竜人の里
セティに手を貸しながら、サラザールの背に乗っていく。
全身が堅い鱗に覆われざらざらしている為、
確かに座り心地はお世辞にも良くないようだ。
そこで異空間収納から毛布を取り出し、
クッション代わりに敷いていき、セティが落ちないよう前に座らせる。
「鞍でもあれば良かったのですが、誰かを乗せる機会などありませんでしたので…」
「大丈夫だ、気にしないでくれ」
「始めはゆっくりと飛びますが、落ちないよう私の鱗に、しっかりと掴まっていて下さいね」
この始原の森の樹はかなりの高さがあるのだが、サラザールが羽ばたくと、
瞬く間に上昇し、一気に森の上へと到達する。
「わぁ、凄い景色・・・」
「では、行きますよ」
次第に地上との距離が離れていくと、冷たい空気が肌を刺す。
セティが寒さに震えていた為、予備の毛布を取り出し体に巻き付けていく。
「ありがとう。カルは平気なの?」
「ああ、これくらいなら大丈夫だな」
サラザールの飛翔速度はかなりのもので、
あっと言う間に始原の森はおろか、広大な平原や険しい山を軽々と飛び越えて行く。
飛び立ってから数時間が経った頃、目の前に一際険しい岩山のようなものが見えて来る。
「見えてきましたよ。あれがカラドニア渓谷です」
そこはまるで、大地を2つに引き裂いたかのような、
高く険しい二つの岩壁が、更に奥の高い山まで続いている。
岩壁の上には森林が広がり、間には大きな川が流れており、
人を寄せ付けない秘境のような場所だった。
「凄い景色だね」
「まるで未開の地に来たみたいだな」
「ここは地形のせいもあり、我々以外立ち入る事が難しい場所ですからね。目の前にある山の麓に、竜族の集落があります」
岩壁に沿って飛行し、山の近くまで行くと、地上の開けた場所に集落が見える。
サラザールは、その集落の外にある広場に降り立った。
着地には気を使ってくれたようで、衝撃を感じる事は殆ど無かった。
「着きましたよ。ここが我等竜人族の住まうカイリンの村です」
半日ぶりの地表に足を付け、ぐぐっと背伸びをし周りを見渡すと、
武器を持った竜人達が、こちらへとやって来る。
「戻ったか、サラザール。こちらが例の客人か?」
「その通りだ。全員武器を下ろせ、客人に失礼だろう」
サラザールの一言で、全員が武器を下ろし警戒を解いてくれる。
いくら最長老が客人として呼んだからといって、
交流の無い他種族の者が来たのだから、警戒するのは当然だ。
「カル殿、セティ殿、村の者達が失礼を致しました。もし、お疲れで無いのであれば、このまま最長老様にお会いになって頂いても宜しいでしょうか?」
「セティは大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「それでは、こちらへどうぞ」
サラザールに案内されたのは、
村の奥にある石作りの大きな神殿のような建物だった。
すると、サラザールは入り口の横で立ち止まる。
「私が案内出来るのはここまでです。中で最長老様がお待ちですので、どうぞ」
二人だけで神殿の中に入ると、中は簡素な造りで装飾の類などは無い。
また、相当古い建物のようで、所々破損も見受けられる。
更に奥へ進むと巨大な祭壇があり、
そこには巨大な白い竜が身体を休めていた。
「あれが、最長老か?」
「サラザールさんより大きいね・・・」
サラザールが竜化した姿も十分に大きかったが、
目の前にいる白い竜は更に数倍大きいようだ。
更に、その存在感にも圧倒される。
今まで様々な魔物と戦ってきたが、そのどれとも違う気配を放っている。
仮に、この竜が敵として現れた場合、到底勝てる気がしない。
ゆっくりと祭壇の前まで行くと…。
「二人共、良くぞ遠い所まで来てくれました。私は最長老の一人、白竜と申します」
「それで何故、俺達をここへ?」
「フフ、そう警戒しなくても大丈夫ですよ。今回二人を呼んだのは、頼みたい事があるからです」
とりあえず、敵対する心配が無いだけありがたいが、
彼ら程の存在が俺達に頼みとは一体どんな事なのだろう?
すると、祭壇の右側から二人の男性が中へ入って来た。
「白竜よ、その者達が例の?」
「見た目はただの人間のようだが、本当に大丈夫なのか?」
「客人に失礼ですよ。この二人は天竜と黒竜といって、同じく最長老です」
二人は人の形をしているが、その存在感は白竜と同じか、
いや、強さだけなら白竜よりも上かもしれない。
「それでは、二人を呼んだ訳をお話ししましょう」
俺達が呼ばれた理由、それはある特別な卵を預かって欲しいという事だった。
竜が卵を産むのは数百年に一度。
しかし、200年前、白竜さんが産んだ卵が、
通常であれば10年、遅くても20年程度で孵化する所が
いくら待っても一向に孵らないのだそうだ。
既に死んでいるのかとも思ったそうだが、
耳や手を当てると、しっかりと強い鼓動の音が伝わって来る為、
そのままずっと温め続けていたのだが、それでも全く孵る様子が無いそうだ。
流石にこのままでは良くないと思い、どうにか出来ないかと神に祈った所、
自分とセティであれば解決出来ると予言が下されたそうだ。
車、壊れたとです…(/ω\)ブレーキは優しく踏みましょう・・・。




