闇金との取引
急遽、コロシアムの近くにあるという闇金の事務所まで来る事に。
大通りからは少し離れており、ガラの悪そうな男達が
まるで値踏みするかのようにこちらを見ている。
こんな場所にセティを連れて来たくは無かったが、
一人で残す方が心配だったので仕方ない。
宿屋で聞いた場所へ行きドアを叩くと、異様な雰囲気を放つ男性が出てくる。
サルマンの事を尋ねると、「付いて来い」とだけ言われ
すんなりと建物の中に通してくれる。
てっきり「そんな奴は知らん」とでも惚けられるかと思いきや意外だった。
部屋に入ると外からは想像出来ない程の煌びやかな装飾が施されており、
一言「悪趣味」と言いたくなったが、見張りが立っていたのでやめておいた。
セティも同じことを思ったようで、口に手を当てている。
暫く待っていると、黒いサングラスと派手なスーツが
似合いそうな闇金のボスらしき男がやってくる。
「お待たせしました。私はここで金貸しを営んでおりますラシャドと申します。お二人が来るのを待っていましたよ」
「というと?」
「奴が言ったんですよ。お二人が借金の返済に手を貸してくれるはずだ、とね」
呆れて思わず溜息が出てしまう。
来るかどうかも分からない人間に期待するという事は、
それだけ切羽詰まっているという事だろう。
「彼はラアスに戻れば、返済できる当てがあると言っていましたが?」
「それには2つ問題があるのですよ。まず、ラアスに行かれますと、こことは法が違いますので取り立てする事が難しいのです。そして返済期日はとうに過ぎており、コロシアムからは次の奴隷を早く寄こすよう催促されていましてね」
まさかサルマンの奴、ラアスに戻ったら
逃げる気だったんじゃないかと疑いたくなるね。
「彼と話をさせてもらえませんか?私がラアスまで行き、代理でお金を運べるかもしれません」
「構いませんよ」
ラシャドはニヤリと笑みを浮かべ、部下に連れて来るよう指示を出す。
暫くすると、しこたま顔を殴られたサルマンが入って来た。
「カルさん、すまない…」
「ラアスに行けば返す当てがあるんだろう?今から急ぎで行ってきてやるから、誰に頼めばいいんだ?」
「それは…、言えない」
「言えないって、どういう事なの?」
「言ったら親父に殺される!それなら奴隷になる方がマシだ!!」
何でも親父さんは超怖いらしく、
ギャンブルだけでなく借金までした事が知れたら
奴隷になるより酷い事になると言って、それ以上は頑なに口を開こうとしない。
そんなやり取りを見て無駄だと悟ったのか、
ラシャドは部下に命じサルマンを再び奥の部屋に連れて行ってしまった。
「強情な人で困りますな」
「カル、もうほっといてラアスに行こう?」
確かに借金をしたのは彼だし、ほっといても良いと思えてきたよ。
「ところで、貴方はかなり強いとお見受けしますが、いかがです?」
ラシャドが急に俺の方を値踏みするかのように見て来る。
「1つだけ、彼の借金を帳消しにする方法がありますが、お聞きになりますか?」
「上手い話には裏があるのが相場だが、何が狙いだ?」
「どうしても、戦って欲しい相手がいるんですよ…」
ラシャドの話を要約すると…。
現在コロシアムには、常勝無敗の一人の剣闘士がいるのだそうだ。
ただ強いだけの剣闘士であれば問題になる事は無かったのだが、
連日の如く勝ち続けた頃は人気が高く、運営側にもメリットがあった。
しかし、次第に暴走するようになり、
剣闘士だけでは無く魔物や剣闘奴隷などを相手に凄惨な戦いをするようになり、
彼が出場すると客が引いてしまうのだそうだ。
出場を停止させればいいのでは、と尋ねると、
魔物や剣闘奴隷にはそんな権利は無いのだが、
剣闘士に限り、出場を申請したら必ず受領されるというルールがあるらしい。
その為、彼は毎日申請をしては対戦相手を殺してしまうのだという。
おかげで出場者の剣闘士は激減し、
仕方なく弱い魔物や剣闘奴隷が代わりに殺されているのだそうだ。
つまり、サルマンをこのまま放置したら、早々にその男に殺されるという訳だ。
「もし、貴方が奴に勝てば、彼は解放され、そして私も懐が温まるのです」
常勝無敗の相手と、ぽっと出の俺が戦うとなれば、
倍率は数十倍の差が出るだろう。
そこにラシャドが賭ければ大金が転がり込み、
運営側も厄介者が排除出来て大喜び。
そしてこちらはサルマンの解放という事だ。
一見良い事だらけではあるが、
これが友人を救う為であれば、2つ返事で了承したかもしれない。
しかし、サルマンとはそこまでの仲では無いのが問題だ。
良く知らない駄目男の為に、コロシアムという危険な場所へ
行く理由にはならない…。
依頼の途中でもあるうえ、ましてや、何かあればセティが路頭に迷う事になる。
しかし、ラシャドの次の一言で、その考えは一気に変わってしまう。
「もし貴方が断れば、残りの剣闘奴隷が犠牲になるだけです。それがいなくなれば、普通の奴隷を使うしかないですな」
「普通の奴隷とは?」
「あまり役に立たない普通の奴隷を出すんですよ。奴は血を見る事が出来れば落ち着きますからね」
ここではそんな非人道的な事まで平気でやっているというのか。
いくら相手が奴隷だからといっても、限度というものがあるだろうに。
「分かった。出よう」
「・・・宜しいのですか?」
「俺が剣闘士として、そいつと戦えばいいんだろう?その代わり、分かっているな?」
「もちろん分かっていますとも。奴さえいなくなれば、また剣闘士が戻りますからね」
ラシャドからは剣闘士が戻れば普通の奴隷を使う事も無くなり、
剣闘奴隷の出番も減ると言っている。
それで何かが変わる訳では無いのかもしれないが、
救える命があるというのであれば…。




