントの中が暗くなり中心部に照明が照らされると、いよいよショーの始まりだ。
まず初めに道化師達が曲芸を披露しながら登場する。
時折わざと失敗をしながら観客の笑いを誘い、それぞれが手品や軽技を披露するなどして会場を大いに盛り上げていく。
2つ目の演目は、調教された中型の魔物に曲芸をさせるものだった。
大きな熊がシーソーに乗ったり、狼が火の輪を潜るなどしていた。
3つ目の演目は、難易度の高い曲芸が始まる。
美男美女が綱渡りや空中ブランコなど、演者は観客が一瞬目を覆いたくなる程の危険な技を次々に披露していく。
最後はマジックショーが行われ、中には魔法を使ったものもあり、ナイフを複数浮かせて的確に的に当ててみたり、アルコールを含んでも無いのに口から火を吐き出してみたり、動物を象った火や水の魔物が宙に現れるなど、観客を大いに楽しませてくれた。
全ての演目が終わった後、ピエロや演者達に見送られながら会場を後にしたが、セティとクリスはまだ興奮している様子で楽しそうに話をしている。
デニスはというと、何かの祭りの際にビフレストの街にサーカス団を呼んでみるか、などと言っていた。
辺りがすっかり暗くなり露店も店仕舞いをする頃、デニス達を送り届ける時間になった。
「今日は誘ってくれて感謝するよ。久しぶりに息抜きが出来た」
「楽しんでくれたのなら良かったよ」
「二人はこれから、アハジアのダンジョンに挑むんですよね?帰ったら話を聞かせて下さいね」
「セティ、無理はしないでね」
「大丈夫、頼りになる仲間が一杯いるからね」
デニス達を送り届けた後、アハジアの街へ戻ると露店は全て閉店しており、街路は静けさに包まれていた。
明日から再び冒険の旅が始まる事になるが、セティのお陰で楽しい時間を過ごす事が出来て良かった。
翌日、冒険者ギルドへ訪れる。
宿屋の主人・ローレンスさんにダンジョンの情報を聞く事は出来たが、更に詳しい情報を仕入れるには、やはりここが一番だ。
ギルドの中には沢山の冒険者がおり、ロストークの街と同じように冒険者の数はかなり多いようだ。
早速ダンジョンの話を聞く為に受付嬢のいるカウンターへと向かうと、対応してくれたのは笑顔の可愛い赤毛で小柄なケイトさん。
「現在、分かっている事はこんな所です」
内容はローレンスさんから聞いていた情報に加え、20階層までの敵の種類を細かく教えて貰う事が出来た。
「お二人はこれからダンジョンに挑まれるおつもりですか?」
「ええ、そのつもりです」
「アハジアのダンジョンは想像以上に広いですので、食料と水は沢山持って行って下さいね」
ケイトさんにお礼を言ってダンジョンの入口へと向かうと、周りでは食料の他に馬や見た事の無い生き物を売っている店もあり、その中には馬車まで売っている店もあった。
入り口に並んでいる冒険者達を見ると、まるで長期間登山でもするかのように大量の荷物を括りつけた生き物を連れている人が殆どだ。
それに対し、俺とセティは水や食料どころか馬すら連れていない事から、他の冒険者達からは不思議そうな目で見られていたよ。
ダンジョン前の受付でも、そんな軽装で大丈夫ですか?と本気で心配されてしまったが、問題無いと答えて同意書にサインをし、いざアハジアのダンジョンへ挑んでいく。




