ダンジョン攻略・其の18
この凄い気配の持ち主は、恐らく神様なのは間違いないだろうが、
まずはこの威圧を止めて欲しい。
「神様、この子達が怯えていますので、力を抑えて貰えますか?」
「あら、ごめんなさいね。でも、あなたは平気なのね?」
「凄い気配は感じますが、魔力が無いのでそこまでは」
「ふーん?魔力も無いただの人間なのに、よく平気でいられるわね?ああ、あなたが戦神の愛弟子ね?噂は聞いているわよ。あの馬鹿の修行に耐え、魔界を生き延びた変なのがいるってね」
変なのは余計だが、神界ではそんな噂が流れているのか。
「それで、さっきのスライムは神様の弟子だったんですか?倒しちゃいましたけど…」
「ふふ、安心なさい。殺られる前にちゃんと助けたから。あんなのでも一応、私の弟子だからね。それはそうと、名乗るのが遅れたわね。私は魔神よ、宜しくね」
魔神?それはいつぞやの魔人達の神という意味なのだろうか?
「失礼ね。あんな野蛮な連中の神になった覚えは無いわよ。私は魔法を司る神。彼らが崇拝する偽の神とは格が違うし、比べられたくも無いわ」
心を読まれるのはもう慣れているので何も言わないでおこう。
しかし、字は同じでも、根本的に違う訳だ。
「それじゃ、この勾玉は魔神様が預かっていた物ですか?」
「ええ、そうよ。ただ、普通に渡しても面白くないから、弟子を倒せたら渡そうと思ったのよ」
お願いですから普通に渡してください。
「それじゃ、ここの本当の階層ボスは…」
「そんなの、貴方達が来る前に私の弟子が倒したわよ?邪魔だったし」
階層ボスが何かは分からないが、憐れだ。
「そんな事より、お願いがあるんだけど」
「神殿ですか?まぁ、構いませんけど…」
「本当!?嬉しい、私どうしても美容製品が売ってある「ドラッグストア鈴木」に行ってみたかったの。でも、聞けば美容製品だけの専門店もあるって言うじゃない?良ければテナントもお願いしたいなーって」
魔神様は化粧品や美容品が欲しい訳だ。
あの手はどれも高いから、気を付けて欲しいものだ。
「失礼ね。あの飲んだくれの戦馬鹿と一緒にしないでくれる?それじゃお礼は前払いするわね。その子、セティといったわね。ナギの娘にしてはまだまだみたいね。私の加護を上げるから、もっと頑張るのよ」
「魔神様の、加護?」
「私の加護があれば、あなたはもっと強くなれるわ。もちろん努力は必要だけどね」
セティが授かったのは魔神の加護で、魔法系統の能力が強化されるようだ。
「それから、エース!出て来なさい」
魔神様が出てくるよう呼びかけると、
砂の中から先ほどのスライムがぴょこんっと現れた。
「私の弟子のくせに、あっさり負けてんじゃないわよ!帰ったら基礎から鍛え直しよ!」
「・・・・・・・・・」ぴょんぴょん(歓喜)
「その前に、ここのボスから出たドロップ品があるでしょ?あなたには必要無いものだから二人に渡しなさい」
スライムはぷるぷると震えると、身体から麻布で包まれた物を吐き出し、
目の前に差し出して来る。
「これは?」
「貴方達が来る前に、ここの階層ボスが隠し持っていた物よ。うちのエースが倒した時に手に入れたのだけど、あなたにあげるわ」
「あ、ありがとうございます。それじゃ俺達は先に進みますね」
「何を言っているの?ここが最下層よ?」
何とここが、ロストークのダンジョンの最下層だった。
しかし、エースというスライムは一人で最下層のボスを倒したって事か。
最後のボスは、一体何がいたのか凄く気になるのだけれど…。
「それじゃ私達は帰るわね。神殿と化粧品を楽しみにしているわ」
「了解しました」
「それから、最下層のボスが次に湧くのは大体一週間後だから、待つだけ無駄よ?」
そう言って魔神様とスライムのエースは、霧のようになって目の前から去って行った。
「見透かされていたか」
「ちょっとだけ見たかったね。それで、その中身は何が入っているの?」
「確認してみよう」
巻かれていた麻布を解いていくと、一振りの剣が入っていた。
鞘から抜くと、片刃の長剣が姿を現す。
どことなく刀に似た造りで、鍔が付いていない物だった。
「刀に似ているが、随分と刃が薄いな」
「でも、綺麗な剣だね。鑑定してみるね」
「そうだな、一応ボスから出た物だし、きっと値打ちがある物だろう」
「・・・風の魔剣・バルムンク、だって」
「・・・魔剣?」
※風の魔剣:バルムンク
オリハルコン製
古代のドワーフが、失われた技法で作り出したと伝えられる伝説の魔剣。
風の魔力を秘めており、一振りで相手を複数に斬り刻む事が出来るとされる。
使う者の魔力量で威力が増す為、剣と魔法の両方を取得する必要がある。
「これ、凄い物なんじゃないの?」
「多分、ヤバい奴だな。でも、売れば魔神様の神殿建てる時の足しになるかもしれないぞ」
「そうだね。私は勾玉が手に入ったから満足」
久しぶりに勾玉が手に入ったが、一体いくつ集める必要があるのだろう?
「今頃ナギは、どうしているだろうな」
「そうだね、お母様とお話ししたいな…」
「電話がある訳じゃないからな。ナギの力が回復したら、向こうから連絡があるんじゃないか?」
「うん、そう言っていたけど…。箱庭に連絡取れるアイテムって、売ってないかな?」
「そう都合の良い物は無いと思うが、帰ったら探してみるか」
「うん!」
そう簡単に方法が見つかるとは思えないが、もし仮にそんな魔道具でもあれば、
多少高くとも、セティの為であれば購入してあげたいと思う。




